第17話 試製人体活性化薬第壱號 其ノ弐

 私は足早に店への道を急いでいた。


 手には杖を持っているが……使ってはいない。


 今までこんなことは一度もなかった。そう考えるとやはり私にとっても不思議な体験であった。


 そして、私は少し高揚した気分のままで店の前までやってきた。


「佳乃? いるかい?」


 私は古島堂の奥に向かって声をかける。


「は~い? どうしたの? 旦那? ……え」


 佳乃は面倒くさそうに店の奥から出てきた。そして……


「どうしたの……それ……」


 驚いた様子で私のことを見ている。


「フッ……やはり、驚いたか」


 私は佳乃の予想通りの反応に満足しながら、自分の足を見る。


「え……なんか……医者とか行ったの? いや、でも、昔診てもらったことが……」


「ああ。医者でも直せないという話であった。だが、このとおりだ。まぁ、理由は色々あるんだが……とにかく、今私は自分の足で立ってるというわけだ」


「へ、へぇ……良かったね……」


 佳乃は驚いてはいるが……あまり嬉しそうではなかった。


 なぜだろう……いつも私の足が悪いことで不便をかけていると思うのだが……


「……まぁ、とにかく、これでもはや、君に色々と頼らなくても良くなった、というわけだな」


「あ……そう……だね……」


 むしろ、佳乃は嬉しいというか……悲しそうな顔さえしている。


 流石に私も不審に思ってしまったし、あまり嬉しそうな反応を示さない佳乃に対して少し不満を感じてしまった。


「なんだ……君は、私の足が良くなったことにあまり喜んでくれないのか」


「え……そ、そういうわけじゃないんだけど……」


 それでもやはり歯切れが悪い佳乃。私はいい加減その態度が不快に思えてきてしまった。


「おーい! 旦那!」


 と、そこへ聞き覚えのある声が聞こえてきた。見ると、向こうから霞が走ってきていた。


「おお、霞。君か」


「どうしたの? 夫婦喧嘩でも……あれ? 足、どうしたの?」


 さすがの霞も気付いたらしい。私は思わず得意げな顔で霞を見る。


「あ、ああ。まぁ、色々あってな……現状、私は自分の足で歩けるようになったんだ」


「へぇ! 良かったじゃん! じゃあ、お祝いしなきゃ!」


 お祝い……その言葉を聞いて嬉しくなってしまった。佳乃は、こんな態度をとってくれなかったから……


「あー……奥様も、お祝い、来る?」


 霞が気まずそうにそう言うと佳乃は顔を真っ青にしながら、小さく首を横に振る。


「私は……店番してるから。旦那……行ってきていいよ……」


 そう言って、佳乃はそのまま、店の奥へと入っていってしまった。


「……奥様、調子でも悪いの?」


 霞が不安そうに聞いてくるが、私は答えたくなかった。


「……霞。今日は私も気分がいい。屋台で好きなものを食べて、飲んでいいぞ」


「え!? 本当!? 旦那、太っ腹だねぇ! じゃあ、行こうよ!」


 そう言って、私は霞と連れ立って駅の方に戻っていった。


 私はちらりと背後を振り返る。


 見ると、店先で佳乃が不安そうに私のことを見ていたが……私は構わずそのまま駅にの方に向かうことにした。

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