凪いだ海、忘却の港町 66
コンが人の輪に飲まれている間、暇を持て余したタジの周りに集まってきたのは、腰に褌を巻いた子どもたちだった。
ほとんどがまだ年端もいかない子どもで、しかしその体は誰もが引き締まった健康的な体つきをしている。日焼けした体に茶色の髪。タジの半分ほどの身長しかない子どもたちは男女入り混じってタジの周りを小動物のように駆けまわっている。
「おい、俺は遊具じゃねえぞ」
そればかりかタジの身体をよじ登り、腕にぶら下がりして遊び始める。
外からやってきた者に対してこれほどまでに警戒心がないのは逆に珍しくはある。いくら爪弾きにされた者が寄り集まってできた村だからと言って、外からやってくる人間にそこまで親しくなれるのかというのははなはだ疑問だ。
むしろ爪弾きにされた者達だからこそ、他所からやってきた人間に対して敏感になる方が自然だろう。
あるいは、爪弾きにされた人間の匂いが分かる、ということなのだろうか……。
「おじちゃんはどこから来たの!?ポケノ?アミ?それとも眠りの国?」
背中から肩によじ登り、肩車の形になった男の子が興味深そうに尋ねた。上から覗き込むようにタジの顔をうかがうので、日射しが遮られて男の子の顔は見えない。
「眠りの国だ」
「都会の人なー」
「でも都会の人っぽく見えないんね」
「でも肌白いじゃん」
「肌白いんは皆そうじゃけ」
四方八方から子ども独特の甲高い声が聞こえる。
「ボクはイルークって言うんだ。海に住む大きな動物の名前なんな」
「ウチはペギー。飛べない海鳥の名前」
「ココット……海に浮かぶ朝日って意味」
「ネルトール!川と海の間に生きる美味しいおさかな!」
「いや、美味い魚が名前の由来って何だよ……」
栄螺や鰹が由来と言われて悲しくならない人間がいるだろうか。しかし、当の本人に全く気にする様子はない。この村ではネルトールなる魚を食べるときにこの男の子の笑顔が頭をよぎるに違いない。
「あんら、ずいぶんと子どもらに懐かれるんな」
そうこうしているうちにコンが戻ってきた。その腕には、手桶と一杯の衣類を抱え携えている。
「これか?これはほら、沢にいくからついでに洗いに行くんよ」
大抵はこうして頼まれごともされると、コンは言う。
体についた塩は子どもたちの遊具になっている間にだいぶ落ちたが、その代わりに肌に塩を塗りこめられてずいぶんヒリヒリと辛くなっていた。
手桶を持っていない方の手で子どもたちをじゃらしてタジから降ろす。
「さ、行こうね」
浅黒い肌に真っ白い歯を見せて、コンは笑顔でタジの手をひいた。
……何かおかしい。
そうは思ったものの、タジはその違和感の正体が掴めずにいた。
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