第93話 爆発派芸術家 其ノ壱

 いつものように私は勘定場の机に頬杖をついてのんびりしていた。


 ふと、近くにあった新聞紙を手にとって見る。


「……『爆発魔現る。被害連続多数』……随分物騒だな」 


 新聞の一面にはそんな事が書かれていた。


 なんでも、ターゲットになっているのは骨董品屋ばかりで、突然現れた客が、爆発物を置いていくらしい。


 そして、実際その爆発物が爆発する……なんだか話を聞いているだけではにわかには信じられなかった。


「……まぁ、ウチには来ない……でほしいが」


「旦那? 暇しているなら買物でも行ってきてよ」


 店の奥から佳乃の声が聞こえてきた。私は面倒くさそうに振り返る。


「……ああ。わかっているよ。さて……」


 杖をついて立ち上がろうとした……その時だった。


「どうも。古島堂の御主人……でよろしいのかな?」


 店に入ってきたのは……1人の男性だった。このご時世には珍しくスーツを来ていて、身なりもきちんとしている。


「あ、ああ……アナタは?」


「これはどうも。私は名もなき芸術家です。少し見てほしいものがありまして」


「え? いやいや。ウチは古道具屋ですよ? 芸術品なんて扱っていません」


「いえいえ。いいんです。私が見てもらいたいのは……この二つの芸術品なのです」


 そういって、男は持っていたカバンを開き、何かを取り出した。


 それは……奇妙な形の置物だった。


 人間のような、動物のような……とにかくそんなものなのである。


「え……同じものに見えますが……」


「ええ。この二つの置物は本物、あるいは、贋作なのです」


「はぁ……それを私に見極めろ、と?」


 私がそう言うと男は小さく頷いた。


「……生憎だが、芸術品には疎いもので、確かな事は言えないのだが」


「ええ、問題ありません。間違えた場合には私の芸術が完成するだけですから」


「……はぁ? それはどういう意味で?」


 私が意味がわからずそう訊ねると、男は嬉しそうにニンマリと微笑む。


「私は何かが爆発する光景こそ、芸術だと思っておりましてね……もし、御主人がこれら二つの置物に対して本物と偽物……その判断を間違えれば、即座にこれらの置物は爆発。御主人自身に私の芸術品になっていただきます」


 そこまで聞いて私は、今一度傍らにある新聞紙を見る。


「……爆発が、芸術」


 私はそう呟き、とんでもない客がやってきたことをようやく理解したのだった。

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