2-2 翼と角

「お、お恥ずかしいところすみませんでした」

 みんなが一通り食べ終わったところで、フェザニスの女性が口を開いた。

 本当にお腹が空いていたようで、スタイルに見合わずがっつりと食べてしまわれた。空腹時のカレーパワーは恐るべし。

「わたくしはネフェルト・ラズーリトと申します。このたびは介抱していただき、ほんとうにありがとうございます」

 座りながらの小さいお辞儀だったものの、ゆったりと丁寧なしぐさから物腰が柔らかそうだなと思った。

 傷が癒えきった姿を改めてみると、たいまつに照らされる肌は火の色をそのまま返すほど美しく、瑠璃色の瞳と同じ髪には……寝てるときには気づかなかった1本のくせっ毛が目を引いた。

「さてお嬢さん、どうしてあんなところで倒れていたんですか?」

 紳士モード突入のトールは、きざったらしく手入れを怠らないと自負していた白い歯を輝かせながら、ネフェルトさんの隣に腰掛けて微笑みかけている。

 トールの行動に少しは驚いたみたいだけど大人の余裕なのか、目には目を、微笑には微笑みを返している。

「そうですね……人攫いにあって、そこから逃げてきて、行き倒れしました」

 微笑んでいたトールや商人さんを含めた聞き側に回った全員が一瞬凍りつき、ダインやアタシは武器を手に取ろうと動き、ルカと商人さんはアワアワしだした。

「あ、いえ、今近くにはいないと思います。逃げ出してから結構飛びましたので……」

 結構飛んだとは言っているけど、どれだけの間寝ていたのか分からないため、すぐに警戒を解くのも微妙な気がして、再び武器は傍らにおくことにした。

「しかし相変わらず狙われますね」

「そうですね……2回ほど未遂がありましたが、3回目でとうとう捕まってしました」

 商人さんが気の毒そうな顔をネフェルトさんに向け、それに対して苦笑いをしているが、フェザニスの人はそんなによく攫われてしまうものなのだろうか?

 ダインに聞いてみても「俺も疑問に思った」とわからないようで、ルカに聞いても同じような反応だったので見かねた商人さんが「やはりシスターや外国の方は知らないみたいですね」と少し驚きながらも語ってくれた。

「サイペリアの闇市ではフェザニスの方々の羽が鳥の羽以上に高級な羽毛として取引されていると聞きます。そのため時々ウィンダリアでは人攫いが横行していると聞きます。

 それだけでなく、ネフェルトさんのような美しい羽と容姿を持った方は奴隷としても取引されるという噂もありますね。

 私は捕まったりしたくないので、そういうのには手出ししませんよ」

「まぁ、おっちゃんには裏に手を染める度胸はねーな」

 商人さんを笑い飛ばしているトールを横に、ネフェルトさんも笑っているけど、人攫いが普通に横行しているのは極めておかしい状況だと思う。

 そんなことを考えながら眉間にしわを寄せていると、トールがじっとこっちを見ていた。

「な、何?」

「言っとくけど、ホーンドはもっとひどいぞ」

 商人さんと話していたときの柔和な笑顔は消え、真剣よりも何か攻め立てるような冷ややかな瞳に切り替わった。

「角は万能薬や長寿薬の材料、心臓を食べれば若返りの効果があるとかでフェザニスの比じゃないぐらい値段で取引されるらしい。

 また、コウエン国は外交で何か起きるとすぐに鎖国しては国交断絶をポンポン繰り返すため、基本的にこの国の中では見かけることはないから希少価値が跳ね上がり、付き人や奴隷として保有……というより確保してる貴族もいるとかいう噂をある」

「私もカキョウさんが小屋に飛び込んできたときは、すごくびっくりしました。本物のホーンドさんを見るのは初めてで、本当にいるんだ!って心の中で叫んでしまいました、です」

 少し空気を読まないあたりと心の中でというあたりが、ルカらしさなんだろう。

(確かに貿易漁港であるポートアレアでも一切見かけなかった)

