第16話 厩舎
俺は長島さんの言葉を思い出していた。
『各村や町、人目につかない森や建物の裏といった場所に、指輪と同じ模様の
魔法陣があるはずだ。』そう……帰還するための魔法陣、それを『カナル』の町の
中で探そうと思う。
と、いっても易々と見つからないだろう。『人目につかない場所』と言っている
くらいだ、裏路地なんかを探すのが妥当だろう。
一度、一層に降りる事にした。『迷路』と同じ解き方だ。左手を壁に触れ、手を
放さずに歩いていく。遠回りだが必ず解ける。この要領で魔法陣を見つけよう。
……一層の突き当りまできたが収穫ゼロ 路地の突き当りまでは行けるが流石に
各店の真裏まで探す訳にはいかない……旅立つ前に、お縄になりそうな気がした。
まだはじまったばかり、めげずに続ける。
酒場の路地に入った。空の酒瓶が箱に詰められ二段くらいに積まれている。
(ここも、とりあえず突き当りまで確認しにいくか……)
無い……んー…ここ『カナル』は、俺が倒れていたという洞窟の中の魔法陣しか
存在しないのだろうか……
結局、俺は一層の裏路地を調べるが何も成果を上げられず二層に上がり昼飯に
する事にした。出来るだけ値段が提示されている店を選ぶ事にした。
(食ったはいいが、ぼったくられてはたまらないからな……)
何軒か提示してる店があった。『鳥蒸し焼き 蒸かし芋セット 銅貨八枚』……
少し高いな。次の店は『魚の牛乳入りスープ 蒸かし芋セット 銅貨六枚』これは
美味そうだ!これに決めよう。俺は店に入り注文した。時間にして五分くらい
だろう、注文したスープとふかし芋のセットがきた。蒸かし芋は二つ付いてた。
「はい おまち!」
俺はまずスープを飲む事にした。
ズズッズッ
スープをスプーンで掬い、味を確かめるように飲み込んだ。美味い…野菜
スープがベースだろうか、細かい野菜とぶつ切りにされた魚の切り身が出汁と
なったところに牛乳が入った、とろみが無いサラサラのシチューの様な味だ。
あと二杯はイケそうな美味さだ!蒸かし芋も、しっかり空腹を満たしてくれる。
(美味い!早い!安い!の三拍子が揃っている店 俺の美味いものリストに入れて
おこう)
勘定を済ませた俺は、町の外にあった『厩舎』に行ってみる事にした。旅をする
にしても、全て歩いて移動という訳にはいかないだろし、すぐに購入しなくても
だいたいの金額を把握しておきたかった。
『厩舎』についた俺は馬の世話をしていた人に話しかけた。
「こんにちは」
「やあ こんにちは」
馬にブラシをかけながら『厩舎』の人間が挨拶が返してきた。
「馬を買おうと思うんだけど だいたい いくらくらいするものなんだい?」
「馬か 大人の馬はピンからキリまでだね…金貨七十枚~白金貨十枚と思っと
けば間違いないよ」
(うひゃああ!馬たっかー!……白金貨十枚?…)
「白金貨十枚と言ったら…金貨百枚か……」
俺はわざと、『厩舎』の人を見て確認した。
「ああ そういう事だな」
(まだ硬貨の種類があったのか……白金貨一枚=金貨十枚ね)
「今すぐって訳じゃないんだけどね……そっかあ 結構するね」
「ロバだと もっと安いね 安いといっても金貨二十枚~五十枚だがね」
「馬の半分か……」
「ああ まあ体も小さいし 運べる荷物も馬に比べたらねえ…」
「ありがとう 参考になったよ」
「あいよ」
『厩舎』を立ち去り、町へ戻ろうとした時だ。『厩舎』の隣に立っている小屋の
壁に張り紙を目にした。
『乗り合い馬車 『トヨスティーク』行き 当日着 銀貨五枚 先着十二名』
(これは利用しない手はないな!……五千円で次の町に行けるって訳か)
すでに、硬貨を円で換算してる俺には魅力的な発見だった。俺が小屋の中に
入ろうとすると『厩舎』で馬にブラシをかけていた、おじさんが言った。
「なんだい? 乗り合い馬車かい?」
「ああ! これは何処から出発して何時に出発するんだい?」
説明を聞くと出発は『厩舎』の前で四頭連結の十二人乗りの馬車でだいたい朝の
九時頃に出発らしい、『トヨスティーク』には夕方の五時頃に到着する予定だと
いう。歩いて野宿し、二日~三日かけて行くより断然効率的だ。
『トヨスティーク』からは『エフゲニス』『アインティーク』『カナル』への便も、ほぼ毎日馬車が出ているらしい。その辺の詳しい町の情報はまだわからないが、いずれ向かう事になるだろう。
(次の休みで出発しよう!これ以上、迷惑はかけられない…)
俺は、家に帰りギルベルトとアバナ婆さんに話す事にした。アバナ婆さんは
風呂場で洗濯をしていた。
「ただいま」
「おや? 早かったね どうだい 腰袋いいのあったかい?」
「うん 材質が良かったから これ買ったんだ」
俺は腰につけてるポーチを見せに風呂場の入り口までいった。
「ああ いいじゃないか やわらかそうで」
「うん ギルベルトさんは?」
「その辺に いないかい?」
上から馬小屋を覗いてみると馬が柵の中へ放されている。
「馬小屋かも 見てくるよ」
ギルベルトは馬小屋の裏で荷台の修理をしていた。
「おお ケイゴ 早かったな」
「うん 腰袋と地図を買ってきたよ」
「そっか いいじゃないか それ」
「うん ギルベルトさんにズボンとか買ってもらった店で買ったよ」
「そっか この辺じゃあそこくらいしかないからな ハッハッハッ」
「……ギルベルトさん 俺 次の休みに出発するよ…」
「そうか なんかあったら何時でも帰ってこいよ あとで お袋にも話しとけ」
「うん わかった」
俺は修理の手伝いをした後、アバナ婆さんに話しにいった。アバナ婆さんは食事
の準備をはじめるところだった。
「何か手伝うよ」
「ああ それじゃ風呂場からバケツ持ってきて 食器洗っといておくれ」
「オッケー」
(……なんか伝え辛いな… 食事の時に言うか…)
俺は、旅に出る日をその場では言わず食事の支度を手伝いを続けた。三十分も
過ぎると夕飯は出来て何時ものように皆でテーブルを囲んだ。
「さあ 出来たよ お食べ」
「おう 食べよう」
「いただきます」
俺はすぐに飯には手をつけず、皆が食事を口にした時に話だした。
「…アバナ婆さん俺…」
「…行くのかい?」
話を遮るようにアバナ婆さんは尋ねてきた。息子ギルベルトの様子で察したのか
割と落ち着いているようにみえた。
「うん 次の休みに出発するよ」
「そうかい……身体だけは気をつけなよ いつ帰ってきてもかまわないんだから」
「ありがとう 何から何まで世話になりっぱなしで…」
「何言うんだい ケイゴ 水臭い事言うもんじゃないよ…」
今日は何時もより、ちょっとだけ静かな夕飯になった……
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