盗人の城 10
腹を括るしかない、と見張りは思った。
命さえあれば、と生き延びてきた。しかし生き延びたさきに「あれば」の続きを語れるだけの希望も欲望もなかった。
そう思った時、見張りの中の何かが弾けた。
いつまでも保留して、何と無しに生き続けることをやめなければならない。そんな考えが閃光のように頭をよぎる。
次の瞬間、見張りは目の前の何かに対して刀剣を閃かせた。
横一閃。
「悪くない太刀筋だ」
恐らく首に当たる部分へと正確に吸い込まれていく剣筋を、目の前の何かは指一本で止めてみせた。
「ただし、俺はそんな細剣一本でやられるほどヤワじゃない」
「ッ!」
見張りが剣を手放して距離を詰める。
横に薙いだ剣は、何の抵抗もなく止まった。さっきと同じだ。力の流れが全て無効化されて、目の前にいる何かへと吸い込まれたような感覚。
相手が魔獣以上に不気味な存在だということは嫌というほど分かった。
分かってなお、剣撃の後に距離を詰めたのは、見張りの覚悟ゆえだ。
「命を賭して止めるつもりか?」
カラン、と乾いた音を立てて刀剣が落ちる。距離を詰めた見張りの手には、懐に忍ばせていた短刀。柄を持ち、柄尻に手をあてがい、何かに向けて突き立てる。
その身体に侵入した感触はあった。プツリと皮膚を突き抜けて、その奥の肉に深く突き刺さる感触。鋭利な刃物がズブズブと肉に沈んでいく感覚……。
「無駄だって」
しかし目の前の何かには全く効いていなかった。刃が届いていないはずはない。感触もある。しかし傷を負った気配は無い。
「まあ、お前の勇気は評価するよ。勇気なのか窮鼠なのかは知らないがな」
追い詰められて、追い詰められて、追い詰められた先の最後の決断。
「もしお前が今までずっと何かから避けて生きてきたって言うんなら、それは俺を見つけるために生きてきたんだろうな」
目の前の何かの言葉は傲慢そのものだったが、しかしその傲慢を嘲笑できないほどに、その存在は眠りの国にとって、あるいは人間にとって脅威だと思えた。最初に見つけたのが自分だったのは、もはやそれが自分に与えられた使命であるとさえ思った。
「そのまま俺に抵抗し続けるか、それとも協力するか。自分で決めろ。それまで待っていてやる」
その言葉自体が、抵抗が無意味であることの証左でもあった。
少なくとも、目の前の何かは自身の強さに絶対的な自信をもっている。どんな攻撃も彼には無意味だと言わんばかりに。
そして実際に斬撃の効果はない。
見張りはゆっくりと光球頭から身を引く。引き抜いた短刀には、確かにそれはその身に沈んでいたはずなのに、一切の血の滴りも見えなかった。
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