 時々、国外が危険になったとか、他国が条約を破ったので貿易制裁を加えるということで渡航禁止するときは確かにある。

 アタシが飛び出した時も、前回の渡航禁止が解除されたばかりだったのに、すぐに海竜問題で国の貿易船団を守る為に貿易の一時的中止と渡航禁止がされる話があったので、チャンスとばかりに飛び出した。

 つまり政府がいう国外の危険というのは、こういった人身売買を中心とした問題ということなんだと生まれて17年も過ぎたのに、初めて知ることになった。

 それまで考えることすら至らなかった危険を認識し始めると、トールとルカの言葉がまるで蛇のように身体にまとわりつき、手は自然と角を握り、体中が日や汗まみれになり、顔から血の気が引いてるのがわかる。

「じゃ、じゃぁアタシって、角とか隠さないといけないんじゃないの!?」

 するとトールはニヤリと怪しく微笑み返してくれた。

 そりゃそうだ。今まで自分は歩く高額商品として、色んなものをさらけ出しながら歩いているわけで、街中で感じていた妙な視線にも納得がいった。

「はうわああああああああ!!!」

 そりゃもう自分たち以外いないのをいいことに、盛大に身もだえした。

 しかし、夜といえる暗さになってきた今、大声を出せばたちまちモンスターの目を引くかもしれないことを思い出すと、即座に口を奇怪行動を終わらせた。

「ま、さっき言った闇市に関する話は主に大陸東部の話であって、交易で人の交流が多い西部じゃ、貿易解禁時にはホーンドの商人も、たまーにだけどいるから物珍しいって程度済むのさ。だから、次の街のモールぐらいまでならそのままでも問題ね」

 一応ホッとしたものの、モールという次の街で何らかの対策を講じなければと胸においた。

「待った、同じ大陸の同じ国家なのに西と東で大きく違うのはなんだ?」

「ダイン君、いい質問だね」

 トールは、この折見せる釣り針に魚が引っかかったかのような喜び方を何度かするけど、何気なく疑問を口に出すダインが面白いんだろうか?

 そんなキラキラした笑顔から発せられる現実は、実にこの国を異様さを知るきっかけとなり、撫で下ろした胸が再び締め付けられるようになった。

 東側と言っているが、正確にはサイペリア国の首都サイペリスがある大陸中央部のことを指し、かつての領土が拡大する前のサイペリア国でいうオルティア山脈を挟んで西と東と言っていた名残からきている。

 東側は王国の首都があると同時に、西側よりも土地が高さが高くなっており、西側を見下すような土地関係になっている。また、オルティア山脈によって分断されていることも含め、自分たちは巨大な山によって守られているという安心と特別感を持っている。

 また、東側は首都が存在するため、保安や国防の観点から首都及び近郊の地域は国によって直接管理されており、居住する為にも国の許可が必要となる。

 許可と言っても基本的には貴族のように功績を挙げて国から下賜されるか、その貴族の生活及び首都機能を維持するために専門機関の審査を経て、商い及び居住を強制もしくは認可されるものであり、両者とも本格的な国の管理下に置かれる形である。

 また、首都の北西、オルティア山脈の最北端にはルカも所属している国教の聖フェオネシア教の総本山、聖都アポリスがあるために、国王及び国教という二重の『お膝元』となっている。

 このように住める人間が限定され、且つ神聖性も高められてしまっている為、東側に住める人間の身分も必然と高くなり、土地柄も相まってか首都及び近郊に住んでいる人々には自然と選民思想が存在してしまっている。

「俺もこの国の人間だけど、正直首都の奴等は嫌いだね。外部の人間は全部見下してる」

 代わって西側は首都へ送る食品や工芸品を生産、交易するなどして生み出す側の土地とされ、東側の人間から見れば自分たちのために働いてくれる身分の低い者たちの土地という認識である。

 また東側と違い土地が国の直接管理や保安・保全等はなく、各街などの自治体単位で全ての管理運用を任されており、基本的に国からの援助行為はない。あるとすれば、生産・物流の機能維持が厳しくなったときに資金注入や治安維持用に軍の一部を派遣する程度である。

