第94話 爆発派芸術家 其ノ弐

「旦那~? 何してんの~?」


 しびれを切らしたのか、店の奥から佳乃が出てきてしまった。


「あ……ああ。佳乃。その……お客さんが来たんだ」


 私はなんとか冷静を保ちながら苦笑いして佳乃にそう言う。


 佳乃も私の目の前に置かれている二つの置物に気付いたようだった。


「へぇ……これは何?」


「私の作品です。これらは本物であり、偽物なのです」


 やってきた男は笑顔でそう言う。事情を知らない佳乃は興味なさげに頷いていた。


「それで……旦那はこの二つを買い取るの?」


「あ……いや、その……言っただろう? どちらかが偽物で、どちらかが本物なのだ」


 爆弾……とは言えなかった。佳乃はまじまじと二つの作品を見つめている。


「う~ん……どっちかが本物か、ねぇ……どっちも本物に見えるけどなぁ」


 佳乃の言葉で私も賛同した。


 実際どちらも本物に見える……というか、そもそもこれらの作品、初めて見るものだ。


「……その、これらは誰かの作品を真似て作ったのか?」


 私がそう言うと客の男性は首を横に振り、黙ったままだった。


 まぁ……ヒントはなし、という意味なのだろう。


 しかし、これまで見たこともない作品だ。


 私も古道具屋の端くれ……骨董品にも一応造詣はそれなりにあるつもりだ。


「う~ん……旦那、分かる?」


 佳乃はまるでわからないという感じでそう言った。私自身まるでわからない。


「こんなに同じだとどっちも本物に見えるし、どっちも偽物に見えるような……ね?」


 佳乃が困ったようにそう言う。私は今一度作品を見た。


「……触っても大丈夫か?」


 私がそう言うと男は小さく頷いた。そして、私は恐る恐る作品を触る。


 どちらかが爆弾……そう思うと恐ろしかった。実際、二つの作品はどちらもそれなりに重量感があった。


 私はそれを耳に当ててみるが……特に音がする気配はない。爆弾ならばそちらが偽物だと思ったが……わからなかった。


「そういうタイプの代物ではありません。音ではわかりませんよ」


 私の考えを見透かしているように客はそう言った。私は仕方なく今一度私は机の上に置物を戻した。


「旦那、わかった?」


「……全然わからん。佳乃……すまない」


「え? なんで謝るの? あ、何? 偽物を選んで損するかもしれないから? 心配しないでよ。そんなに高いものじゃないでしょ? この置物」


 佳乃が何気なくそういったその時だった。男はなぜかすごい怒りの形相で佳乃を見ていた。


「……奥様。これらの置物は……私にとって大切なものなのです。そういう言い方はやめていただきたい」


 男がそう言うと佳乃は驚いたようで、慌てて頭を下げた。


 しかし、男のその態度……とても引っかかるものが私にはあった。


 なぜ……怒る必要がある? どうせ、どちらかは爆弾で、私が間違えた場合、爆発させるために作られたもの……それならば、作品を馬鹿にされても怒る必要などないではないか。


 それなのに、男はムキになって怒った……私は少し思い当たる可能性があった。


 そして、私は少し考え、危険な策だったが、それを実行してみることにした。


「……わかった。これは……両方共偽物だ」


 私は少し躊躇したが、男に聞こえるようにはっきりとそう言ったのだった。

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