Episode 27 【御飯 NO】

デザートイーグル.50AE


 それは夢とロマンが詰まった自動拳銃。世界的にも絶大な人気を博し、ハンドガンの中でも50口径と圧倒的な火力が約束されている。

 現状、販売されている自動拳銃の中でも最強クラスな威力な上にあの完璧なフォルム。これさえ完成してしまえばこの世界には敵は居なくなくること間違いなしの一品である。


 恰好良さから見れば、44・マグナムでも良かったのだが、リロードの不便さを考慮して、こちらにしようと現在図面を執筆中である。

 スピードリローダーを採用しようとも一瞬考えたが、凶悪なモンスターの目の前でそんな事やっていたら確実に殺されることは目に見えている訳で。


 実際、俺ははかなり銃が大好きな事も相まって、設計図を描くことはそこまで苦では無かった。.50AE版は全長269mm、全高149mm、重量2,053g、とそこまで分かって居れば正直、後は紙に丁寧に描いていくだけだ。


 まあ一応、実証実験も含め正式に完成するのは大分時間が掛かりそうだが……。


 俺が部屋の中で机に向かい熱中していると、またしてもルームメイトの竜の神ヒュドラがこちらに興味を示した様でにょろにょろと詰め寄って来た。


 来なくていいよ~。邪魔されると困るんだよ。



「クロトお絵かきしてるの~?」


「あー。」


「いいなあ。いいなあ。」


「あー。」


「あたしもやりたい!」


「あー。」


「ほー。あんちゃん若いのにデザートイーグルなんて知ってるんやな~ウチはS&W M500が好きやけどな!」


「あー。」



 そこまで言うとまた巨大トカゲは自分の寝床にのそのそと帰って行く。



「あ!? 今何て!? 今何て言った!?」



 いきなりの世界最強と謳われているリボルバーの名前の出現に驚きを隠せない。なぜお前がそれを知っている!?

 新しいキャラクターの登場などという、どうでもいい事はこの際このトカゲには十分予想出来ていたことだし放って置くと事にする。


 ヒュドラは俺の質問に反応する様に振り返った。



「あたしもお絵かきしたい!!」


「いやお前じゃねえよ!!さっきの方言の奴だよ! なんで知ってんだ!?」


「ウチ? そりゃ神やし。そっちの世界でも召喚されとるし。」



 その台詞に驚きながら目をキラキラさせながらクロトは方言の首にヘッドロックをかまし、自分の故郷を知る者の登場に喜びを隠せない。


 まじかよ! 嬉しいなおい! この世界で一緒に銃について語り合える奴に出会えるとは!

 いやちょっと待て。あっちの世界で召喚……? そんな事ありえるのか?


 俺の生まれた世界は科学の世界のはずなんだけど。もしかして今までいた世界も実はこんな頭の可笑しい世界だったのであろうか?


 めちゃくちゃ気になる。めちゃくちゃ気になるのだが、聞きたくない。実は今まで生きていた世界には怪物とか魔法とか普通にありましたよ? なんて言われた日にはもう立ち直れないかも知れない。


 少しの間を置いてクロトは苦渋の決断の末、その疑問をあえて聞かないことにした。



「まあいいや! じゃあ一緒に協力してくれよ!! デザートイーグルがどうしても欲しいんだよ!!」


「なんでウチがそないな面倒な事せなアカンのや!」


「毎日昼寝しかしてねえんだから別にいいだろ! ケチ臭いこと言うなよ!!」


「いやまあ確かにそうやけど……。」


「はい決まり!! お前も俺の特殊装備部隊に入れてやっから!」


「そんなん入りたないわ!!」



 その日は夜まで拳銃の話で盛り上がり、他の召喚獣たちの睡眠を妨害した事は言うまでも無く夜は更けて行く。


 古より伝わる九つの頭を持つ竜の神ヒュドラ。怠惰の竜の九つの声を聞いた者にまつわる伝承は、まだこの世界には響いてはいない。


 だがヒュドラ自身、それを誰かに話すことは無い。例えそれが自分を召喚した術者であっても。

 この世界の誰よりも人間の醜さを知っているからこその、その怠惰の意味すらも。


 未だかつて辿り着いた者はいない。

 竜が長い時間を掛けても叶えられないたった一つの願いに。




♦♦♦♦♦




「ふああぁぁ……。」


 大きなアクビを掻きながら少しずつ意識を覚醒させていく。昨日夜遅くまで、自動拳銃の設計図を製作していたので寝不足を隠せない。


 まあ設計図を書きながら無駄な雑談を多く挟んでいたので時間が掛かってしまったのだが……。


 まだ冴え切らない頭を無理に起こそうともせず、程よい肉質の抱き枕をより強く抱きしめた。



 「う~。苦しいよクロト~。」



 最近は異世界生活による慣れからの抱き枕にされている巨大トカゲのヒュドラが抱きしめられた拘束感に不満を漏らした。だがそんな事をこの俺が今更、気にする筈も無く特に力を弱める気も無く、それでも更なる睡魔から勝手に力が抜けていく。


 このルームメイトの性別がメスという事実はもはやそれほど気にはしていない。というか、トカゲがオスだろうがメスだろうがどちらでも良い訳なのだが……。


 更なる睡魔に誘われながらも窓から強く照り付ける陽の光に脳の覚醒を余儀なくされた。


 仕方がない起きるか……。


 重い体を起こし昨日作業していた机に目線をやると意外にも白髪の少女が背を向けて座っている。昨日俺が書き終えた設計図を眺めているようだ。



「お前何やってんの?」


「やっと起きたのね。いつまでもぐーたら寝てるんじゃないわよ。」



 いきなり来ておいて五月蠅い奴だなあ。


 それでもこちらにかなりの距離を取っている所を見ると、やはりキキはこのトカゲ神に大分苦手意識を持っているようだ。いやまあ俺も最初は怖かったし気持ちは分かるけども……。だが慣れてみると、これはこれで中々病みつきになる抱き心地なのだけどな。



「んで……? なんか用?」


「ん。まあ暇だから御飯でもどうかと思ってね。たまには奢ってあげるわよ。」


「いや俺寝起きなんだが……。」


「何言ってるのよ! もうお昼よ! いいからさっさと準備なさい!」



 いやこいついきなり何なの? このケチケチ女が俺に飯を奢るとか何か裏があるのだろうか? 逆に怖いな……。


 これ以上文句を言うとまたお仕置きされる可能性も含め、仕方なしに伸びをしながら立ち上がると、その様子を見ていたキキは踵を返すような仕草をしながら部屋から出て行くのを追うように歩き出した。


 照り付ける太陽の日差しが日に日に強くなっていくのを感じるともうすぐ夏の時期が近づいているのを感じながら校内に目を向ける。昼時にも関わらず下校していく生徒の数が目立つ。



「あれ? 今日学校は?」


「今日の講義はお昼までだったのよ。講師達が会議があるとかなんとか。そうじゃなきゃ、あんたと一緒にご飯なんて食べるわけ無いでしょ?」



 溜息を一つ。

 こいつ何なんだよ。どっちなの? 俺と飯食いたいの? 食いたくないの?



「てか何で飯奢ってくれんの? 怖いんだけど……。何企んでんの?」


「失礼ね! 私の事何だと思ってんのよ! あんたがこの前のララとキティの決闘の件で頑張ってたから御飯奢ってあげようかなって、ただそれだけよ!」



 いや頭の可笑しいキチガイだと思ってるよ? そんなテンプレなツンデレを披露されても特にトキメク訳も無く。


 あー、そういえばそんな事もあったな……。ていうか、こいつは俺の事、犬かなんかだと思っているのかな? 芸が上手くいったから御飯あげるわね。みたいなノリだろうか? まあ飯奢ってくれんのは誠にありがたいんだけどさ。



「ちなみにいくらまで? いくらまでオッケーなの?」


「あんた身も蓋もないわね……。別にいくらでもいいわよ。」


「まじかよ! じゃあ高いの行っちゃうよ!? 高いの行っちゃうからな!?」


「さっきは寝起きとか言ってたくせに本当に調子がいいわね……。」



 そんな会話をしながら肩を並べて歩くと気が付けばもう食堂に着いたようだ。もう授業が終わって下校を許されているにも関わらず、食堂はそれなりに賑わっている。いつもながらの行列に並びながら今日のメニューに目を向けた。



今日のおすすめ              2,000G

巨大ブタと野菜定食            2,000G

巨大ブタのハンバーグ           2.500G

ポップラビットのソテー          3,500G


グリフォンの胸肉のシチュー       12,000G




 なん……だと……。巨大ブタのハンバーグが追加されてやがる……。


 食いてえ……。めちゃくちゃ食ってみてえ……。絶対旨いじゃん。この世界の巨大ブタの美味しさは反則級だ。俺が以前、レッドドラゴンに食われずに済んだことも巨大ブタを食ってからは納得がいった程だ。


 しかもその巨大ブタがこの世界では比較的安価なことにも驚きなのだが。しかし今日はキキの奢りという事もあるし巨大ブタにしていいのだろうか? 値段を気にしないでいいと言うのだから、今日こそは夢のポップラビットのソテーに行っていいのでは無いだろうか? いや流石に3,500ゴールドは怒られるかもしれない……。


 だが今日という日を逃せばもうポップラビットのソテーを食べられる日は来ないかも知れない。どうする……? 俺。


 真剣な表情でメニューの前で立ち尽くすクロトを待ちくたびれた様子のキキが催促を促して来た。



「ちょっと……。いつまで悩んでるつもりよ。さっさと決めなさいよ!」


「あーもう! うるせーな! そんな風に言うんだったら遠慮しないからな! ポップラビットのソテーだ!!」


「そう。すいません。ポップラビットのソテーとグリフォンの胸肉のシチューを一つ。」


「あいよー。」


「は!? お前何言ってんの!? 何でお前グリフォン普通の顔して注文してんの!? 信じらんねえ! 目玉飛び出そうになったわ!」



 普通の顔で超高額の注文をするこのお嬢様が信じられない。もしかして毎日そんな良い物を食べているのか? 俺には飯代1000ゴールドしか渡さないくせに自分は当然の様にグリフォン頼むとかどんだけだよ……。


 そんな金持ちと貧乏人の因果に絶望感を感じ打ちひしがれる。



「五月蠅いわね。自分でポップラビットを選んで置いて何言ってるのよ。別にいくらでもいいって言ったじゃない。」


「そりゃ遠慮するだろ! てかそれなら俺もグリフォンがいい! グリフォンにしてくれよ!」


「もう注文しちゃったんだからダメに決まってるでしょう? 食堂の従業員さんに迷惑が掛かるじゃない。また次のときにね。」


「ふっざけんなよおおおお!!」



 食堂にクロトの声が木魂しながら響き渡った。

 辺りの注目を一身に集めているのを気に留めている余裕など今のクロトには当然無い。

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