「そ、それって見放されながらも、年貢は吸われ続けるってことじゃない」

「そういうこと。この国は中央が維持できればなーんだっていいのさ。そんなわけで、東側に住んでる人間は余計に自分たちが神にでも選ばれたがごとく、選民思想があちらこちらにあるのさ」

 とはいっても、実際に神は消滅してるので、この場合は神の代行者とも言うべき聖フェオネシア教の教祖か、自分たちの事実上最上位に位置する国王ということになるが、特別な存在の近くということには変わりない。

 当然、そんな状態が長年続けば、東側のヒトの意識は自然と西側を侮蔑しだし、選民意識は一層磨かれていく。

「確かに教祖様は特別な方です。枢機卿のような方々も首都の傍や総本山のある聖都にしか住まわれません……。地方で徳を積んだ方は次第に中央へ移住することを強制されると言われます」

 信徒であるルカの証言で、聖フェオネシア教の内部でも中央への集権は強いようだ。

 やがて行き着くところに行き着いた人たちはやがて、物質からヒトへと支配欲が変化し、一部の高官が選ばれし民の権限と抜かしながら王族を炊きつけ、結果として領土拡大戦争を引き起こし、勝者になってしまえば真の天下とばかりに人を漁った。

 そして、それに呼応するように奴隷市が生まれたらしい。

「一応、サイペリス、ティタニス、ミューバーレンの三国が同盟を結んだ際に人権保護の観点から、人身売買を禁止する法律は形として発布されましたが、それは結局建前でしかありません。いまだに、奴隷市は闇市となって表舞台から姿を消しただけで、その魔の手はいつでも伸びているんです……」

 最後に力強くネフェルトさんの言った一言が、蔓延する人攫いの現実を目に見える形にしているようだった。

「さてと、話がかなり脱線しちゃったけど、ネフェルトさん詳しくお話を聞かせてもらえますか?」

 トールの軌道修正に対して、ネフェルトさんはこくりとうなづいた。

「数日前の夜ですが、用事を済ませて帰宅している最中に攫われちゃいました」

「ん? ……自宅はフェザーブルグですよね?」

 トールはやや目を見開いた様子で不思議そうに訊ねた。

 ネフェルトさんの自宅がある旧都フェザーブルグは、崖の上に作られた有翼以外の外敵を侵入を許さなず、また強力な治安維持隊に守られた世界的に有名な街であり、海の向こうのコウエン国にも伝わるほど最強と謳われる都市である。

 ダインやルカも同じように不思議そうな反応をしており、その雰囲気にネフェルトさんはどこか困ったような苦笑いをした。

「不思議そうですが、もう以前の最強都市はありませんよ。戦争で負けてから内部は人権擁護法でボロボロですし、外部は地獄でしかないですから~」

 笑ってはいる。でも明らかに乾いている。

 先にも述べたサイペリアの領土拡大戦争は、今から20年前、隣接する周辺3国へ対し、領土拡大を目的とした戦争を仕掛けた。

 はじめに大陸南部に位置する砂壁の国ラジプトが戦わずして、無条件降伏を受け入れた。

 次に大陸東部に位置する緑陰の国テオドールが全面戦争に突入。同盟を結んでいたウィンダリア国も流れのまま参戦するも、先の戦いもなく温存された兵力とラジプトからの徴兵による物量に押され、敗戦を余儀なくされた。

 終戦後、3国はサイペリアに併合され、国から「地区」へ格下げし、最終統治はサイペリアであるものの、街政としての自治権は与えられた。

 ただし「人権擁護法」の下、戦敗国は自治区外において戦勝国民に対しいかなる権利を主張してはならないと定められた。

 この法律は、自治区内でなければどんな犯罪であろうと無罪放免となる。街の外で人攫いされようものなら、決して相手を訴えることはできない。

 そんな人の最低限の権利するら捻じ曲げてしまう新生の大国に対し、遠く離れていて鎖国を繰り返す国にさえ、情報はデカデカと飛び込んできた。当時は号外が出回り、誰もがサイペリアの行いに恐怖したと今も歴史の教科書にありありと残されている。

「自治区内でも見つからなければとは言いますが、いよいよ物騒になりましたね」

 商人さんが言うのも当然で、自治区内であれば自分たちの人権は尊重され保たれるはずなのに、見つからなければ犯罪は犯罪でなくなり、人攫いもただの失踪扱いにしかならない。

 当然、犯人は無罪放免にして、連れ去れた人は失踪者となり、そこから人が忽然と消滅でもしてしまうかのように、その人の存在を諦めなくてはいけなくなる。

「よーし、事情はわかった。それでネフェルトさんはこれからどうしたいですか?」

 それはさすがに家に帰りたいんじゃないかと思った。なぜわざわざ聞いたのだろう……?

