盗人の城 47
タジが周囲のざわめきを感じ取って間もなく、隊列を組んだ騎士団が一斉にこの泉のある地階の一室に向かってくる足音が聞こえ始めた。
「迅速だな」
訓練が行き届いている。
この薄暗い部屋へと続く廊下は決して広くはない。大人が左右にめいっぱい腕を広げれば指先がかすめる程度である。そんな中を、足音は三列縦隊で向かってきているように聞こえた。
細い道を横に三人も並んで足音乱れずに歩ける騎士にも感心したし、同時にそうやって廊下にめいっぱい騎士を詰め込むことで、侵入者を絶対に逃がすまいとしているようにも感じられる。
恐らく後者の方が正しいのだろう。
この泉は、紛れもなく建国の礎となる力を持っており、しかもその力は他国――おまけにその他国とは隣国であり、同時に現在敵対国である――から盗み出した力である。
正確には、エダードが盗み出したものを受け取ってそれを利用したに過ぎないが、正統性の問題を考えればエダードの介在しない物語が語られていることは想像に難くない。
曰く神より真なる王へと譲渡された正統なる力であり、血統である云々。
歴史が曖昧なこの世界のこの社会であるがゆえに、未だそういった偽物語がまことしやかに伝わっていくこともあるだろう。情報は、決して真実だけを語るとは限らない。
だからこそ、この泉は紙縒の国において最奥の秘奥であり、そこには誠忠無比な精鋭を固めて向かわせるだけの理由がある。
何となれば、それだけの精鋭を犠牲にしてでも守らねばならぬものでもあるのだ。
部屋に一番槍が入ってくると、その部屋唯一の入口からゾゾゾと足音を立てて部隊がタジと泉とを取り囲むように広がっていく。
号令すら必要とせず、それぞれが同一の意思を持つかのように正しく配置につく様は、美しさすら感じられた。入口付近を最も厚くなるよう陣形を組んで、長盾を構えた隙間から槍衾が作られる。彼らの能力は、タジの予想が正しければムヌーグの部下だった者達と同等であり、槍衾や隊列を組まずともそれなりに強いはずだ。
そんな個々が、隊列を組み、群となって対峙する。タジが普通の人間であれば、まず勝ち目はない。
というよりも、彼らは恐らく相手がタジであることを知って、そのように対峙しているのだ。
群の中から、良く響く男の声が聞こえた。
「貴様、何用でここへ来た」
貴様と言っているが、互いにその姿形は見えない。問うた男は恐らく部隊長か、あるいは大隊長の位を持っている者かもしれない。威厳と歴戦を感じる声が、石畳の表面をなぞるように届く。
「何用、ってここにわざわざ来る用事なんて、ほとんど一つじゃないのか?」
安い挑発だ、と言いながらタジ思ったが、安い挑発だからこそ、相手が怒髪天を衝くこともある。
何せタジがしていることは、紙縒の国、その頭を土足で踏みつけるような行為なのだから。
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