盗人の城 17
やってきた方向から考えても、騎士が言った入口はタジの入ってきたものに相違ない。すきま風の吹くわずかな亀裂を入口というのだから、おそらく騎士の誰かが、あるいは彼らの主が命令して塞いだのだろう。
聖地、そして神酒。
エダードは神格化されているようだ。
もともと彼女は言い伝えににのみ語られる竜の魔獣だった。それが何の因果かタジと出会い、共感を覚えた。魔獣と人という関係ではなく、個と個の関係として、ある意味で対等な関係をもっていたと言ってよい。不老不死かは分からないが、限りなく不老不死に近い精神をもっているようであり、自身を世界の調整者とみていた。
タジの協力者として紅き竜の姿で人々の前に現れたり、人間の姿となって(実際は竜の姿をした魔獣らしい恰好よりも人の姿の方が本来の姿であるらしい)人の目を忍んで現れたこともあった。
タジに協力する者として紅き竜の姿で現れたことを考えれば、異端と追放したタジに合わせて紅き竜が神格化するなどありえない。魔獣の姿であればなおさらで、人間と魔獣の長き因縁はちょっとやそっとの国の転向では和らがないはずだ。
(いや……)
と、タジは思い出す。
チスイの荒野から虹の平原に代わる事件で、国の一部では魔獣と結託したような動きを見せてはいなかっただろうか。利害が一致すれば、人は長き因縁を脇に置いて、武器を収めた手で握手をかわせるのではないだろうか。
一致する利害が人の魔獣の垣根を超えると言えば聞こえはいいだろうが、裏返せば、利害が一致しなければ例え同胞でも容赦はしないということでもある。もともと人の性格などそんなものだとは言え、それが実際に戦争を引き起こしていると考えれば、いかんともしがたい。
(いずれにせよ、騎士連中に姿を見せるのは得策ではなさそうだ)
その姿もさることながら、事情が事情ゆえに軽々に姿を現すことはできない。エダードが神格化しているという情報を得ただけでも貴重ではあった。
「逃げ道はありませんが……」
考えを巡らせるタジの方に視線が向かう。洞窟の闇に一体化したタジは、気配も完全に闇に紛れさせている。
と、自分では思っていた。
「隊長、あれは……?」
一人の騎士がはっきりとタジを指さしている。それもそのはずで、タジは今、その頭が淡く発光している。身体が闇に紛れても、その柔らかな光は洞窟から見える月の光よりもくっきりと、大きい。
(しまった……!)
息を飲み、顛末をジッと見守るしかない。しかし光球の照らし出す姿がタジの身体をも映していれば、はっきりと不審な何かだと思われるだろう。
「人の顔ほどの大きさに見えますが」
「光苔のことか?あそこまで群生しているのは今は珍しいが、光苔そのものに関してはそんなに珍しくもないだろう」
「いえ、ですがあれは」
「それとも何か?あれがお前には不審者の灯に見えるとでも?わざわざ光らせておく必要がどこにある」
「……失礼いたしました」
それからしばらく見分は続いたが、結局タジは騎士団たちに見つかることはなかった。
足音が遠ざかり、聞こえなくなってさらに用心のためにしばらく時間を空けて、タジは慎重に地面に降りた。
「危なかったな……」
タジの座っていた場所にはとうに温もりもなく、騎士団員の足跡が、そこかしこに残っているだけだった。
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