1章 3人の魔法使い

Episode 1 【異世界 NO】

 断続的に強烈な睡魔に襲われながら、同じ道を同じ速度、同じパターンで繰り返し通り過ぎて行く。


 この行為に何の意味があるのかと究極の矛盾を抱えながら、ゲシュタルト崩壊と戦い続ける。


 MMORPGのレベリングなどそんなものだ。このゲームを始めたての頃の高騰感など、今はもう微塵もない。


 昨日から画面に向かい合って既に28時間が経とうとしていた。


 レベルの表示が既にMAXに到達しているにも関わらず経験値を取得し続けるのはもちろんそれなりのボーナスが存在するからだ。


 立ちはだかる敵を倒す度にEXPFULLの文字が無数に表示される。



 QUEST CLEAR!!



 警戒な音楽と共にリザルト画面が表示される。


 クエストクリア後のアイテム処理を一般的に見れば病的な速度でこなし、溜息をつきながらログアウトのボタンを押した。



「あーねみぃ……このままでは死んでしまう。」



 長い間静止していたにも関わらず、体中がべたついてしょうがない。


 Tシャツと短パンを脱ぎ捨て軽くシャワーを浴びると下着だけの状態でベットに寝ころんだ。


 意識が薄れそうになりながら、忘れていた空腹感を思い出し少し目が覚める、


 そんなループを4回程繰り返したところで気だるげに体を起こした。




 一階のキッチンでお湯を沸かし、インスタントラーメンのビニールをべりべりと剥がした。


 手早く湯を入れると、こぼれないように両手で支えながら二回への階段を一段飛ばしで上がっていく。


 湯を入れてからここまで運ぶのに1分程度しか経っていないにも関わらず、それが当たり前というかの様に麺をすすりだした。


 インターネットの動画サイトを開くと、さっきまでプレイしていたゲームの攻略動画を開き、有名なプレイヤーがくだらない話をしながらプレイしているのを無感情で眺めながら動画がまだ二分も経たないうちに手元のプラスチックの容器が空になってしまったことに呆れ、スープを二口程飲んでマウスの横に置いた。


 意識が途切れ途切れになっていることに限界を感じながらベットではなく、画面が見えるソファーに肘を立てながら横になった。


 意識が刈り取られそうになりながら、気になる画面に視線を向ける。


 もうティスプレイのスピーカーが発する音が何を言っているか理解できないくらいに睡魔に襲われた瞬間、部屋の天井が光に満たされた。








 地面が固い。


 確かに俺は、ソファに横になっていたはずだ。


 石畳のような地面の固さに不快感を感じながらそれでも睡魔には勝てそうも無い。それでも周りの騒がしさにうっとうしさを感じ、しょうがなく瞼を開いた。






「ほえ?」



 目を開くとそこには結構な人数が立っている。

 今の自分の状況が理解できない。見ず知らずの人達が一斉にこちらを向いて何かを話しているようだった。

 その集団の一番前に立っている白髪の少女が自分に問いかけた。



「あなたは神なのですか!?」



 いきなりの意味不明な質問に、今にも睡魔に意識を刈り取られそうな頭で考える。


 まずここは夢の可能性が高い。がしかし、俺は夢を夢と自覚したことが無い。初めての経験に若干の喜びを覚えながら、先ほどの質問に当たり前の答えで返す。


 MMOから始まり、FPS、アクション、スポーツゲーム、パズルなど様々なジャンルのランキングを荒らしまわった俺は、



「神だよ。」



 その言葉は発すると少女は安堵と喜びの表情を隠しきれないようだった。


 こちらはというと、パン1の自分のこの状況に若干の羞恥心を覚える。



 ホントに夢なの?



 人として当然の感覚に不自然な違和感を抱き、軽く自分の頬をつねる。


 痛い。


 だがしかし、夢の中では痛覚が無いという噂が本当かもわからない。まずここは冷静になり仮説を立てるべきと判断し、体をむくりと起こした。


 辺りを見渡すとそこには100人ほどの人間が驚いたような表情でこちらを見ている。見ているというより観察しているという感覚か。端々からひそめきあっている人々は明らかに一般的な服装をしていない。皆、似た服装をしている。年齢は同じくらいだろうか。


 建物は石を加工したような造りになっているとこらからして、日本ではなさそうだった。


 一瞬、脳裏にバカみたいな仮説が横切った。その仮説を確かめるように小さな声を出す。



「今流行りの異世界か過去の時代に飛ばされたかだな。」



 なにはともあれ、この状況をどうにかしなければならないという焦燥にかられ、目の前の少女に話しかけることにした。



「とりあえず、服を貰えないだろうか」


「そ、そうですよね! 少々お待ちくださいませ。」




 少女は軽く頬を染めながら慌てて答えると軽く頭を下げ、後ろの集団の数人の大人に部類する人の輪に入っていった。


 何やら大人たちも困惑している様であったが軽く二、三言かわすと快く受け入れてもらえたようで、少しの時間をおいて皆と同じ制服のようなものを受け取った。



 100人近くが注目している中で生着替えという、なんの罰ゲームかわからないイベントを手早くこなし自分の状況について彼女に問う。



「ここはどこかな?」


「ここは王立魔道学院の召喚の儀祭殿です。」


「……うん。自分の状況がよくわかったよ。ありがとう。」



 少女は期待に満ちた瞳でこちらを見ている。


 俺もその眼差しに応えるように微笑むと。



「じゃあ俺はこれで……」



 早々にこの場から立ち去ることに決め、今後の予定について考えながら歩き出す。


 魔法がこの世界にあるのなら、おそらくレベルやスキル、ジョブ、特殊能力などもあるだろう。そうだとしても、まずやることは金の調達だ。

 金はどの世界においても正義なのだ。この学校である程度、低レベルの魔法を教わってから冒険に出かけるという選択は俺にはない。


 所詮、低レベルは低レベル。時間が経てば結局そんなものは腐るほど手に入る。ゲームの攻略において初心者に一番重要なのは強くなるまで強いやつに寄生することだ。


 これはネットゲームでは蔑まれる行為かもしれないが、いくら否定してもその事実は変わらない。一から頑張るやつと上級者に手助けしてもらうのとでは成長スピードには雲泥の差がありすぎる。


 その理屈から考えれば魔法使いの学生など関わりを持つだけ時間の無駄というものだ。


 たしかにあの白髪の少女は滅茶苦茶可愛かったかもしれないが、レベル1の俺では相手にしてもらえないことも含めると、やはり強くなること優先だろう。ここの生徒だとわかっている以上、強くなってから口説きにくることもできるしな。


 それにこの世界が一夫多妻制かどうかも知らなければ女の子に手は出せない。


 そう、この世界は力が全て!! 限りなく強くなれば、どんな絶世な美女も思うがままなんだから、一番最初に出会った子がメインヒロインとか勿体無さすぎるだろ!!!


 固い意志で最強になることを心に決めて、召喚の儀の祭壇とやらを出るとそこには綺麗な外国の風景にも似た、少し古風とも言える異世界らしい世界が広がっていた。


 両手を挙げ心地よい日差しと共に伸びをする。



「おし、いっちょやるか~」



 この世界は希望に満ち満ちている。キラキラと輝いているこの世界に向けて第一歩を踏み出した。




「ちょっと待ちなさいよ! どこ行くのよ! あなた私の召喚獣でしょ!? 勝手なことは許さないわよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます