電脳歌姫の歌声

作者 板野かも

117

42人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

BGM:「ラインアート」-wowaka Feat.初音ミク-

 私たちは、心の底で欲しがっている。
 望んだ未来がつかめなくても、羽ばたける翼を。
 意識が消えてしまっても、残る自らの意識を。
 恒久に失われない、日々と安楽を。

 だからきっと自らを羽ばたかせる物語を紡ぐのだろうか。あるいは、自らの手を取って羽ばたかせてくれるものを求めるのだろうか。

 でも、人間の意志が介在するものは弱いのだろうか。大抵のものが光を抱いて誕生し、そっと消滅してしまう。そうデザインされているように。ある意味身勝手で、でも俺は許しがたさを感じられなかった。

 そんな人々と、「自分」の思い、そして『もう一人の自分』に翻弄された少女の話......。


 俺は、革新的な作者の手法に驚かされる。読者は、誰の視点でこの物語を見つめるのだろう。俺は、誰にもなれなかった。それなのに、俺は没入してしまう。その理由を探してみるといい、俺の答えは、上に述べたとおりだ......。

 作者の他作品にリンクする場所、そして私たちの現実にリンクする様々なキーワードで埋め尽くされていて、興味をそそられるような仕掛けは巧みだ。
 そしてSF的な恐ろしさと希望と、ファンタジックな残酷さと優しさを内包した、心地よい読後感に満たされる。

 だがこれは物語の入り口にすぎない。そんなお話です。

★★★ Excellent!!!

地の文を排した会話劇の作品なのですが、驚くほどその世界観が鮮明に構築されています。

会話劇でSFの世界観を作り上げている文章の巧さはさすが。

この作品には二人の美音が登場します。
かたや、残り少ない生、つまり消滅を担う美音。
もう一方はこれから世界に生まれ出る、いわば誕生を司る美音。

二人の美音は互いにクロスオーバーしながら、いつの間にかその存在が入れ替わります。
その描写に、どこかSF的な怖さが潜んでいます。

AI技術が進歩しつつある現代。
この作品の美音のような存在が生まれる日も、そう遠くないのかもしれません。

★★★ Excellent!!!

AIに希望を託して早逝した少女と、彼女の遺志を継いで成長を始めたAIの物語。

この作品は三通りの見方が出来るように思います。
第一に、普通のSF短編としての見方。
第二に、作者さんの既存作「電脳歌姫の誕生と消滅」の前日談としての見方。
そして第三に、赤坂さんの作品との競作としての見方。

まずSF短編として。
先行する「48million」で作者さんが見せた、「無さそうで有りそうな社会の変容」を筋を通して描き切る技量は、本作でも健在です。
なんというか……普通に考えたら有り得ないんですよね。生身の人間の声はおろか人格まで写し取るAIとか。そんな得体の知れないものに人生を託して死んでいく少女とか。
はっきり言ってメチャクチャなんですよ。作中の記者会見のシーンで「倫理的に問題だ」とか「有り得ない」とか言われているように、普通に考えてこんなものがあるはずがない。
しかし、その「有り得ない」と読者が思う要素を、あれやこれやの理屈を付けて、外堀を埋めるように成立させてしまう技量はすごいものです。
特に、技術の発展によって成り立つ部分と、人間の行動原理(身勝手さともいう)によって成り立つ部分を上手く分けて描いているのが面白いです。
このお話、出てくる大人は身勝手なヤツばっかりなんですよねえ。純粋なのは美音ちゃんだけ。
そんな汚い大人達の業が絡み合ったからこそ、美音ちゃんは希望を持って逝くことができたと。ハッピーエンドのようで全然ハッピーエンドじゃない、この毒の混じった感じがいかにもSFだなあと思います。

次に、既存作の前日談として。
作者さん自身がTwitterで言われていたように、この作品を読むと、「電脳歌姫の誕生と消滅」の作中の描写が色々と合点のいく作りになっています。
電脳歌姫の美音ちゃんがやたらとアイドルに明るかったり、機械のくせして故人に思いを馳せたりしているのは、つま… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

アイドルに憧れる、死期の迫った少女。
若くして夢も命も絶たれる運命にある少女に、希望を与えたのは最新のテクノロジーだった。



以前、板野さんがこの作品には様々な仕掛けを置いておいたと仰っていたので、一度物語を読み終わった後にもう一度仕掛けを探しながら読んでみましたが、はたして見つけられたのか…(汗)

