第15話 ポーチと地図
―― 今日からからまた、次の休みまで五日間ギルベルトの元で石切場の手伝いを
続ける。トーマスが石を載せた荷台を運び、加工の手伝いをして石を爆破する。
仕事というものは集中してやれば意外と時間は早く経つものだ。高校を退学して
すぐに実社会に出て、働いていた俺にはわかっていた。時計ばかり気にしていると
時間が経つのが遅く感じる。俺は休みの日まで淡々と手伝いをこなしていた。
あっという間に休日の前日だった。仕事が終わり、家で食事が済むと俺はいつも
使わせてもらっているベッドで横になっていた。するとギルベルトが俺に近付き袋
を渡された。
「それ 今までの給金だ 明日は休みだし自分で稼いだ金で好きな物でも買って
きたらどうだ?」
俺はベッドから起き上がり袋を受け取った。金貨が十枚ほど入っていた。
「多くない?」
「いいさ ケイゴは一生懸命手伝ってくれてるしな 旅に行くなら『腰袋』を
買っといたほうがいいぞ 俺も使っているが金や貴重品を肌身離さずって事だ」
「そっかあ…袋に金入れて旅できないもんな ハハハ」
「そういう事だ ハッハッハッ 明日ゆっくりして 明後日からまた頼むぞ!」
「ああ ありがとう ギルベルトさん」
次の日、俺は『カナル』へ出かけた。歩きなので距離はあるが、自分の稼いだ
金を持っているせいだろう、足取りは軽かった。
(まずは見栄えのいい『腰袋』ポーチを買おう 袋に金を入れてフラフラしても
いられないしな。他には…旅に出るんだから、やっぱ『地図』が欲しいな)
俺は『カナル』までの道中、欲しいものリストを頭の中で思い浮かべながら、
見えてきた『カナル』の町を目指し歩き続けた。
町についた俺は、まずポーチを探しに二層へ上がった。真っ直ぐ突き当たりの
衣料店へ向かう事にした。以前、服とズボンを買ってもらった店だ。結局その時は
婦人服店と、その隣の服とズボンをギルベルトに買ってもらった店だけで端の店に
は入らなかった。今日は、前回入らなかった端の店から入る事にした。
店に入ると小物売り場を探した。ポーチ類はあったが色が好みに合わなかったり
硬貨が落ちない工夫がされていないものが多かった。俺は、早目にその店を出て隣
の店に入った。店主がいた。
「いらっしゃい おや? このあいだ来た ギルベルトの連れじゃないか?
今日は なんだい?」
「こんにちわ 『腰袋』を探しているんですよ 硬貨が落ちないやつを」
「それなら 一番奥に何種類かあるから見てみなよ 色は地味だけど硬貨は落ち
ないよ」
そう言われ、俺は奥のポーチを手に取り確かめてみた。
(素材は皮か? やわらかくて使いやすい内ポケットも付いてて使いやすそうだ)
「おじさん これ下さい」
俺は汚れが目立たない、焦げ茶色のポーチを買う事にした。
「銀貨二枚でいいよ 物は良い物なんだけど色があれで売れ残っていたし…」
(ぶっちゃけすぎだろ……)
「またきなよ 安くしてあげるよ」
「ありがとう それじゃ!」
支払いを済ませ釣りをもらい、その場でポーチを使った。
(うん いいな)
袋に入っていた硬貨も全て、ポーチに入れ店を出た。
(次は『地図』を探しにいこう …何処に行けばいいんだろう……)
置いてそうな店を、一軒一軒見て回ったが……置いてない。困りながらも『地図』
を探し歩き続けていると、変な店主がいる貴金属店の前にいた。
その時、隣の冒険者組合から貴金属店に雇われている冒険者がドアから出てきた。
「よう! この間の 今日も買い物か?」
俺を覚えていたようだ。その冒険者に『地図』を探している事を告げると
「ちず? ちずって何処に村とか町があるって あの地図か?」
「うん 近々必要になるんで地図が欲しいんだ」
