とある船頭の話
達見ゆう
☆
お客さん、乗るのかい?乗らないのかい?
え?そこのあんたのことだよ。他に誰もいないのに私は幻に話しているんじゃないよ。
泣いてちゃわからないよ、ほら、料金は税込で600円だよ。本当は値上げしたいが釣り銭がかさむからね。
え?持ってない?そんなこたない、ポケットなり財布なり探りなさい。あるはずだから。
ほら、あっただろ?それを貰うから。ひいふうみい、よし、毎度あり。
じゃ、船を出すよ。
しかし、お前さんは泣いてばかりだね。何かあったのかい?
え?フラれた?彼氏と信じていたのに、自分は単なる浮気相手だったと。付き合って5年も経っていたのに気づかなかったと。それで家を飛び出して海へ向かっていたらここに来たわけかい。
そりゃあんた、男を見る目が…ごほん。運が無かったね。
まあ、お前さんはまだましかもしれないね。こないだ乗せたお客さんなんて、別れ話がこじれてストーカーされたあげくに包丁で襲われたそうだから。いやあ、あれは話を聞いただけでもすごかったね。
別のお客さんはフラれた腹いせに家に忍び込んで電話機に細工して、時報に繋ぎっぱなしにしたというね。電話代が七桁になったらしいが、あとでバレてボコボコにされたそうだよ。
あ、いや、変な話をして済まないね。まあ、下には下がいるってことさね。あんまり落ち込まない方がいい。
さて着いたよ、降りなさい。え?この船はどこへ行くのかって?あんた知らずに来たのかい?
まあ、案内板も読まずにずっと泣いてたから無理もないか。
ここは三途の川って言うんだ。そう、あの世への道。
そんなの知らない?帰してくれ?死にたくない?
悪いね、あんたは渡し賃を払ったし、私は受け取った。契約は成立しているんだ。
まあ、一つだけ方法があって渡りきる前に川に飛び込めば帰れるらしいが。悪いね、私は船を漕ぐだけではなく、夢中になる話をして飛び込ませない役目もあるんだよ。
とある船頭の話 達見ゆう @tatsumi-12
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