盗人の城 03

 そんな見張りの心など意に介さず、何かは続けて話し始めた。

「どうやら水の流れているところで一番近いところ?に移動してしまったらしいんだが、ここはどこだ?街中の地下水道かなにかか?いや、それじゃああの地下牢の存在を説明しきれないか。騎士が見張りにいる、ということは、城の地下ってところだろうな」

 刃を収めた見張りの腕を強引に掴んで、何かが起き上がらせる。一瞬、体重が全く失われたように感じて、見張りはその力の強さに驚いた。

 それと同時に感じた、何かの手のひらから伝わる妙な冷たさ……。

「合ってるか?」

「あ、ええ?」

「聞いてなかったのか。お前、デデオーロと同じくらい頓馬だな。ここは城の地下かどうか聞いているんだ」

「は……はい」

 答えてよいものかどうか見張りは悩んだが、目の前の何かは嘘や偽りを言っても簡単に見抜いてしまいそうな雰囲気を纏っている。だとすれば、聞かれたことには素直に答えた方がよい。

「……何かあった時は、脅された、って言っておけ。お前としてはその方が面倒がないだろう?」

 その言葉は、見張りの心の内を見透かしているかのよう。どんな風に答えても、きっとこの目の前の何かはその反応から真実を探り出してしまう。反応しまいという気配さえ手掛かりにされてしまうのであれば、あとはその場から逃げ出すしかない。

 逃げ出す見張りなどあってはならず、しかしその場で質問に曝されれば、丸裸にされてしまう。そんな見張りの現状に、目の前の何かは落としどころを与えたのだ。

「眠りの国の城にこんな地下があったとはな。白骨死体、鉄格子牢、地下水道に頓馬な見張り……。形骸化した何かなんだろうが、蔑ろにもできないって感じか」

 何かの頭の中で、さまざまな事情が組み立てられて行っているように感じられる。しかもそれは、この国の根幹に関わり、身分の高い者以外には……おそらく王族にしか関係しないもの……。

 見張りの背中に冷や汗が流れる。

 目の前の何かは、何だ?

「もし、俺があの時に見た幻がこの国の成立に関係しているとして、ならばあの白骨死体の残っている理由は何だ?いや、それよりもこの国のどこかにトライアングルがあるはずなんだ。そっちを見つける方が先決かも知れないな……」

「トラ?」

「ああ、すまん。口に出ていたか。気にしないでくれ」

「いえあの、口に出ていたと言うか……」

「最後にもう一つだけ教えてくれるか?難しい話じゃあないんだ。お前は、タジと言う名前に聞き覚えはあるか?」

 見張りは目を見開いた。

 タジとは、伝説の悪神だ。

 人間に希望を与えた、人の形をした災厄。

 地震より強く、火山より獰猛で、荒れ狂う海より気まぐれ。

 眠りの国に安寧を与えて、最後には全てを放り投げてどこかへ去った……。

「なぜその名前を……?」

「……」

 何かは見張りの顔をジッと見つめた。

 まるで、人間を超越した何かに見つめられているようだった。

 それもそのはず。目の前の何かには顔がなく、人間の頭にあたる部分は太陽のように発光した球状のものが乗っかっているだけ。

 土くれでつくった四肢と体に巨大な光るガラス玉を乗せたような姿。

「何か、恐ろしいものを聞いた、という顔をしているな」

 光球が囁く。火のようにまぶしいのに、熱はなく、ただジッと見張りの様子を伺っている。

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