Episode 7 【エルフ NO】

「なんであーゆうこと、へーぜんとした顔で出来るのかな~」



 帰りの馬車に揺られながら、クロトはただひたすらにキキを攻め続けていた。



「ドラゴン一匹殺すのに宇宙魔法はないだろ。宇宙魔法は。」


ぐちぐち。


「何が、全てを消し去れ! だよ。全てを消したら元も子もないつーの。」


ぐちぐちぐちぐち。


「そもそもおまえ、自分の何がいけないのかちゃんと分かってんの?」


ぐちぐちぐちぐちぐちぐち。


「分かってない! なんにも分かってない! 何が分かってないのか分かんないのが、もう分かってない!」


ぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐち。


「はい! それがもうダメ! その態度がもうダメ! そんなんじゃ一生ダメなまんまだよ? それくらいはわかるよなあ?」



 中身の無い説教に我慢の限界が訪れたのか、ずっと体をわなわなと震わせていたキキは馬車の荷台の壁を遠慮なく叩きながらブち切れた。



「あーもう!! うっさいわね!!!! 次なんか一言でも言葉を発したらメテオディザスター! あんたがやれって言ったんでしょ!! 元はと言えば全部あんたの責任じゃない!」


「はっ!? あそこまでやれなんて言ってねえよ!!お前主席なんだろ? そんな簡単な事もわかんないのかよ…」


「はい喋った! メテオディザスターね!!」



 目をぐるぐると回しながら怒りで自分が見えていないキキに、クロトは先ほど目の当たりにしたメテオディザスターの威力に恐怖を思い出し叫ぶ事しかできない。



「ちょっと待て! ホントに打つなよ!? 落ち着け! 俺はまだ死にたくない!」



 安い賃金で乗れる馬車の荷台には、幸いにも他の乗客は存在しておらず、「他のお客様にはご迷惑にならないよう」というルールを破ることなく騒がしく学園に向かって行った。









 あれから二日が過ぎた頃の夕暮れ時。


 クロトはやることも無く、うろうろと学園の中を散歩している。


 結局レッドドラゴンの報酬は村の修繕費に回され、それでも足りない分はキキの実家に工面してもらったようだ。



 これだから金持ちは……



 自分の責任には一切の目を瞑り、他人の非だけを責めるという実に人間らしい精神に乗っ取り、腕を頭の後ろに回しながら鼻歌にふける。


 結局毎日、飯代すらもケチりまくりの甲斐性のない主人にあきれながら、物思いにふけった。



 新しい主人を見繕った方がいいかもしれんな~。


 とは言っても、ルックスだけは一流なところも捨てがたい。


 むむむ。




 そんなクズさながらの考え事と共に、噴水の際に腰掛ける一人の少女が目に写った。


 ブロンドの綺麗なロングヘアーについ目を奪われ、一歩また一歩と無意識に近づいてしまう。


 まるで妖精の様な風貌をもつ少女は哀しげな表情を浮かべ、頬に一粒の涙が伝う。



 「どうした…?」



 急に声を掛けられた少女は、驚くように立ち上がり涙を拭うと、涙の潤ませた瞳を隠すように笑顔になる。


 ここまで近くに来て、彼女の耳が長く尖っていることに気づいた。



 「変なところをお見せしてしまいましたね……」



 よくある展開の様にも感じながら、クロトはその少女を気遣うように首を傾げ、自分に出来うる最大級の優しい声で尋ねた。



 「何かあったのか?」



 こんな事を聞いても何の能力も持たない自分に出来ることなど、たかが知れていると分かっていても聞かずには居られない。



「いえ、少し寂しかっただけです。私には友達がいませんから……」


「え?……じゃあ俺となるか?」


「え?」



 驚くような目でこちらを見つめる少女。クロトは彼女の耳を見て大体の予想を付けた。


 おそらくこの世界ではエルフはそういう扱いを受けるのだろう…… どの世界にも差別というものは存在する。


 だが異世界出身の俺からすれば、そんなものは全く関係ない。逆にこんな綺麗な子をそんな理由で避けてしまったら俺は一生後悔するだろう。



「よろしい……のですか……?私が近くにいたら、ご迷惑になるかもしません……」


「関係ないよ。てか、友達ってそうやって選ぶものじゃないだろ?」



 その言葉を聞いた瞬間、少女の目から涙がとめどなく溢れ、クロトの手にそっと触れる。


 心臓がドキドキして破裂しそうになるのを必死で隠した。



「エルフの森のララ・レイナーレです。」


「俺は黒野クロト。宜しくな!」



 この世界で初めての友達が出来た。クロトの口元が軽く綻ぶ。


 ちょろいぜ。

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