第17話 旅立ち


 ――あっという間に、その日は来た。出発の前日、その日の仕事が終わると

 職人達を休憩所に集めギルベルトが言った。

 「今日でケイゴは手伝い終了だ 短い間だったが助かったぞケイゴ ありがとう」

 「短い間でしたが お世話になりました」


 俺はみんなにも頭を下げた。


 「少し前にギルさんには聞いていたんだが…まあ いつでも会えるんだから暇が

 出来たら遊びにこいよな!」

 「うむ……少年… 気をつけてな…」

 「…頑張れよ ケイゴ 帰りたくなったら『トヨスティーク』から トーマス

 さんに乗せてもらって帰って来い」


 ハンス、じっちゃん、ブルーノ それぞれが言葉をかけてくれた。


 「…みんな ありがとう」


 別れの挨拶を終えた俺達は各自帰宅していった。家に着くと何時もと何も変わら

 ないアバナ婆さんが迎えてくれる。


 「おかえり」

 「ただいま」


 俺は、手を洗い食事の手伝いをする。ギルベルトは風呂場の裏にある薪を割る。

 何時もと変わらないまま、食事の時間になった。


 「出来たよ お食べ」

 「おう 飯だ! 食べよう食べようー」

 「いただきます」


 「…ケイゴ 明日だろ?」

 「うん」

 「明日は 蒸かし芋を持っていきな お昼 馬車の中でお食べ」

 「途中 食べる所とか無いんだ?」

 「無いねえ どっかあったかい?」

 「いや 『トヨスティーク』までは街道沿いに 飯食う所は無いな」

 「とにかく 朝ふかしてあげるから 持っておゆき」

 「うん ありがとう」


 俺は食事が終わると何時ものようにベッドで横になった。すると、ギルベルトが

 袋を持ってきて俺に渡してきた。


 「これまでの給金だ 大事に使えよ 無駄遣いはすんなよ まあ…俺が言わなく

 ても わかってるわな ハッハッハッ ……それとケイゴ もし旅の途中で仲間が

 出来たら大事にしろよ……」

 「うん わかっている ギルベルトさん ありがとう」


 俺はベッドから起き上がり深々と頭を下げた。


 「うんうん 身体だけには気をつけてな 少し早いが明日は 一日中 馬車に

 乗って揺られるから結構キツイぞ ちゃんと休めよ 頑張れよ!」


 そう言うとギルベルトはテーブルへ行き酒を作り飲みはじめた。


 (いつか恩返しできるかな……俺…)


 ―― 出発の朝、アバナ婆さんが何時もの時間に俺を起こす

 

 「ケイゴ 起きな ご飯食べて」

 「おはよう…」

 「おはよう ほら 馬車に遅刻したら大変だよ ちゃんとお食べ」

 

 寝起きの俺は外に出て顔を洗いテーブルについた。


 「ギルベルトさんは?」

 「……もう出かけたよ あの子も辛いんだろ 起きてどっか行っちまったよ…」

 「……」

 「さあ 早く食べちゃいな」


 俺は飯を食い、着替えてポーチを巻き玄関を出た。アバナ婆さんは俺を見て

 言った。


 「頑張るんだよ ケイゴ 暇が出来たら必ず顔出すんだよ?」

 「……うん 今まで本当にありがとう…必ず戻ってくるから それまで 元気で

 待っててよ」

 「……うんうん…それまで達者でのう…」


 俺は振り返らなかった……恐らくアバナ婆さんは泣いているのだ…それを見たら

 俺も泣いてしまいそうだったから……


 俺は『カナル』の『厩舎』へ向かった。持ってきた手ぬぐいで汗をふきながら

 歩き続けた。しばらくすると乗り合い馬車が見えてきた。すでに周りに数名、乗り

 込んでる人もいる。俺は『厩舎』で馬の値段を教えてくれた人を探した。

 見当たらなかったので小屋を覗いてみると、客と思われる男から金を

 受け取っていた。


 「おはよう」

 「おお このあいだの 乗り合い馬車の利用かい?」

 「ああ! よろしく頼むよ」

 「あいよ 銀貨五枚だ」

 「ほい 銀貨五枚ね」

 

 俺は銀貨五枚を渡し、番号札をもらった『支払い済み 八番』と書かれていた。


 (もしかして八番目か?もう少し遅かったらヤバかったな……)


 「それじゃ お客さん 馬車に乗り込んでいいよ」

 「ああ ところで道中 飯食う所なんて無いんだよね?」

 「ああ……そうなんだよ 我慢しておくれ 利用者は各自で何か作って乗り込む

 んだよ 悪いね お客さん」

 「いや 念のため 芋持ってきたからかまわないよ でも さすがに休憩は

 あるんだろ?」

 「ああ 昼どきになったら馬車は止めてしばらく休憩さ 馬達にも水やったり

 するしね」

 「オッケー!」 


 俺は、乗り合い馬車に乗り込んだ。馬車の荷台には長椅子が両側に一つづつ固定

 されていて片側に六名~八名が座れるようになっている。ほろが付いていて

 日差しも雨も凌げる感じだ。


 (なんか昔みた映画みたいだな! 幌馬車なんて)


 俺は荷台を一周するように眺めて、空いてた一番端の椅子に腰掛けた。椅子の馬

 寄りはすでに埋まっていた。女三人、男四人、俺を含めて男五人か…


 少し経つと、次の客が乗り込んできた、どうやら夫婦のようだ。四十歳くらいの

 男女、これで十人…残り二人かと考えていた矢先にガヤガヤ騒ぎながら男二人が

 乗り込んできた。どうやら冒険者のようだ、一人は鎧を着ているガッシリした

 男で、もう一人はコートを着ている。コートなんか着る陽気じゃないんだが…

 それよりも冒険者達は酒を持ち込み飲み出した。飲むのはかまわないが酔っ払って

 絡んでこないで欲しい…俺は目立ちたくないのだ。


 「出発しますー! 『トヨスティーク行き』出ますー!」

 お客が乗り込んだのを確認すると、手綱を握る御者ぎょしゃは馬車を走らせた。


 (さらば『カナル』…しかし、魔法陣が見つからなかったら戻ってこなくちゃ…)

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