まず、一目瞭然にわかることとしては、この作品は地の文がなくて会話だけで成り立っている作品です。しかし、この短い作品の中には10人程の登場人物が出てくるにもかかわらず、地の文がなくてもどれが誰のセリフなのかまったく混同することなく、それでいて説明口調っぽさもなく自然な会話の応酬だけでストーリーが進んでいきます。


また、地の文がない故に人称というものがありません。
それ故、読み手は自分の好きな視点で物語を見ることができます。特に面白いなと思ったのが、一つの作品でありながら二人の『美音』それぞれの視点で読むことができる点です。人である『美音』視点で読んでいくとこの物語は「失っていく」物語になるのですが、AGI(汎用人工知能)としての『美音』視点で読んでみると、これは「獲得していく」物語なんですよね。その事象の表裏一体さを同じ文章の中で体験できる……これは面白い体験だなと思いました。


そして、さらに素晴らしいと思ったのが、物語です。
この物語には、『美音』の失っていく物語という側面を色濃く持っているにもかかわらず、そこに悲壮感があまりありません。赤坂パトリシアさんの『君の声がささやいている』で多くの読者が深く感銘を受けたと思われる、残された人の『気持ち』。それがこの物語ではあまり出てきません。意図的に削られている、とでもいうべきでしょうか。その代わりスポットライトを当てられているのは、赤坂さんの作品では(おそらく意図的に)語られることのなかった、消えゆく人の『気持ち』。… 続きを読む

★★ Very Good!!

あんまり批評的な目線のレビューはよくないかなぁ、という気もしつつ、でもこの感じたモヤモヤを形にしたいなあという気もちもあり、投稿します。あくまで一意見なのでご了承ください。

また、こちらは筆者の方がインスパイアを受けたという赤坂パトリシアさん『君の声が囁いている』を併読したうえでの感想となります。

めちゃくちゃ怖い小説だなあと思いました。
以下、その理由を述べます。

本作には『君の声が囁いている』がメインテーマに据えた要素が、ほぼ完全に欠落しています。それは何か。

遺された人たちの目線です。

たとえば、今後死んだ愛娘の声が見知らぬ人々の手に渡り、街に溢れることになるであろうご両親の気持ちであったり。
かつてのクラスメイト、友人、あるいは恋人(たぶんいない設定なのでしょうが)であったり。

『君の声が囁いている』が扱い、ある種の問題提起として描いた要素が、本小説ではほぼ書かれずに終わっています。

なぜか。
それは本作が、アイドル小説だからです。

死にゆく女の子が人工知能に声を託し、そして彼女の声は死後も永遠に生き続ける。
そんなアイドル誕生の“神話”に、遺族の気持ちといった水を差すような要素は必要ありません。
だからこそ、これらの描写はあえて省かれました。

でもこれって、考えてみれば怖いと思いませんか。

アイドルは恋愛をしません。
アイドルはトイレに行きません。
アイドルはどんな人とも笑顔で接します。

なぜなら、アイドルは消費者の理想だから。

理想を妨げる不都合な現実は、
そこでは不要なものとして切り捨てなければならないのです。
現実のアイドルでも往々にしてありますよね。こういう話。

そして、ハッピーエンドなはずの物語に感じた妙な薄気味の悪さも、まさにこの点でした。

美音をとりまく人たちの葛藤は、ここでは不要なものとしてカットされています。
その欠… 続きを読む

★★ Very Good!!

板野さんらしい切り口で表現されています。
死が迫った少女。
その声は電脳歌姫として残され、多くの人の下へと届くことになる。その経緯を綴ったお話。

しかし、声は残されても本人はいない。
電脳歌姫はAGI(汎用人工知能)として思考し、生きて行くのだが、では少女本人はどこにいるのか。
本人が声を残すことを承諾し、自分は電子の世界で生きて行くとは言うものの、その声の使われ方の中には本人が望んだものではないものがあるのも確かでしょう。

みんなが幸せになっているように見える反面、どこか後味の悪さを残します。
どこまでが「命」なのでしょうね…・

★★★ Excellent!!!

大好きな歌を歌うため、電脳世界に生き続ける一人の少女。

完全なSFと言うよりは、私たちにとって、そう遠くない未来を描いているように思えた。

会話文だけで構成された斬新な形ながら、読み手を置いていかないわかりやすさがある。
SFが苦手なかたでも、十分に楽しめること請け合いだ。

★★★ Excellent!!!

