Episode 10【定食 NO】

「ほい。飯代。」


 クロトは頭の中で考え事に浸りながら、左手を前に突き出し指をちょいちょいと動かす。


 もちろん今後ララとの関係をどうするかについてだ。


 話に聞けば、結局のところエルフは迫害など受けていないらしい。そもそも、人間よりずっと長寿であり、博識なエルフは人間よりもずっと高位な存在であり、崇められる存在ですらあるという。


 ララに友達が出来なかったり、人に避けられる理由は結局のところ感情が昂ぶった時に魔法を撃ってしまうこと、その時にラスト・ストーリーが発動してしまう危険性があることから周りに人が近づかなくなったらしい。


 てかラスト・ストーリーってなんだよ。こえーよ……。


 もしかしたら俺の異世界生活もラスト・ストーリーでラスト・ストーリーになっちゃうかもしれないよ……



「ねえクロト。そんな当たり前の顔して教室までご飯代貰いに来ないでくれるかしら……」



 そう今まさにAクラスの注目を一身に浴びながら主人に飯代をせびりに来ている。しかも毎日だ。


 Aクラス連中は毎日来ているにも関わらず毎回決まって驚くような注目を俺に注ぐのは一体どういう事なんだろうか? 皆、警戒する様にヒソヒソとひしめき合っているようだ。



「だからまとめてくれって言ってんじゃん。いちいち来るのもめんどくせーし。」


「だめよ。まとめてあげたら無駄使いしちゃうでしょう?」



 こいつ、俺のおかんかよ。毎日1000ゴールドのために取りにくる俺のめんどくささを分かってるんだろうか?まあ最近はララの作ってくれる弁当のおかげで、ヘソクリも溜まりつつあるんだけどな。


 キキから手渡されるコイン2枚をありがたく頂戴していると、後ろから唐突に声を掛けられた。



「クロトさん!!」


「よ、ようララ……」


「今日もクロトさんにお弁当作ってきたんです! ご一緒出来ますか?」



 誰もが魅了されるような甘えたようなその表情に、非常な残念感を覚える。この子がノーマルだったらなあ……。せめてラスト・ストーリーが無かったらなあ……


 後ろからキキが「お弁当もらうなら、お小遣いいらないんじゃないかしら?」という台詞は100パーセント無視しながら、申し訳無さそうにララに弁明する。



「ごめんな今日はちょっと用事があるんだよ。また明日な?弁当はありがたく貰うよ!」


「そうですか……残念ですが仕方ありませんね。」



 悲しそうなララを横目にお弁当だけ貰い教室を後にした。


 そう今日はホントに用事があるのだ。断じてララのラスト・ストーリーにビビッている訳では無い。いやビビるけども。


 それにお小遣いを貰ったのにも当然理由があることを分かってもらいたい! これから為すことのためには、もしかしたら必要経費が掛かってくるかもしれない。


 Aクラスを出て向かったのはクラス札に似たように【CLASS B】と書かれた教室だった。





 教室の中を覗くと見知った顔が一つ。


 もうお気づきであろうユナが、友達と楽しそうに話し合っていた。その姿を確認した後、クロトはまっすぐユナの居場所に向かう。


 わいわいと賑わっていた教室もクロトが入室した瞬間、一斉に静まり返りその様子に気づいたのか、ユナとその友達もこちらに視線を向け、驚いたような表情をした。



「よ。」


「あれー?キキの召喚獣のクロト君だよね?どうしたのー?」



 ユナの友達はクロトの目的がユナと分かるやいなや、そそくさと離れて行ってしまった。この状況にも慣れたクロトは気にする素振りも無いまま会話を進めていく。


 最初は避けられまくるのも結構傷ついたのは言うまでもあるまい……。



「いや、飯でも一緒に食わないかと思ってさ。」



 その一言に軽く教室内がどよめく。ユナも周りが気になるようで苦笑いを浮かべた。



「あはは……急だな~。まあいいよ!食堂いこっかー。」



 食堂に向けて二人肩を並べて歩きだしたのはいいものの、教室を出た瞬間ガヤガヤと騒ぎ出した所を見ると、ユナに大分迷惑を掛けてしまったかもしれないとも思ったが、キキの友達だし気にするまいと開き直ることにした。






 Bクラスを出て階段を下り、校舎の渡り廊下を渡った先に食堂がある。基本的に昼休みの間は大勢の生徒で賑わっており、人ごみもめんどくさいのでクロトは時間をずらしてたまに通っている。


