Episode 17 【悪魔 NO】

「また大変な事をしてしまいましたねえ……」


 クリスティーナは困ったような顔で溜息を付いた。


 学院長室で4人で並ばせられているのだ。俺以外の3人ともしょんぼりとしている様子を見ると、一応は反省しているようだ。


 まあ当たり前だよな。学校の教室内で他の生徒もいるというのに強力な魔法をぶっ放すとは言語同断過ぎる……。


 ここは今後の為にも俺からも重々注意しておく必要があるな。特にこの新しいキティとかいうキチガイ女には特に!!



「ホント、全くだぞ! お前らいい加減にしろよ! どんだけ他人に迷惑かけりゃ気が済むんだよ!!」



 俺がこれから説教タイムに入ろうとするとクリスティーナ先生が口をすかさず挟んで来た。



「なんであなたは他人事の様に言ってるんですか? あなたも問題を起こした人物の一人なんですよ?」


「え!? なんで!?」


「なんで?じゃないです。キキさんを筆頭にこの3人は学院の中でも特に優等生なんですよ? それがあなたと関わってからこんなに連続で問題を起こしているのですから、あなたが原因と考えるのが当然でしょう。」



 は!? こいつ典型的な子供の話聞かないタイプの大人じゃえねか! そんな滅茶苦茶な理屈で犯人扱いされたら溜まったもんじゃない!


 そもそもこいつらが優等生!? ふざけんなよ! そんなん絶対あり得ないだろ! ここはビシッと言ってやらなきゃ気が済まねーよ!!



「おいババアちょっと待てよ! こいつらが優等生!? そんな……」



 そこまで言った瞬間、目の前にいたはずのクリスティーナ先生の姿が消えた。いや消えたのではない、潜り込んだのだ。


 信じられない跳躍力でクロトと自分の間合いをゼロの状態にし、上半身を深く畳み込んだ。瞬間、右足を強く踏ん張り完璧な体重移動からボディーブローを叩き込んだ。




「ヴぉぉおおお!!!!」



 クリスティーナの拳がめりめりと効果音が鳴りそうな勢いでクロトのボディを深く抉り込む。クロトはその場に倒れるようにしゃがみ込み、内臓が抉られる感覚しか感じられない。


 その様子を見下すようにクリスティーナはクロトに視線を送り、さも重要事項を伝えるような口調で言い放った。



「私はまだ23です。」


「……う……そ……だろ……。どう見たって……20代……後半……。」



 そこまで言ったところで意識が内臓を抉るような痛みに刈り取られた。








 パァァアアン!!


 もはやこの痛みに慣れてしまった自分がいるようだ。


 パァァアアン!!


 しょうがない。そろそろ起きるか。


 パァァアアン!!


 ゆっくり目を開き、辺りを見回す。

 キキが俺の胸ぐらを掴んでいる。こいつ不用心だよな。顔が近いんだが。

 お腹の痛みがすっきり無くなっているところを見ると、その横にいる涙目のララが治癒してくれたらしい。



「ああ……どれくらい時間が経っ……」


 パァァアアン!!


「いてえな!! 起きてんだろ!! お前いつも一発多いよ!!」


「あんたがいつまでも、ぐーたら寝てるからでしょ!!」


「ぐーたら!? ぐーたら寝てるように見えたの!?」



 キキは相変わらずこちらの言う事には、ほとんど興味が無いようで踵を返す様にそっぽを向いてしまった。お前まじなんなんだよ……。


 そのやり取りが終わるのを待っていたかの様に、アルテミス学院長が口を挟む。



「兎に角、今回の騒動は注意だけでは済まさんからな? キキ・ストライク、ララ・レイナーレ、キティ・ブレイズ、お兄ちゃんの4名は校則に従って補習を受けてもらう。詳しい内容は追って通達する。以上、解散。」



 ん? 今お兄ちゃんって言った?



 学院長の台詞を聞いてキキが物凄い剣幕で言い返す。



「ちょっと待って下さい! 他の生徒と補習なんてまっぴらごめんです! 一人と一匹で構わないので行かせてください!」


「黙れ。私は解散と言ったんだ。さっさと出ていけ。」



 アルテミスはまるで幼女とは思えない表情でキキを睨め付け、キキもその一言に肩を一瞬びくりと震わせる。他の二人もその雰囲気に気圧されたようで、キキ同様、不満があるようにも見える表情をしまい込み部屋を出ることになった。


 出て行く瞬間にクリスティーナ先生が俺を睨め付けて居た様にも思えたが気のせいだろう。


 学院長室を出て3人が無言でトボトボと歩いているのを見て俺は今一番の疑問に触れることにした。




「……で? お前はなんなの?」


「……。」


「……。」


「……。」


「……いや!なんか言えよ!!」



 綺麗な水色の髪の少女はようやくこちらに気づいて視線を向けて来たようで、実に眠そうな顔をしている。


「……。……ん。」


 それだけ応えると横からキキがすかさず口を出す。



「その子ほとんど喋らないわよ。」


「へえ……って知らねーよ!! なんで俺の事殺そうとしたのか聞いてんだけど!! それは応えろよ!」



それを聞いて少しの間を置いてキティはポツポツと話し始めた。



「……ごめんね。……あれは……私じゃないの。」



 言っている意味が分からない。


 もしかして二重人格なのか?


 クロトが不可解な顔をしていると、キキがすかさず説明したがりな性格を発揮する。



「その子はね、召喚の儀で悪魔と契約してしまったのよ。」


「……え……そうなのか。なんか……ごめんな。じゃああの時は悪魔に乗り移られていたってことか? まじごめん。」



 俺はいきなりそんな重い事情が出てくるとは思わず、キティに対して大きな罪悪感を覚えた。この子がこんな内気なのも、もしかしたらその悪魔の所為かもしれない。


 それどころか、この子は何も悪くないのに俺たちと一緒に怒られていたのかと思うと心臓に重りを着けたかのような感覚に襲われた。


 それを見ていたキティは心無しか口元を綻ばせて首を振り、俺を赦してくれるかのような優しい口調でゆっくりと言葉を紡ぎ出す……。



「ううん……いいの……悪魔が憑依すると……その人間の本性が……出てしまうだけだから……」


「は!? いやお前じゃん!! 私じゃないの……じゃねえよ!! お前じゃん!!」



 キティが眠そうに欠伸をしている。


 なにこいつ! 超アブナイ奴じゃねえかよ!しかも全然悪いと思ってないよ! こいつ!


 俺がギャーギャーと騒いでいるのを遮るかの様にキキが俺の胸ぐらを撫用意に掴んだ。



「ちょっと黙りなさい! これからこの4人で補習のクエストに行かなきゃいけないんだから、そんな程度の事で騒いでんじゃないの!! あんたもちょっとは役に立って貰わないといけないんだからね!! レッドドラゴンの時みたいに役立たずじゃ困るのよ!」


「は!? クエストなんて聞いてねーぞ!! いかねえよ!! こんな面子でクエストなんて絶対行かねえからな!!」


「黙りなさい。ごちゃごちゃ言ってると殺すわよ……」



 どうやらまた俺に拒否権は無いようだ……。てか4人て、ララもいたのかよ……。


 ララは笑顔を一切崩す事無くクロトの死角に立ち続けていた事にようやっと気づいた瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます