Rip Stick 7

「ん~。おいしい~!」

ケーキを頬張った小池さんは、嬉しそうに口許をほころばせた。

それを見ながら、みっこは微笑む。

「でしょ。さつきはお菓子づくりの天才なんですよ。こないだあたし、手作りケーキ食べさせてもらって、思わず泣いちゃいました。あんまり美味しくて」

「みっこちゃんも大袈裟ね~。でもそれ、わかる。空腹にこのケーキは、天使からの贈り物だわ。ありがとう、さつきちゃん」

「いえ。わたしこのくらいしか、できることないですから」

そう言ってわたしはみっこを見た。ケーキを口に運びながらわたしと目が合ったみっこは、ニッコリとうなずいた。

やっぱりみっこって、すごい。

あの時のみっこはすごく辛かっただろうに、それをすぐにこうやって冗談ジョークにして、笑い飛ばすことができる。

わたしなんて、いつまでもいじいじ考え込んでばかり。

みっこのこういうとこ、見習わないとな。


「森田さ~ん。面会よ」

そのとき楽屋の入口から、みっこを呼ぶスタッフの声がした。

席を立って楽屋を出て行ったみっこは、両手一杯の真っ白な薔薇とかすみ草の花束を抱えて、すぐに戻ってきた。


「わぁ! すごい。きれい!」

「どうしたのみっこ? 面会って、だれだったの?」

彼女は薔薇の花束に顔をうずめ、香りをかぐように瞳を閉じて言った。

「お祝いだって。上村君から」

「上村君?! あのときの?」

「そう。去年、学園祭の夜に、あたしをフォークダンスに誘ってきた高校生」

そうだった。

去年の学園祭の夜。みっこにフォークダンスを申し込みにきた男の子。

みっこがナンパされるところは何回か見たけど、彼女がはじめて誘いを受けた男の子だったから、印象に残っている。

みっこの口から上村君の話しを聞くことはあまりなかったけど、今でも繋がってたんだ。


「そう言えばナオミ、カツくんとはどうなったの?」

花束を抱えたたまま、みっこはナオミに訊く。

『カツくん』って上村君の友だちで、ナオミがその日の夜にエッチした男の子だったわね。ナオミからはすごい話を、学園祭のあとに聞いたっけ。

「カツくん? ああ。カツくんかぁ。いろいろ大変だったのよぉ~」

「大変?」

「半年くらいは、なんとなくつきあっていたのよぉ。セフレっぽかったけど」

「セフレっ?!」

「高校生のセフレかぁ。ナオミもパワーもらえそうですね」

ナオミの大胆発言に驚くわたしのとなりで、ミキちゃんは『よくあること』って顔で、ケーキを食べながら言った。ナオミのこういう性格には、長いこと友達やってる彼女はもう、慣れっこなんだろな~。

みっこも涼しい顔で言う。

「上村君からも、ナオミのことは聞いてたわよ。なんか、すごい話が多くって、びっくりしちゃった」

「やっぱり、若いっていいよね~。もう、『どこででも何回でもやれる』って感じぃ」

「まだ高校生だもんね。やりたい盛りよね」

そんな…

みっこもあたりまえのように応えないでよ。

『どこででも何回でもやれる』ってとこに、突っ込んでよ。


ナオミは嬉しそうに続けた。

「『三井グリーンランド』の大きな観覧車のなかででも、エッチしたことあるのよ。もう眺めが最高で、よかったなぁ~」

「え~? ナオミ、人に見られたらどうするの?」

思わずわたしが突っ込んでも、ナオミはまったく動じない。

「なに言ってんのさつきちゃん。『人に見られるかもしれない』っていう、スリルがいいんじゃない。他にもいろんなとこでやったなぁ~。真っ昼間の公園とかデパートの屋上とかエレベーターのなかとか。走ってる電車のなかでやったときは、もうちょっとで見つかる所だったわ。ううん。見られてたかも」

「ちょっとナオミ。ショーの前にそんなウズウズする話、しないでよ。ステージに立てなくなっちゃうじゃない」

「あははは。ごめん、みこちゃん。相変わらず男日照り?」

「もうっ。いいのあたしは。さつきとは違うんだから」

「えっ。みっこ、なんでわたしに話を振るわけ?」

「さつきちゃんも、カメラマン志望の彼氏とラブラブだってね。いいわねぇ~」

「そんな… ナオミはモテるからいいじゃない」

「ダメよぉ。あたしに言い寄ってくる男って、おっぱい星人ばっかり」

「とか言いつつ、ナオミは胸元を強調した服が好きですよね」

「だってぇ~。自分の魅力はフルに発揮したいしぃ」

「まあまあ。それはいいから」

そう言ってナオミの脱線エロトークを遮り、みっこは話を元に戻す。


つづく

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