大地への伝言 6
町子たちの様子を見て笑っている双子のシリンたち。
アースは、彼らの行動を見越していたのだろうか。表情を全く変えないまま、その冷たい瑠璃色の瞳で彼らを見た。
ここからは、肉体同士の戦いでは何も解決しない。この空間ではどのような攻撃をしても、彼らは不死身の体をもって復活してしまうだろうから。
双子星のシリンたちは、アースに向けて、数体の人工シリンたちを放った。それぞれ相当な強さを持ったシリンたちだ。媒体はなんであるのか、アースには分かっているのだろう。冷たい瞳のまま、アースは、舞った。
最後の一体に至るまで、アースのナイフが攻撃を緩めることはなかった。すべて倒されると、双子星のシリンたちは手を叩いて称賛した。
「さすがだね。しかし、あなたには我々は倒せない。なぜなら」
男性が、そう言って地面を蹴った。ふたたび、アースのもとへ飛びかかる。そして、またそれを阻止されてしまった。すると、今度はアースがナイフを出す前に、女がアースのほうに飛びかかってきた。両手で二人の拳を支えているアースは、防御ががら空きになってしまっていた。そこをついて、二人は懐から長い剣を出してアースに突き刺そうとした。
その時、アースは残像だけを残して二人から離れ、双子星のシリンたちの後ろに回り込んだ。そして、その頭をわしづかみにした。
しかし、事はそれだけでは終わらなかった。双子のシリンたちは最後のあがきをしたのだ。彼らは、因果律を操って地球上に干渉し、ある場所で集団自殺を起こさせた。環から外れて地上に縛り付けられていくその人間たちの意識が悲鳴を上げる。
「この手を離さないと、もう一度これをやるよ」
女はそう言ってにやりと笑った。男が、頭を掴まれたまま、右手を上げる。すると、今度は高い山の頂上から何十人もの人間が滑落して死んでいった。他の場所では、どこかの過激派の自爆テロが起きて数十人が死傷している。そんなことが同時に起こった。
「あいつら、因果法則をめちゃくちゃにしてる! このままじゃ何もかもがおかしくなっちゃうよ。戦争や貧困を止めるのが理念じゃなかったの?」
町子が悲痛な声を上げると、二人のシリンは頭を掴まれたままほくそ笑んだ。アースは二人の頭蓋に力を込めながら、そのまま動かなかった。
「恒久的な平和、全ての人間を支える伝説的な存在、私たちが地球上でそれになるには、平和を望む願いが必要。そのために得られる犠牲ならばどれだけあっても構わない」
女のほうが頭蓋を掴まれながら、アースの手に触れた。すると、アースはそれを許した。自分の頭からその手を放そうとするが、離れなかったので、女はそれを諦めてアースのほうを見た。すると、彼は冷たく笑っていた。
「それが聞きたかった」
すると、空間が再び歪んで、皆は地球のシリンの意識の中に戻っていった。
「地球因果法則の掌握」
二人の頭を掴んだまま、アースは小さな声で言った。その声に、輝が反応した。何かを言いたいのだろう。声を上げている。
「地球因果法則の掌握、そんなことができる存在は、因果律の外にいる地球のシリンだけだ。もともと彼らがどう頑張っても、アースに敵うはずはなかった」
アーサーが、輝の様子を注視しながらも、苦しんでいる双子星のシリンたちの様子を見た。
「アース、その二人は?」
そう問われ、アースはアーサーのほうを振り向いた。その瞳はまだ凍ったままだ。
「ここで殺しはしない。ねじ伏せるとは言ったが」
そう言って、アースは二人の頭蓋を割った。悲鳴を上げるまでもなく、双子星のシリンは環の中に還っていった。その身体は消滅し、地上にある元の体へと全てが戻っていった。
町子は、それを見て、コードネームを与えられた二人が、自分たちがシリンであった時期の記憶を全てなくしているのを見た。アースが殺したのは、地球のシリンの邪魔をしていた大きな双子星のシリンの情報だけだったのだ。
それを見届けると、町子は輝に意識を向けた。輝は相変わらず苦しそうにしていたが、一言、こう言うと、気を失った。
「町子、ありがとう」
アースは、その言葉を聞いて、瞳の色を元に戻した。そして、急いで輝を町子から預かると、その首に嵌っているリングに手をかけた。すると、金属音ひとつ立てずに、そのリングは砕け散ってしまった。
「リングの後遺症が怖い。町子、アーサー、すぐに戻って治療を続けよう」
アースはそう言って目を閉じ、その意識の中から消えていった。町子たちは、その空間が消えていくのと同時に、輝を連れて元の屋敷に戻った。
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