第134話 偽装自決弾 其ノ壱

 その日も相変わらず何も昼下がりであった。


 私は頬杖をつきながら、店の外を眺めている。誰か客が来るというわけでもなく、とても暇な時間だった。


 しかし、なんとなくだが……こういうときというのは、嫌な予感がするものだ。


 そして、案の定、私のそういう予感というものはあたってしまうものなのである。


「すいませ~ん」


 と、店の外から声が聞こえてきた。私は杖をついて立ち上がり、店の外に向かっていく。


「はい?」


 店の外に出ると、そこには黒いタキシードを来た男が立っていた。


 男は貼り付けたような笑顔でニコニコしており、なんだか胡散臭い感じだった。


「ここ、古島堂ですよね? 古道具屋の」


「え……ええ。そうですが」


「ああ! 良かった! どうやら間違えずに来られたようだ。じゃあ、アナタが若旦那で?」


「え……まぁ……アナタは?」


 私がそう言うと、男はわざとらしく深々とお辞儀をする。


「自分、塩屋といいます。これでも奇術師をしておりまして……実は旦那にご相談があってきたのです」


「相談? 何か買い取ってほしいものでも? それとも、何かお探しか?」


 すると、男は首を横にふる。


「いえいえ。旦那に見てもらいたいのですよ。自分の奇術を」


「……奇術を?」


 男はそう言って小さく頷くと、恥ずかしそうに苦笑いをする。


「恥ずかしながら、自分、まだ修行中の身でありまして……一応、自分で奇術の道具を作っているのですが、これが果たして見ている人間にとって面白いものかどうか……それを判断してもらうために、こうしてやってきたのです」


「え……いやいや。私は奇術なんて見たことないぞ。そんな判断なんて――」


「でも、奇術のような現象……いえ、物品には多く携わっているでしょう?」


 塩屋はニコニコと笑いながらそう言った。


 奇術のような現象……こいつ、もしかして、何か知っているのか? 私の店に集まってくる不思議な物品に関して……


「……悪いが、判断はできない。他を当たってくれ」


「いや。貴殿に拒否権なんてありませんよ」


 すると、男は懐から何か銀色に光る物を取り出した。


 それは……間違いなく、見たままに、拳銃だった。しかも、かつて我が国の軍隊が使っていた拳銃……それと同じモデルだった。


「……アナタは、一体……」


「話は店の中でしましょう。言うとおりにすれば悪いようにはしませんから」


 ニコニコしながらそういう塩屋。私は……佳乃が運良く買い物に出ていることをこことから良かったと思った。


 無論、私に反抗する術はないので、私は塩屋に言われるままに、店の奥に戻っていったのだった。

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