第49話 招き泥棒猫 其ノ弐

 それから、少女……麻子と私、佳乃の不思議な生活が始まった。


 少女が来てからと言うもの……なぜだか知らないが、店が繁盛し始めたのである。


 まるで何かに吸い寄せられるかのように客が店に入ってくる。そして、何の価値もないような骨董品をありがたがって買っていくのである。


 どうにも不思議な感じだった。しかし、儲けが出るのは良いことであるので、私は特に気にすることもなかった。


 そして、もう一つは……佳乃がなぜか私のことを鋭い目つきで見るようになったのである。


 私が麻子と話していると、なぜだか佳乃は怒りの表情で私を見てくる。


 麻子もそれにきづいているらしく、自分が何か佳乃の気に障るようなことをしたかと不安そうに聞いてくる。


 そんな状況が暫く続いた。


 実際店の景気は良かったが……なんだか私達夫婦の仲は今までの中で最悪になっているような感じだった。


「それでは、行ってきます」


 そういって、麻子は買物に出ていった。私はこれがチャンスだと理解した。


「……佳乃?」


 私は居間にいる佳乃に話しかける。佳乃は返事もせず、鋭い視線で私を見る。


「……何?」


「あー……どうしたんだ? 最近はなんだか……機嫌悪いように思えるが?」


 私がそう言うと佳乃はハッと呆れ顔で私のことを見る。


「……旦那、それ、本気で言っているわけ?」


「え……ま、まぁ……そうだな」


「へぇ……あのさぁ。家の妻がいるのに、他の女の子を住まわせるって、ちょっとおかしくない?」


 ……私は思わず絶句してしまった。それから、しばらくして落ち着きをとりもどし、佳乃の方を見る。


「……麻子を家に置いてもいいと言ったのは……君の方だぞ?」


「はぁ? アタシ、そんなこと言ってないんだけど……」


 佳乃は本気でそう言っているようだった。そして、本気で私に怒っているようである。


「とにかく……旦那。今の状態続けるなら……私にも考えがあるから」


「え……お、おいおい。君、どうするつもりだ?」


「ただいま、戻りました!」


 そう言って、最悪のタイミングで麻子が帰ってきた。すると、佳乃は憤怒の表情で麻子を見る。


「……うるさい! この泥棒猫! アンタさえ来なければ……!」


 そういって、佳乃は怒鳴った。麻子は縮み上がって私の背後に隠れる。


「お……おいおい、佳乃……そんな怒鳴らなくたって……」


「……もういい! アタシ、この家出ていく!」


 そういって、佳乃は出ていってしまった。私も麻子も唖然として去っていく佳乃を見ていることしかできなかった。


「……旦那様?」


 しばらくしてから、麻子が私に話しかけてくる。


「……麻子、飯にしてくれ」


 私がそう言うと麻子は悲しそうに頷いた。それを見て、私は優しく頭を撫でる。


「大丈夫だ。君のせいではない」


 私がそう言うと、麻子は嬉しそうに微笑んでいた。


 そこで、私は確信した。


 ……この少女が、今、私の店にとって何か……良くないモノなのだ、と。


 そして、いなくなった佳乃を捜索して、近所を探した所、やはり霞の家に逃げ込んでいた。しかし、霞曰く、私とは会いたくないらしい。

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