 一般的な定食で2000ゴールドから3000ゴールドという金持ち学校さながらの値段に毎回不満を覚えるが、今日はそんなことも言っていられない。



「今日は俺が誘ったんだし奢るよ。何でも好きなの頼んでよ。」



 既に出来た行列に並びながら空席を探しつつ、今日のメニューに目を向ける。


今日のおすすめ             2,000G

巨大ブタと野菜定食           2,000G

ポップラビットのソテー         3,500G

グリフォンの胸肉のシチュー       12,000G

【期間限定】レッドドラゴンのステーキ  100,000G



 は!? 100000ゴールド!? そんなに持ってる訳無いだろ!?


 てかあのレッドドラゴンってこの前キキと行ったクエストの奴じゃないのか?キキの奴、離れていても俺の邪魔をするつもりかよ!?



 「え?いいのー? じゃあレッドドラゴンで!!」


 「いや良くねえよ!! レッドドラゴンはダメに決まってるだろ!!」


 「えー!なんでもって言ったのに~」



 やっぱこいつ空気読めねーよ! 普通頼む? 初めてのご飯でいきなり10万も奢らせようと普通する?


 クロトの服の裾を軽く掴みながら、あざとい態度に少しイラッとしてしまう。こいつ確信犯だろうな……



「むー。じゃあグリフォンで~」


「お前ちょっと黙ってろ……スイマセン。巨大ブタひとつ。」


「あいよー」



 ユナが横から何やらにゃーにゃー言って来るのをシカトしてもう既に用意されていたかの様な速さで出て来た料理を受け取り、隅の方の人があまり座ってない場所に向かった。



「クロト君頼まなくて良かったのー?」


「ああ、俺弁当あるからさー」



 それを聞いてユナの瞳がキラリと光る。



「え!? なになに!? もしかしてキキが作ったの!?」


「いや、これはララに貰った弁当だよ。」



 それを聞いてさらに驚く様子を見せたユナは、今食べ始めた巨大ブタの肉を喉に詰まらせて、水を勢いよく煽った。


 そんなに驚くことでもないだろう?



「ええ!?ララってエルフのララだよね!?ララ・レイナーレだよね!?」


「そうだよ?」



 ララの作ってくれた卵焼きを頬張りながら、あたかも当然の様に返事をした。



 「ララって言ったらこの国で最も強い魔法を持ってる人じゃない!? なんでそんな凄い人がクロト君みたいなゴミ神様にお弁当作ってくるの!?」


「え? 何なの? もしかしてケンカ売ってる? ていうか、そんな凄くないだろう? ララの事情も知ってるだろう? 時限爆弾すぎるだろう……」


 「でも若干15才で世界最強の魔法を編み出した天才だよ! 世界的に有名なんだよ!? プラマイで言ったらプラス過ぎだよ!!」


「どう考えてもマイナス過ぎだろ!! 一番最強魔法持っちゃダメな奴だろ! てかそもそも、それでもキキ以下だろ? あいつがあんなにダメなのに一番っていうのが一番意味不明だけどな。」


 最後に残しておいた目玉焼きハンバーグを口に頬張りながら、将来の魔法業界に憂うような目つきで溜息を付いた。


「あんなのが若手ナンバーワンとか、もうこの魔法使いの世界の未来は暗いよ。まあ俺ならワンチャン何とか出来るかも知れないけどな。めんどくさいからやんないけど。」



 ユナの顔から驚愕の表情が伝わってくる。なぜかは分からないが、ドン引きしているようだ。


 この子も変わってるからなあ。



「魔法すら使えないのになんでそんな偉そうなの? っていうのは置いといても、何様のつもりなの?」


「まあそんなのはどうでもいいんだけどさ! 今回ちょっと頼み事があるんだよ!!」


「え!? クロト君ってめっちゃ自己中だね!?」


 そう、ここからが本題。今までの会話は前置きでしかない。この子の召喚した精霊が鋼鉄の精霊であるという情報は既にキキから入手してあるのだ。


 しかもこの子はその中でも、かなりレアな能力を持っているらしい。


 そのために今回飯まで奢ったのだ。その話をせずして帰る訳には行かない。



「俺にも魔剣作ってよ!」



俺は目をキラキラさせながらユナに懇願した

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