 ネフェルトさんは一通りみんなの顔を見ると、大きくうなづいた。

「厚かましいとは充分わかっていますが、よろしければフェザーブルグまで送ってもらうことはできませんか?」

「それは問題ないね。フェザーブルグは行き先の一つだし。な?」

 アタシ含めて3人とも問題ないとうなづくと、ネフェルトさんが「ありがとうございます」と一礼した。

「それともう一つ」

 にこやかな雰囲気になりつつあったが、急に張り詰めたトールの顔に全員が固唾を呑み、トールの鋭い視線の先にあるネフェルトさんの顔をへ目を移した。

「というかこっちが本題だけど、見ての通りガルムスにホミノスが2人もいるし、それでもいいのかい?」

 一瞬、アタシは? とも思ってしまったが、先程の話から差別による敵対関係ってガルムスとホミノスだけなら、ホーンドのアタシは確かにはずされると納得した。

 しかし、ホーンドもまた狙われている側であるため、本当ならこのメンバーの中にいること自体おかしい事なのだ。改めで気づかされると、知らなさそうだったダインやルカはともかく、トールとはじめて会った時に見たあの目を見開いた不思議な表情にも納得がいった。

 今になってようやく自分の置かれている状況に気づくと、特にこちらをどうこうできるダインやトールが何を考えているのか、今更心にモヤのような不快な感覚が現れはじめた。

 そんなこちらの気持ちとは裏腹に、ネフェルトさんはこちらをニコッと笑った。

「大丈夫です。私を売ろうとする人なら、こんなに手厚く介抱や食事なんてしないでしょうし、そこのホーンドさんを見れば一目です」

 意味は恐らくアタシが安心材料の一つということだと思うけど、その言葉がまるで警戒すらしていなかった自分に対する戒めにも聞こえた。

 ああ、今だとその眼差しも胸に突き刺さる。

 こんな危険な世界の中、アタシは何やってるんだろう……。

 そして疑ってる自分の心のモヤが気持ち悪い。

「オッケーオッケー。それじゃ、ネフェルトさん今後ともよろしくね」

 しかし、話はいい方向へと進み、ネフェルトさんが旅に同行することになった。

 何とか作り笑顔で、みんなに同調するようによろしくと微笑んだ。

「皆さんよろしくお願い致します。一応、魔法を得意としておりますので皆さんの役に立てればと思います。あと、私のことはネフェと呼んでください」

 ニコッっと微笑んだ姿は、女の自分でも見とれてしまうほど天使な表情で、背中の純白の羽が一層天使ぽさを引き立てた。

 前衛3人にシスター1人という、なんとも物理で殴れな一行だったが、魔法使いのネフェルトさん……もとい、ネフェさんが入ったことで一気にバランスがよくなり、今後の旅の不安点もかなりなくなった。

 しかし、この引きつった笑いはトールに見透かしたようにこちらをじっと見た後肩で笑った。

「よし、今日はもう寝ようか。ダイン、後で起こしてくれよ」

 見張りは引き続きダインが先に行い、後半はトールが担当することになっている。

「ああ、分かった」

 そう言って、ダインは外周の見回りへと向かった。

 私もやると言い出したものの、「女の子は男の子に守られるもの。遠慮せずに寝なさい」とトールからデコピンを貰った。そのときは色々あったので甘えようと思っていたけど、はたして寝れるだろうか? この胸のモヤが収まることなくザワついている。 

 何所となくすがるような気持ちで、ダインの姿をずっと目で追い続けた。



 夜も更け、おそらく日付をまたいだあたりの時間にハッと目が覚めた。

 見渡すと一人を除いては、みんな寝息を立てていた。

 見張りとして唯一起きていたダインは、物思いにふけっているように焚き火の前に座って、じっと炎を見つめいる。

(そういえば、ダインはどう思ったのかな……)

 閉鎖的なコウエン国だからこそ知らなかった内容かもしれない。

 彼も知らなかったようなそぶりはしていたが、実際はどうだろう? 本当は知っていたのだろうか? 知っていたからアタシに一緒に行こうといってくれたのだろうか?

