第132話 金色魚 其ノ弐

「……へ?」


 翌日のことだった。私は目が覚めて店頭に向かう途中で目を丸くしてしまった。


 昨日佳乃が買ってきた金魚鉢を置いたのは勘定場の机の上だった。


 そして、その置いた場所に昨日と同じように金魚鉢が乗っている……ここまでは問題ない。


 問題だったのは金魚鉢が置かれている机の一部分だった。


「……金色だ」


 見ると、金魚鉢が置かれている机の一部分が……金色になっている。しかも、昨日の容器と同様に完全に黄金色だ。


 私はとりあえず机の金色になっている部分に手を触れる。削ってみるが……剥がれない。どうやら完全に金になっているようだった。


「ふわぁ~……旦那? どうしたの……ってなにそれ?」


 佳乃も起きてきて黄金になっている机の一部分を見て驚いている。


「……おそらくだが、君が買ってきた金魚のせいじゃないか?」


「へ? 金魚? そんなことないでしょ~。だって、金魚は金魚鉢の中にいるじゃん」


 そう言って金魚鉢を指差す佳乃。確かに金魚鉢は昨日と同じようにガラスのままだし、中に入っている水も黄金色になっていたりしない。


 黄金になっているのは金魚鉢が置かれた机だけだ。


「……まぁ、そうだな」


「でも困ったね。一部分だけ金色になっちゃって……なにかで隠しておこうか」


 そう言って佳乃は家の奥に戻ると……布を持ってきた。それを金魚鉢の下に敷く。完全に金色になっていた部分は見えなくなった。


「よし。これ大丈夫!」


「……一時的な気がするがな」


「なにか言った旦那?」


「……いや、何も言っていない」


「そう。ねぇねぇ。でもさぁ、金魚が一匹だと可愛そうじゃない?」


「何? 君、その言い方だと……」


 佳乃は目を輝かせている。どうやら、私の予想通りのようである。


「ね? そんなに高くないからさ。もう一匹だけ買ってきていいでしょ?」


「……わかった。私も付いていく」


「え? 旦那も? あ! もしかして、金魚を自分で選びたいの? それなら言ってくれればいいのに~」


 佳乃はそう言って私の肩を叩く。無論、理由はそうではない。一度どんな人物が金魚を売っているのか、そして、本当にこの金魚と同じような金魚が売られているんか確認する必要がある。だからこそ、ついていくのだ。


 こうして私と佳乃は駅前の闇市に行くことになった。私は今一度金魚鉢の中の金魚を見る。


 それは、やはり普通の金魚とは異なり、まばゆいほどに黄金色に輝いていたのだった。

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