強さの温度 9

 要塞に潜入する段になると、皆は、セインやクチャナの指示に従って、順番に要塞に入っていくことになった。

 要塞に横付けされたアントニオ船から見ると、先程あけた穴には、確かに無数の敵が配置されていた。時に、穴から漏れ出して空中に投げ出されるものもあるくらいだ。ここは海から遠く離れた上空だ。南半球の暖かい場所とはいえ、寒いことに変わりはなかった。

 最初に攻撃を開始したのは、朝美だった。朝美は、あちらに続くタラップが出て、次の攻撃要員が向こうにたどり着くまでのけん制を任されていた。

「短弓は慣れていないけど、この速さはありがたいな」

 一体目の敵に狙いをつけて、矢を放つ。当たったのは、首がやたら長い改造人間だった。それが倒れると、次の矢を構えて撃つ。正確に狙いを定める暇はなかったし、その必要もなかった。相手は的の中心のように小さくも遠くもない。ある程度動きを止められればそれでよかった。朝美の弓の援護を受けて、屋根のないタラップが少しずつ向こうに広がっていく。そのタラップの上を、素早い動きでミシェル先生が走っていった。すると、そこから漏れ出す力の影響で、何体かの機械が機能を失った。朝美の持っている矢がなくなると、次にはもう一人の弓矢使いであるカリムが出てきた。カリムが弓矢でミシェル先生を援護しているすきに、朝美はテンに頼んで、屋敷に置いてきた大量の矢のうち数十本を受け取った。そうやって、ミシェル先生に次いで他の仲間たちもみんな、道を作りながら要塞内に入っていった。

「町子、ここが済んだら私も助けに行く。待っててね」

 朝美は、そう言いながら、今度は矢の切れたカリムと交代して矢を撃ち続けた。カリムは、ここに来る敵があらかた片付くと、朝美にこう言った。

「朝美、お前は町子を助けに行ってこい。ここは俺が守っているから」

 少しなまった英語でそう言うカリムに、朝美は強く頷いて、要塞の中へと走っていった。

 しんがりを務めたのは、ナギだった。カリムに後を任せると、船長であるアントニオと食料調達係のマルコとバルトロ、そして、クロードの見張りについているメリッサに後を託していた。

「メリッサ、あなたは何もしなくてもいい。クロードが逃げ出したとしても、寝ているふりをしていればいい。そのことで誰もあなたを責めたりはしない。我々も、彼をタダで逃がすわけじゃないから。いいね」

 ナギにそう言われ、メリッサは肩の荷を下ろした。クロードはまだ意識が戻っていない。いつ、意識が戻るのかと思うと怖かったのだ。

 ナギが行ってしまうと、船内はがらりと景色を変えた。それだけたくさんの人が要塞内に入っていったのだ。

「バルトロさん、皆は、無事で帰るでしょうか」

 マルコのその問いに、バルトロは胸を張って答えた。

「皆を信じろ。大丈夫じゃ。さあ、マルコ、これからが忙しくなるぞ。パンの仕込みだ。粉なら山ほど持ってきた。さあ、倉庫に行くぞ!」

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