 それは保護? 囲い? まさか闇市に飛ばすため!?

 ……いやいや、そんな風には見えない。

 変だとは思うけど、会って2日なのに彼を信じてる部分がある。だからこそ、モヤモヤしてしまう。こういう感じは嫌いだ。

 体を起こすと、衣擦れの音に気づいてダインが軽くこっちを見た。

「どうした?」

「ちょ、ちょっと目が覚めちゃった。……隣いい?」

 勢いにまかせて起きたものの、本人を前にするとどうしていいのか分からなくなり、結局彼の返事を待つ前に、彼の隣に座ることでまずは落ち着かせた。

 ダインはこちらが座るとすぐに炎に目を落とした。

 数秒の沈黙の後、自分も彼の顔を見ず、炎を見つめながら聞きたいことを口にした。

「あ、あのさ……その……ダインは、闇市の話って……」

 互いに炎を見ているのに、明らかに言葉に反応して肩が少し震えたのが分かった。

 すぐには返事が返ってこずに、どれぐらいか分からないけど体感で長いと感じるほどの沈黙が続いた。

「……正直、ショックだった」

 ポツリとようやく返ってきた返事には力がなく、気になって彼のほうを振り向いてみると、口元に手を当てた横顔は明かりに照らされているはずなのに、少し血の気が無さそうな顔をしていた。

 視線に気づき、ゆっくりとこちらに向けられた顔は横顔以上に悲痛と申し訳なさそうな顔をしていた。

「何も知らなかったとはいえ、見ず知らずの君に声をかけ、あまつさえ旅の同行を願い出た無礼はあった。だが、知っていれば君に危険が及ぶ前に、国へ返したり説得したりも出来たはずだ。……本当に、すまない……」

 考えれば考えるだけ、彼の顔はしわくちゃになっていく。それぐらい彼にとって今日の事実は衝撃的で、本当に彼も聞いたことが無いことを物語らせた。

 だから、そんな顔をしないで。こっちが本当にいたたまれなくなる。

「ダインは何も悪くないよ。アタシなんか自国のこと何も知らずに飛び出してきてるんだから、どの道危なかったはず。だから感謝してるんだよ」

 自分、バカだなぁ……。なんでモヤモヤしてたんだろう。

 この人も箱に入ってて、いきなりギルドに連れて行かれてるんだから、アタシをどうこうなんて出来るわけないのよね。

 本当、ダインが誘ってくれなかったら、アタシ今頃どうなってたんだろう。

 大陸の西側は比較的安全と言っていたけど、陸地でつながっている以上はその差は微々たるものだろう。

 ギルドの祝勝会の時のことを考えると、ホーンドの存在って考えるだけでゾッとする。

「ダインに会ってなかったら、誰かに捕まって売り飛ばされていたかもしれない。

 だからさ……ダイン、ありがとう」

 こちらの言葉に強張っていた彼の頬が緩みだし、表情も次第に柔らかくなっていった。

「いや、礼をいうのはこっちかもしれない。俺も色々学べているから」

 少し落ち着いたのか、こちらを見下げながら少し口角が上がり、自分も安心した。

 ふぁ~……。安心したせいか、不意にあくびが出てきた。

「さぁ寝ろ。俺たちが見張ってるから」

「うん、そうさせてもらうよ」

 おやすみと言いながら、元の寝ていた位置に戻った。

 コツン。横になったとき小さいながらも、頭から飛び出している角が岩に当たった。

(そうだ、角。これどうにか隠せないかな……)

 何か良い案はないか。そんなことを思いながら、体がまどろみ中に落ちていった。

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