第5話 お悩み相談室

男が雑居ビルに

「お悩み相談所」を開いてもう5年になる。男は大学卒業後会社に勤めていたが、辞めてこの相談所を開いた。

大きく儲けもしないが、独身という事も有り毎日の生活には困らなかった。

誰かが口コミを広げてくれて、相談所にやって来る人が一定数おりそれなりにだが繁盛していたといえる。

そして今日も相談所には色んな人が男に相談にのってもらいにやってくる。


「すみません」


中年の男性が相談所に入って来る。

男がその男性に部屋の中央の黒いソファをすすめて自分も向かい合ってソファーに腰をかける。2人の間には一つの木の机が有りそれを挟んで向かい合っている状態だ。


相談所の部屋はというと、シンプルで特段変わったものは置いていない。

部屋の中央にソファと机があって、部屋の隅には本棚と男が使うパソコンデスクが置いてある程度。


男が男性に質問を始める

「初めての方ですよね?」

「はい」

「ではこちらにお客様の情報を記入してもらいます。心配なさらず個人情報は必ず外には漏れませんので、貴方がここにきた事も誰にも知られません」

そう言って男は一枚の書類とボールペンを渡す。

男は男性が記入している間、窓近くのパソコンデスクにかけ読みかけのO.ヘンリー短編集を読む。会社勤めとは違い自営業は自由で良い。


「すみません。この住所は現住所じゃなくて本籍地を書いても良いんですか?現住所を書くのは上から禁止されているので」

構いません、と言いながら渡された書類をソファーにかけ直しながらサッと目を通す。

住所は木星ビアトリックス群2丁目31-20となっている。

職業は地球開発特派員…

男は動じない。

そう。

ここの相談所は2年前くらいから

宇宙人が相談しにやってくる。

おそらく相談しにきた宇宙人が母星に帰りこの相談所を仲間に話したのだろう。それ以来多くの宇宙人がやってくるようになった。最近ではこのように宇宙人側も宇宙人である事を隠さずにやってくる。男は知り合いにこの事を話そうと思ったが、お客の個人情報を漏らすのはこの手の職業で最大のタブーだし話したところでマトモに聞いてはくれないだろう。

それに今では地球人よりも宇宙人の方が相談にくる割合が多く、喋ってしまい宇宙人が相談しに来なくなったら生活ができなくなってしまう


「今日はどういったお悩みで」

「実は仕事の事で…」

そう言うと中年男性に扮した木星人は

堰を切ったように話し始めた。

仕事の愚痴が止まらない正にマシンガントークである。

若い頃から惑星特派員になる為、努力を重ねて一流大学に入りエリートとして頑張ってきた。しかし派遣先はど田舎の地球、自分は地球にとどまるような男じゃない。上司に太陽系以外の派遣先を嘆願した。

自分がやってきた努力、自分のバイタリティー太陽系を出てもやっていける柔軟性。

しかし上司は首を縦に振らず結局地球へ派遣となった。付き合っていたガールフレンドも男性がど田舎の地球へ派遣される事を知ると態度が打って変わって、連絡が来なくなりこないだメールで別れ話を切り出されたという。

彼を愛していたのではなくエリートである彼を愛していたのだろう。


このような話は地球では腐る程街に転がっている。新しくもなんともない。

売れてないアイドルグループみたいに

だれも目を向けないし、だれも興味をそそらない。腐り捨てられ忘れ去られる。もしくはスーパーの惣菜みたいに。半額シールを貼られて閉店と同時にポイ、さようなら。


しかし男は熱心に聞き絶妙な間と表情で相槌を打つ。相談所に求められるスキルはこれだけだ。相談する方も解決策を求めにやって来る訳ではない

ただ話を聞いて欲しいだけなのである。これさえ出来れば後は美味しいコーヒーを飲みながら本を読んどけばいい、ノンキなもんである。


「…なんですよ!…あ、すいません喋りすぎました」

「いえいえ構いませんよ。どうですコーヒーでも?お茶がよろしいですか?」

「お茶をいただきます」

木星人は喋って喉が乾いたのだろう。

コップに注がれた冷たい麦茶を美味そうに飲む。

「特派員って出来るだけ目だない様に過ごさなくちゃいけないんです。決まった友達も作ってはいけないし、同僚も同じ地域に住んでるわけではいですしこうやって愚痴を言う機会が無くって…それに木星との違いもあってストレスを抱えちゃうんですよ」


そう言って残りの麦茶を飲み干すとまた喋り始めた。男はまた相槌を打ち始める、30分たつと木星人もスッキリしたのか最後は笑顔で帰って行った。

所詮悩みなんてもんは吐き出したら楽になるのだ。


結局その日は、木星人1人、冥王星人1人、水星人3人 、金星2人、の相談に乗った。仕事の悩み、人間関係、恋愛関係、お金。どれも判をおしたようである。大きな違いがあるとすれば、生まれた惑星が異なるだけで。


男は相談所を閉めると、近くのバーへと足を運んだ。このバーは相談所から近いのと、マスターが気さくで話しやすいので男は週に何度か通う。


カウンターでビールとナッツを頼むと

マスターに話しかける

「最近仕事が忙しくってさ」

「良いことじゃないですか

商売繁盛なによりです」

男はアルコールが進みにつれてさらに喋る。マスターは話しを聞く。


実はこのマスターも宇宙人。しかも太陽系外惑星。かれも地球へ特派員としてやってきた。しかし男はマスターを宇宙人とは露も思わずベラベラと愚痴を垂れる。


宇宙人は愚痴を聞きながら思う。

(なんだこの惑星はどいつもこいつも

同じ悩みばっか抱えやがって。同じ話しかできねぇのか。あ〜故郷に帰りたいこんなど田舎に来るために特派員になったわけじゃない。帰ってあの子と飲みに行きたい)


地球人と宇宙人。

そこには文明・文化の違いがあるかもしれないが持ってる悩みは大差ない

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