「地図なら中に売ってるよ?」
「え? 冒険者組合に?」
「そうだよ 何に使うんだ?地図なんか …まあいいか買ってきてやるよ」
「えっ?」
「どうせ『冒険者登録』なんかしてないんだろ? 登録してりゃ割引して
くれるんだよ 一緒にこいよ」
「あ…ああ」
俺は冒険者について組合に入っていった。
「しっかし 何も知らないんだな お前 俺の名前は フレディ お前は?」
「俺は ケイゴ」
「ケイゴか 俺はお前が心配になってきたぞ 事情があるとは思うが色々と物を
知らなさ過ぎる……」
「まあ……事情あるから」
「地図を売ってくれないか? はいこれ 証明書だ」
フレディは受付で、冒険者組合発行の身分証明書を提出してた。
「はい 公国地図でいいのね?」
「ああ かまわないよ」
「銀貨一枚と銅貨三枚ね」
「はいよ」
フレディはカウンターの下から手を出して金を要求する。
(そうか 俺の代替してるのがバレるとまずいのか……)
俺はカウンターの下で受付にバレない様に、フレディに銀貨二枚渡した。
フレディは金を渡し、地図一枚と釣り銭、銅貨七枚と自分の身分証明書を受け
取った。
「ついてこい」
小声でフレディは一言言って冒険者組合を出た。俺は黙って、フレディの後を
ついて行った。少し歩くと店に入った。飲食店なのか? テーブルに座り
手招きする。
「ふぅー 代替がバレると しばらく冒険者の仕事できなくなるんだよ」
店の人が注文を取りに来た。
「いらっしゃいませ」
「冷たいの二つね」
「はい」
注文をしたようだが『冷たいの』って冷たいお茶の事なのか?
「ほら 釣りと地図」
確かに銅貨七枚ある。
「ありがとう」
「いいよ 気にするな その代わり黙っとけよ?」
「ああ 誰にも言わないよ それとここの代金は払わせてくれよ お礼がしたい」
「そんな気にするなよ! 少しばかり安くなっただけだ ハハ」
「フレディ 冒険者登録って何が欲しいんだ?」
「簡単さ保証人一人いればいい ただ保証人は自分で商売したり身元がはっきり
している人じゃないと駄目だな なんだケイゴ 冒険者になるのか?」
「……いいや 俺は冒険者にはならないよ」
「おまちどうさま」
『冷たいの』の正体は『冷たいお茶』だった。
「まあ 冒険者もそれなりの[体力][力][魔力]があれば稼げるんだけどな 危険も
付き纏うから一人で行動するのにも限界来るし……悩み所だな その辺は… 俺
みたく店と直接契約してないと過疎地に『常駐依頼』が回ったりで新人は大変だ」
「常駐依頼?」
「ああ 新人冒険者は仕事が無いと半強制的に 過疎地に数人で村の警護なんか
やらされるのさ たまんないだろ 良い事ばかりじゃないって事さ」
「なるほど……ただ身分証明書を与えて遊ばさないようにしてるって訳か」
「そうだろうな 特典が欲しけりゃ働けって事だろ ハハハ」
「ところで『カナル』には『宿』はあるの? 泊まるところ」
「ああ あるよ 安いところで銀貨三枚かな 高いところだと六枚取られるぞ」
(なるほど……『異世界』の単価が少しだけ分かってきたぞ)
「そうなると……『冷たい』のが一杯 銅貨二枚か三枚ってところ?」
「ああ 銅貨二枚だ どうした?」
(やっぱり……銅貨一枚百円 銀貨千円 金貨一万円って考えればいいのか!)
「いや参考になったよ 支払いはさせてくれよ」
(今回は冒険者の事を少しだが情報が取れた かなり有意義だった)
「ありがとう フレディ 俺行くよ」
「ああ 気をつけてな! また何かあったら尋ねてこいよー」
俺は銅貨四枚をテーブルの上に置き店を出て、町を一回りすることにした。
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