Lucky Lips 4
「川島君のことなの」
わたしはドキリとした。
まさかみっこ、
『今、あたしたち、つきあってるの』
なんて言い出すんじゃ…
もしかして、それをわたしに言うために、わざわざ空港にまで呼び出しとか?
それは、みっこのことを傷つけたわたしに対する、復讐?
動揺するわたしにかまわず、真剣な顔でみっこ言った。
「お願いだから怒らないで、最後まで聞いてちょうだい。
あたし、こんな中途半端な気持ちのままで、あなたたちと別れることなんて、できない。
最後の整理がつくまで、あたし、帰れない。
あたしの最後のわがままよ」
「最後の… 整理」
復讐なんて、思い過ごしだったみたい。わたしは黙ってうなずいた。
それを見て、みっこは安心したように肩をなでおろし、ひとつひとつ、言葉を区切りながら、話しはじめた。
「あたしがはじめて、川島君に会ったのは…
去年の冬に、みんなでディスコに行ったときじゃないの」
「えっ? どういうこと?」
「多分、それよりずっと前。あなたからはじめて川島君の話を聞いた、『森の調べ』だったと、思うの」
「『森の調べ』?」
「そのときあなたは初めて、あたしに川島君のことを話してくれたから」
「あ。そうだったっけ」
そう言えば…
心の中に、鮮やかにそのときの
アーリーアメリカン調のカフェ。
テーブルに並んだふたつのケーキと、湯気をくゆらせたティーカップ。
窓の外に広がる、茜色の夕焼け。
そんな思い出の景色のなかで、わたしは初めて、みっこに、川島君への気持ちを話したんだった。
高校時代。川島君へ寄せていた想いと、決別。
再会した本屋。
川島君と行った『紅茶貴族』。
別れ際の『さつきちゃん』のひとこと。
もう一度動きだした、恋。
そんな、ささやかだけど、わたしにとってかけがえのない大切な想いとできごとを、夕焼けに包まれた秋のカフェのなかで、みっこに打ち明けたんだった。
みっこも当時を想い出すような遠い目をして、しみじみと語り出す。
「あの頃のあたしは、友だちとカフェで恋の話とかするふつうの日々に、とっても憧れてた。
大学に入ってあなたと出会って、その願いは叶ったけど、友達から打ち明けられる恋って、意外と重いってのに、そのときはじめて、気がついたのよ」
「あは。そう言えば、みっこは自分のことみたいに、わたしと川島君のこと、真剣に考えてくれたもんね」
「そうなの。あたしはいつだって、さつきをとおして、川島君のことを知っていったのよ。
だから、ディスコで会ったときも、川島君とは初対面って気がしなかったし、初めて会った時から、好意を持ってた」
「それって、わたしに感情移入してたってこと?」
「そうかもしれない。でも、実際に会ってみても、川島君はほんとにいい人で、さつきとはとってもお似合いだと思ってた。あたしも、川島君とはとってもいい、友だちに、なれそうな予感がした」
「…友だち」
「さつきは、男女間の友情って、あると思う?」
「え?」
男女間の友情…
わたしは想像してみた。
同い年の男の子がすぐとなりにいた中学や高校時代でも、『友だち』って言えるような男の人はいなかったし、そもそも男の人とは、あまり親しく接したことがなかった。
男の人って、友だちというよりは恋愛の対象で、ざっくばらんに話し合える女の子同士のような関係は、あまり想像できない。
だいたい、わたしと川島君がそうだったように、話しをしていて楽しかったり、趣味や考え方が合う男性とは、自然と友だちから恋愛関係に発展していくものじゃないかな?
お互いに『好意』を持ちながらも、ただの『友だち』としてつきあっていくのって、無理がある気がする。
「あたしは、あると思ってる」
だけどみっこは、そう言い切った。
が、その先の話を続けるのを
「本当のことを話すから。怒らないで、聞いてくれる?」
つづく
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