歌うたいの猫の歌声を聞いているうちに、黒い仔猫と白い仔猫は地上でいっしょに暮らした人たちが恋しくてたまらなくなりました。


「おうちに、帰りたいよぉ」

「おうちのみんなに、会いたいよぉ」


 ふたりは声を上げて泣き出してしまいました。


 歌うたいの猫のうたう歌は子守唄のようにふたりの仔猫を優しく包み込みんでいき、やがてふたりは泣き疲れて眠ってしまいました。


 灰色の仔猫は淋しそうに、眠るふたりを見ていました。

 しばらくすると、灰色の猫は小さな声で言いました。

「あっ、虹」


 ふたりの上に、二つの虹が架かっています。

 黒い仔猫の虹は明るく輝き、白い仔猫の虹は優しくきらめいていました。


 歌うたいの猫が、灰色の仔猫に言いました。

「ほらね。虹が架かったでしょ」


 灰色の仔猫は悲しそうな顔をしただけで、黙り込んでしまいました。そして、黒い仔猫と白い仔猫を見ようともしませんでした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る