三海の明り

 三海は夕食後、縁側で庭を眺めていた。隣では蚊取り線香が薄い煙を立ち上がらせている。ぷらぷらとサンダルを履いた足を揺らしながら宿題の残りや、明日はなにをするかを考え、そして結局空き地に行くかどうかを悩み始めてしまう。

「夜に言っちゃえばいいんだけど」

 そう簡単には言えないものだ。夜と三海の通う小学校はとにかく生徒数が少ない。各学年両手どころか片手にも満たない学年もある。それがそのまま中学、ともすれば高校まで同じメンバーなのだから下手な真似はできない。

 でもでもと三海が足を揺らしていると庭の茂みが揺れた。

 びっくりして飛び上がりそうになる三海の前に二人の子供が現れる。

「よ、夜に詩音……?」

「し――、静かに」

「なに、してるの」

 指を口の前に立てる詩音に三海が首を傾げる。

「家出してきた」

 夜のぼそっとした答えに今度こそ三海が目を丸くした。しかし三海が声を上げる前に夜が続ける。

「理由は後で話すから三海も一緒に行こう」

「わたしも?」

「一緒に来てほしい」

「行く」

 夜にそう誘われては断れない三海である。すとんと庭に降りて夜と詩音の方へと歩き出した。


「で、夜はなんで家出なんかしたのさ」

 住宅街を抜けて進む夜に詩音が問いかける。三海もなんとなく察してはいるものの、ちゃんと夜の口から理由を聞きたかった。

「母親と喧嘩した」

「けんか?」

「喧嘩っていうか、一方的に怒鳴られて嫌になったから出てきた。帰りが遅いって、なにしてたんだって、騒がれてさ」

 三海はやっぱりな、と納得する。夜の母親が夜に対して過保護であることは町内会や近隣の保護者の間では有名なことである。夜が低学年の頃は遊ぶ相手も母親が選んでいたとのことだった。三海がとやかく言われないのは夜が母親と三海を合わせないように気を使っているからに他ならない。おそらく詩音についても絶対に合わせないようにしているだろう。

「ねえ、それって詩音のせいかな」

「なんで」

「だってさっき詩音が帰ろうとしているの引き止めちゃったから」

 詩音が悲しそうに夜に尋ねる。しかし夜は首を横に振った。

「そんなことない」

「でも」

「ないったら、ない。ぼくの母さんが変なだけだ」

 そう夜は言い切って前へと進んだ。詩音はまだ納得していなさそうだが、夜の後を追う。三海はなにも言わずに二人について行った。

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