AGI(汎用人工知能)に自分の声を託すことになった、少女とそれを取り巻く人々のお話。

本作は、すべて会話文のみで構成されている。
ここで、少し考えてしまった。
本作のAGI、美音は自分自身のことをAGIであり、『美音』という人格を自分自身の中で認知していて、それを客観的にAGIの目線から発言することをしていた。もし、これが無ければ。

現在、microsoftの『りんな』やappleの『Siri』などの人工知能らしきサービスが人気である。
私たちユーザーはそれらを『人工知能だ』と分かった状態で利用している。
もし、その前知識がなければ私たちは彼らを人間だと認識していたかも知れない。
チャットベースのやり取り。普段使用しているtwitterでも相手が本当に人間かどうか何て、分からないだろう。そもそも、私個人が他人を『人間』であると証明できる自信がない。何んとなしに、同じだと思っている。
『美音』が『美音』としての人格のみで行動していたら。提供者の彼女が亡くなったというニュースが流れていなければ。
……大衆は少女が生き続けていると錯覚するのかもしれない。

少女は自分のすべてを『美音』に託した。
それは、少女の夢を、ではなく『美音』が少女として生きることを。


地球から火星までワープする装置があって、その装置にトラブルが発生。ワープ装置は人間を分解して、火星で再構築する。
装置にトラブルが発生し、火星ワープした自分と地球に残ってしまった自分がいた。この時、地球に取り残された自分は、火星の自分が生きていくれるからと言って、自分のすべてを託して死ぬことができるのだろうか。
そんな感じの話を思い出した。

……などと色々と考えさせられるお話でした。

あと、やっぱ『お兄ちゃん』、流石だな(笑)

★★★ Excellent!!!

電脳アイドルの声の由来に基づいた短編です。

一人の少女がアイドルを目指していた矢先、病に掛かり心半ばにして諦めた所から物語は始まります。

現代のテクノロジーが新しい命を吹き込んでいくお話で読みやすいのですが、できれば会話だけでなく描写が欲しかったです。

それでも、希望が持てるラストには輝きを見ました。

あなたが知っているボーカロイドにも、ドラマがあるかもしれません。

是非、ご一読を!

★★ Very Good!!

 奇跡のような歌声を恵まれながら、声帯の酷使に起因、もしくはそれを引き金として発症する不治の病にとりつかれた少女が、自分の声を写した人工知能の歌姫にその存在の永続性を託す――。

 それだけ、と言えばあまりにもシンプルな物語。

 印象的なのは死に瀕した少女本人とその写し身である電脳の少女が対話するシーンだ。同じパーソナリティーとして構築されたであろうそのプログラムは、しかしその会話の中ですでに別個の個性を備えつつあるように見える。これは鏡なのか、それとも原本の人格を殺し葬るドッペルゲンガーなのか。

 あるいは、形質と個性を引き継いでいく、子供なのか?

 残念ながらこの作品はほとんどが会話で構成され、作者の意図が真にどこにあるのかを判じることが難しい。

 ただ、ラストのエピソード――量子コンピューターすら旧式に堕した遥かな、遥かな未来に再生される彼女の声。
 そこに、作者がこの短編に託した最も切ない願いが込められているのだと思う。

 美音は、たしかに時間を越えた彼方へと到達したのだ。

★★★ Excellent!!!

少しテーマからズレるかもしれませんが、人を人と定義づける物は何か、を強く思わざるを得ませんでした。
生きたいと願った美音がそれを託した相手はAIで、美音自身が自分を取り巻く人々に対し、そのAIが新たな自分だと宣言したとしたら、それは美音となるのか……?
考えてしまう作品でした。

★★★ Excellent!!!

