第23話 博打好きの拳銃 其ノ弐

「……で、ここが問題の賭場か」


 相変わらずどうにも薄暗い小屋の中……陰気臭い場所で何人かの人間がそこかしこで集まって、ヒソヒソと話している。


「ああ、おそらく奴も来てるはずだぜ」


 渡良瀬はそう言ってあたりを見回す。その時だった。賭場の奥の方からバーンと、けたたましい音がする。


「……いるみたいだな」


 渡良瀬はニヤリと微笑む。私と霞は先を行く渡良瀬についていった。


 奥の方に行くと、人だかりができていた。渡良瀬が半ば強引に中に入っていく。私と霞はそれに続いた。


「ヘーイ? 終わり、ですか? 新しいチャレンジャー、いませんか?」


 人だかりの中心には気絶した男……と、もう一人拳銃を持っておかしな言葉使いをする金髪の男がいた。


「若旦那。やつだ」


 渡良瀬がそう言ってから、男の方に近づいていく。


「おい、兄ちゃん。ちょっといいか?」


「ん? なんですか? アナタ、チャレンジャー、ですか?」


「俺じゃない。こっちの兄ちゃんだ」


 そういって渡良瀬は私のことを見る。私は苦笑いをしながら、拳銃を持った男を見る。


 確かに……軍服を着ている。そして、見た目はどう見ても我が国が戦っていた国の出身者……現在、この国に駐在している元敵軍の人間のようだ。


「OK。チャレンジ、認めます!」


 そういって男は拳銃を俺に差し出してくる。


「引き金、引いてください。音、出た方の負けです」


 いきなり賭けは開始されてしまったようだった。


 私は渡良瀬と霞を見る。ふたりとも小さく頷いたので、開始していいようだった。


 私は何事もなく拳銃の引き金を引く……音は出なかった。


「すごい、ですね。ためらい、なしですか? では、私の番、です」


 男はそう言って拳銃を手にする。私はその時にふと男の方を見る。


「……名前は、なんというんだ?」


 私がそう言うと男は不思議そうな顔をする。


「私の名前? どうして、聞きますか?」


「気になっただけだよ。名前は?」


「ふーむ……名前……覚えてないです」


 と、男ははぐらかすようにそう言いながら、拳銃の引き金を引く。音は……出なかった。


「覚えてない? それはおかしいな。それじゃあ……君はどこから来た?」


「どこ? 生まれた場所? ですか?」


「ああ、そうだ」


「……工場、です」


 男はそう言いながら私に拳銃を渡す。私はためらうことなく引き金を引く。音は出ない。男はそれを見てばつが悪そうな顔をしていた。


「工場……工場で生まれたのか?」


 男は返事もせずに拳銃を受け取ると、引き金を引く。音は出ない……いや、出るはずはないのだ。


 私は拳銃を受取り、今一度引き金に指をかけてから、男の方を見る。


「では、君の兄弟は?」


「兄弟……たくさん、います。すごい、数です……」


「そうか。兄弟は今どこにいる?」


「……兄弟達、皆戦場に行きました……私だけ、不良品……兄弟と一緒に戦場、行けませんでした……」


 それを聞いてから、私は納得し、引き金を引く。音は……出ない。


「ふむ……この拳銃見たところ装弾数は6発のようだ……弾をいれてなくとも、君は自分の装弾数くらい把握しているはず……これで君の負けだ。そもそも弾をいれてないんだから音なんて出ない……そうだよな?」


 そう言って私は渡良瀬と霞の方を見る。二人共目を丸くしていて私を見ている。周りの群衆も同じように私を見ていた。


「……負けです。私は……やはり、不良品のようです」


 男は悲しそうにそう言う。どうやら、男は自分の正体を私が感づいているのがわかったらしく、諦めたようだった。


「そんなことはない。君はたまたま使われなかっただけだ。私は銃の専門家ではないが……君は精巧に作られている」


「……ホント、ですか?」


 私がそう言うと男は嬉しそうに顔を輝かせる。


「ああ。むしろ、精巧に作られた君がこんな賭場でこんなことをしているべきじゃない。君は自分に自信を持っていてくれ」


 私がそう言うと男は目を丸くしていた。それから、嬉しそうにニッコリと笑った。


「……ありがとう、ございます。わたし……はじめてそんなこと、言われました」


 そういって男は拳銃をこめかみに当てる。それとともにけたたましい轟音が響く。

 私は一瞬目をつぶってしまった。それから目を開く。


「……男はどこにいった?」


 渡良瀬と霞……そして、その場にいた全員がキョロキョロと当たりを見回している。見ると男がいた場所には拳銃しか残っていなかった。


「……いるじゃないか。私達の目の前に」


 そういって私は、自身が不良品と考え、人間相手に賭け事をして憂さ晴らしをしていた拳銃を今一度眺めたのだった。

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