食人竜の村 14

「蒸留酒か」

「あらぁ、タジちゃんはもしかして、お酒は苦手ちゃん?」

「いや、ちょっと不思議に思うことがあってな。この村に迎えられる人は全員この蒸留酒を飲む、と言ったが、それは子どもにも飲ませるのか?」

 アエリとトーイは不思議がりながら顔を見合わせて、それから代表してアエリの方が答える。

「掟だから当然よぉ。子どもも大人もみぃんな、そのクアドールちゃんを飲んでニエの村の仲間入りをするの」

 それを聞いて、タジは飲酒のルールが違うことを理解した。この世界では、酒に関する社会のルールがほとんどないのだ。思えば彼らは神と領主の関係さえもごちゃ混ぜにして、力のあるものに服従していることが窺える。

 彼らに課されたルールとは、人間が作り上げて遵守する法ではなく、力の強いものが弱いものを縛りつけるための鎖であり、鎖の届く範囲において彼らは自由を得ているに違いなかった。

 現実に神の眷属として畏れられる存在がいる以上、その存在に常に脅かされつづけるのがこの村である。であれば、彼らが村長による鐘の音が鳴るまで、家屋の中で冬眠する小動物のようにジッと押し黙っていた理由もタジには理解できた。

「なるほどね」

 ジョッキの中身に映る自分の顔を見つめて、それから一気に蒸留酒をあおった。どこか尖った味。鼻を抜ける風味は初めだいぶキツいアルコール臭がしたが、慣れるとそこに穀物の風味が浮かんでくる。

「これは水で薄めても結構キツいな」

「ちょっと蒸留酒の方を多めに配分していたかも知れません」

 申し訳なさそうにトーイが言った。

「あなたは体が大きいから、てっきりお酒が強いものかと思って」

「トーイちゃんの行為が裏目に出ちゃったのね。もう少し薄めてあげちゃん?」

「いや、これでいい」

「いきなり倒れちゃっちゃ困るちゃんよ?」

「俺の体はそんなにヤワじゃあないんでね。酒が強いからって、負けはしないさ」

 二口で飲み干したタジを見て、アエリは人懐こい笑顔でうなずいた。

「それじゃあ、アタシは残った仕事ちゃんがあるからこれで……の前にィ、タジちゃんにもう一つだけ」

「何か?」

「その服装ちゃんは少しこの村では奇抜ちゃんね。そんなに鮮やかな染色の服ちゃんは、城下町でもなかなか見られないちゃんよ?悪目立ちしちゃうといけないし、トーイちゃんに頼んで、新しい服ちゃんを繕ってもらった方がよいちゃんかも」

 タジの服は、裾やその他一部が焼け焦げているが、ジーンズとTシャツのいつもの服装だった。鮮やかな染色というのは、Tシャツのオレンジ色の事を言っているのだろう。確かにトーイもアエリも、生成りの麻糸で織られた布をまとっている。ジーンズも目立つかもしれない。

「タジさん、私があなたに合うように靴と服と繕いますよ」

 片手を腰にあて、もう片方を胸を叩くようにしてトーイが言った。その自信に満ちた表情は、間抜けにも愛らしくもあった。

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