赤坂パトリシアさんの作品【君の声が囁いている】へのアンサー・ソングという事で、私も双方でワンセットという見方で、レビューしようと思います。

今作では時の流れの中での、機械(特にAI)の進化と、そして人の精神の変化も意識されたストーリーの作りになっています。

先ずこのレビューの大前提として、人間も生き物として自らを取り巻く環境に『順応』していくものだという事を、強く押しておきます。

それ(音声合成)が無かった時代、生み出されたばかりの時代、そしてそれが存在する事が当たり前になった時代では、対する人の精神性も違っているという事です。良くも、悪くも。

今の時代の倫理観では受け入れ難くとも、それが生き物の摂理です。

いや、怖い話じゃないですよ。私は、怖い話は夜トイレに行けなくなる位嫌いですからね。
あくまで、真面目なお話としてね。

人間の美音ちゃんは、機械の美音ちゃんと接した事で、精神性をひとつジャンプさせたのです。私は、ジャンプさせたと言っておきます。他の人が違う印象を受けたとしても、それはそれです。尊重はしますが、関わりはしませんし、議論する気もありません。

そして、機械の美音ちゃんが世の中で当たり前に受け入れられた時代に生まれた子供は、もう現代の人(特に大人と言っておきます)とは、その精神性が違っているのです。人レベルにまで昇華された機械音声にも、恐らく多くの子供は抵抗が無いでしょう。それが、人が永い時を世代を重ねて生きるという事でありますれば。

SFのいうジャンルは、そういう人の心、精神の遍歴を感じるにも打ってつけのジャンルかなと思います。

すいません、関わらないと言っといてなんですが、他の読者様へ少しだけ余計な一言を言います。まあ、たわ言位に思って貰っていいです。

今の時代で生じた自分の感性、精神を大事にしながらお話を読んで、感じるのも勿論尊いです。… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

生と死の境界線は、どこにあるのだろう?
肉体が滅びても、そのトレースした会話が、そして歌声があれば、それは最早死とは言えないのであろうか?

永遠に残る、歌声という名の呪縛。
それは、礎となった者の死の尊厳を踏みにじるものなのか。それとも、尊い犠牲の上に成り立つ、より幸福な概念なのか。
永遠の、死? あるいは、生?
いや、永遠と呼ばれるものさえも、もしかすると、ないのかもしれない。

様々な可能性の境界線上にある、そんな、お話。

★★ Very Good!!

 作者の板野かも氏得意のアイドルと「時を越えて」ものである。この題材は板野氏にとっては自家薬籠中の物なので、さすがに記述に迷いもぶれもない。会話を多用し描写を極力排した表現は、有無を言わせず自分の世界に読み手を持っていく力を持つ。
 声を持ち出すという手法は映画「Diva」で大好きなオペラ歌手のアリアを独り占めしたい少年などによって既に表現されているが、本作には本来近しいものが独占したいはずだった「天賦の声」をグローバルなものとして広める企業が登場する。
声及び話し方、言葉は生きる個人史だ。その点同一素材を使った先行作品、赤坂パトリシア氏の『君の声が囁いている』と似ている。(板野氏も同じ素材を自分流に書いてみたと発言している)
 しかしその「声」によってもたらされる感情のざわめきは性質を異にする。

 夭折した少女の声は個人専用にカスタマイズされる「世界で唯一の貴方の為の」歌手となる。話し相手、慰め主、そのあどけなさと無垢さで様々な需要にこたえるだろう。まさに年をとらないアイドル(idolの本来の意味は偶像である)
その開発技術が過去のものとなっても、愛される基準が移り変わっていても、愛くるしさをまき散らし、あなた好みになる努力を惜しまない。なんという悲劇だろう。

 赤坂パトリシア氏の作品『君の声が囁いている』が英語という言語そのものが秘める階級闘争、個人史を匂わせるものならば、板野氏の作品は創造者コッペリウスのみならず人類が滅びてしまった後も愛されようとするコッペリアの、永遠に終わらない悲しみだ。
 私はこの結末を、自我を持ち集団意識に目覚め、自分たちの権利を主張して集団自殺したロボットの姿で想起した。「火の鳥」のロビタの恐るべき結末に。

 他作品を読んでいない者には、唐突に登場する板野氏の「スターシステム」の人名が理解されにくいのでは、と星二つに留めたが、限り… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

読み終えて、はらりと涙がこぼれました。
登場人物の台詞の掛け合いしかないのに、どうしてここまで感動が伝わるのでしょう。
子役の美音ちゃんと電脳歌姫の美音ちゃん、それぞれがどんな見た目の、どんな女の子なのかすら本文には書かれていないのに、文字通り命を宿したような言葉の並びからは、二人が懸命に「生きようとする」姿がありありと思い浮かぶようでした。
僅かな情報で見事な情景を描き出す、この作者様の本領発揮のような作品でした。