私はこのような歴史小説をあまり読んだことがありませんので、適切な言葉を知りませんが、その上で言いましょう。
とても重厚で、人の息遣いや大地の轟きが聞こえてくる、素晴らしい群像劇でありました。
読み終えたあとの、程よい疲労感と、それを上回る充足感。そして、この物語を初めから思い返し、終わりのその後に思いを馳せるこの時間も、とても心地よいものだと感じます。
さて、具体的なレビューですが。
まず目に付くのは、独特なリズムをもつ、簡潔かつ流麗な文章。
それで織り成される語り出しが、素晴らしい。ページを捲ると同時に、より惹きつける語り出しによって、物語に取り込まれていく。
街路の真ん中に立って、パトリアエを、バシュトーを眺めているような、彼等の隣にいるような、そんな気になりました。
そして描かれていく人々。
それぞれの正義を胸に、それぞれの道を歩みながら、ただ一つの希望を目指し進む者達。
そんな彼等の息遣いを、心臓の音を、血の滴りを、耳元で聞いたような気がします。
彼等の歴史を追って見ているようで、しかし実際は彼等の側で激動を生きた、そんな心地までしました。
これは「人の願いの物語」だと私は感じました。
皆が己の正義のために、怒り、暴れ、悲しみ、苦しみ、戦い、抗い、決意し、そして歩む。
そして、彼等は私達で、私達は彼等なのだと、ふと思いました。
だから私は、この物語を読み、「やはり人は愛しい」などといった考えに至ったのだと思います。
長々と赴くままに書きましたが、最後は簡潔に締めましょう。
素晴らしい、物語でした。
まずはじめにお断りしておこうと思う。私はどうやら、他の読者の方々とは違った見方をしているらしい。であるから、このレビューはあまり参考にならない。それを踏まえた上でお読みいただきたい。
これは、哲学書だ。
作者である増黒氏の思想が、全編に亘って示されている。
それはひどく高潔で、淀みがない。
おそらく作者は、長いようで短い人の世を深く憂いているのだろう。そして、憤っており、なおかつ愛しているのだろう。この作品は、血を吐くほどの叫びである。
架空の国や人々、そして歴史を描く物語として、作者は心の在り方を説いている。
読者と登場人物の間には常に一定の距離が保たれるように書かれており、読者は全体を俯瞰するようにそれを追ってゆくことになる。しかしその実、作者と登場人物、そして作中の「筆者」との距離は非常に近い。すべて同一人物と言っても良い。
描写は淡々と簡潔に、深いところまで踏み込むことはなく、ゆえに感情を強く揺さぶられるような作りにはなっていない(とはいえ、そういった場面がまったくないわけではない)が、それが却って作者の思想を真っ直ぐに伝える効果を生み出しているのだろう。であるから、ここまで支持されるのではないかと思う。
つまりは、「筆者」という存在を通して物語を記述するように見せて、作者が作者の分身である登場人物を語ることで、自分という存在を語っている、そういう熱に、皆あてられるのだろう。
だから、これは哲学書なのである。哲学書としての評価をしている。
この意見には、多くの反論が寄せられることと思う。作者本人からも、心外だと言われるかもしれない。だがあえて断言する。
これは、増黒氏の思想、人生のすべてなのだ。
それを正面から受け止める覚悟があるのなら、読むと良い。
読み終えた後、まるで数年もの時間が経過しているように感じました。
争う二つの国の狭間に翻弄され、しかし自らの生きる糧を見出そうと懸命に疾走り抜く少年と少女。
この二人を主軸に、様々に渦巻く思惑と混迷する……いや、混迷させられた世界情勢が、史記を紐解く形で語られていきます。
綿密に描写された背景と精緻に凝らされた世界観は、圧巻の一言。
架空の物語ではなく、『真の物語』をこの身で体感しているような錯覚すら覚えました。
それを伝え書く作者様ならではの大胆な筆致は、まさに『暴れる風』。
動乱に荒れ狂う旋風を、胸に、五感に巻き起こします。
私の稚拙な言葉では伝えきれませんが、この物語に出会えて本当に良かったと心から感謝した、至極の作品です!
これは、ある国の戦いの記録。しかしそれはまた、一人の青年と一人の少女を軸に描かれた理想の国を、社会を作るための戦いの記憶でもある。
孤児として生まれ、何か大きな自分以外の意思に従って命を受けるままに人を殺めてきた青年「ニル」。
彼が、仕事の中で出会ったのは、数奇な運命をもつ少女「フィン」。
争う二つの国を繋ぐ子として生を受け、精霊を祭るために生きるはずだった少女。
しかし、彼女は自らの意思で「龍の旗」を立て、自らの理想を具現することに人生を賭していく。その傍らには「ニル」の姿があった。
この作品の魅力は、なんといっても国同志の争いや内戦という壮大なものを扱っていながら、その目線は主人公であるニルを通しているため、歴史がうねりをあげて動いていく瞬間を追体験できることにあるのではないだろうか。テンポのよい語り口は、雨音、息づかい、花の香りまで、まるでその場にいるかのように読者に迫ってくる。
かと思えば、この作品は後世の学者がかつての歴史を文献をとおして検証しているという体裁をとっているため、時に時間を超えた極めて客観的な視点も与えてくれる。
その二つの視点によって上からも下からも立体的に歴史の変化を追っていく、なんとも面白い読書経験ができる本作。
貴方も体験してみてはいかがだろう。
つまり、とりあえず読めということです。
まだ最新話にすら追いついてませんが、とりあえず読んでほしいということを伝えたくなりました。
剣と魔法、勇者のファンタジーではなく、架空の歴史を読み解く物語です。
正直に言えば、わたしは歴史小説は苦手です。
なのに、すっかり惹き込まれてしまいました。
その理由は、読んでいただけるだけでわかってもらえるはずです。
ですが、それではあまりにもレビューとしてどうかと思いますので、少しだけ。
ここに書かれていることは、すべて過去のことです。
この筆者がなぜこの過酷な歴史を紐解こうとしたのか、惹きつけられる人物たちが多くいるからでしょう。このひと言に尽きるのではないでしょうか。
架空の歴史とはおもえないほどの緻密に織りなされた物語。
とりあえず、お読みください。