最終話  それから

「放送をご覧の皆さんイィバラッキィーッ!」


ーーイバラッキィィィ!



あれからも配信は続けていた。

引っ込みがきかなくなった、という部分もある。

それに配信を止めた途端に、また異世界化が復活されても困るしな。

正直大変だけど、毎日休まず頑張っていた。



「さて、今日はスペシャルゲストが来てます! アヤメちゃんでっす!」

「どうも、アヤメです」


ーーかわええぇえぇええ!

ーーおいマジで呼んだのかww

ーー結婚してください結婚してくださいぃ!

ーーオレが残業してる間にいちゃいちゃ配信かよ。

ーーだから見てないで働けと何度も。



スイカの収穫も終わり、暇になった頃を見計らって呼び出したんだ。

最初は渋ってたけどさ、紹介のためにと言ったら受けてくれたんだよな。



「ブハッ 結婚してとかコメント来てるぞ?」

「アハハ、ダイチくんに捨てられちゃったら誰かもらってねー」


ーークソがぁぁぁ!

ーーダイチは身を引けオレの為に。

ーーオレも美少女彼女ほちいぃいッ。

ーー彼女、それは神話にのみ登場する架空の存在であって……。

ーーワイ無職。純朴少女に養われたい。



まさかブサメン代表みたいなオレに、こんのコメントがつくとはなぁ。

ちょっと前までは書き込む側だったのにな。

それはさておき、進行させなきゃ。



「さぁさぁアヤメ、今日紹介してくれるアイテムは何ですか?」

「よいしょっと。家で採れたスイカでーす」


ーーいやでかすぎだろww

ーーすげぇ、スーパーのよりもずっとでけぇじゃん!

ーーアヤメちゃんのスイカ(意味深)

ーーアヤメちゃん秘蔵のスイカ(ゲス顔)



「今日はせっかくだから、スイカ割りやっちゃおうかな!」

「え? えっ?」

「じゃあアヤメは目隠ししてねー」

「ちょっと待って私がやるの? 聞いてないよ?!」


ーーそこでやんのかww

ーー部屋がッ部屋がァァッ!

ーー高そうな家電叩き壊しちまえ!

ーーダイチの頭をカチ割ろう(提案)



ちょっとした悪ノリのつもりで考えた余興だったけど、考えが甘かった。

女の子のはいえ、アヤメはそこそこ筋肉質だ。

だからスイカを割ると同時に、甘い汁が部屋中にスプラッシュ!

身体中がもうベッタベタだ。



「まるでフレッシュジュースのような果汁たっぷりのスイカだ! もちろん味もあんまぁい!」

「私、おしぼり貰って来るね!」


ーー体張りすぎだろ!

ーースイカ割りの新境地やなwww

ーーなんかオレも食いたくなってきた。

ーースイカには塩だ。部屋中散った汁にもかけとけ。


しばらく待っていると、待望のおしぼりが投入された。

清らかな湿り気が肌に心地良い。



「果物も美味しいイバラキの食材を、みんなも楽しんでくれよな!」


ーースイカは野菜です(激寒コメント)

ーーイバラキって砂丘しかないと思ってたわ。農地とかあるんだな。

ーー砂丘って、それどこの取鳥県ですかねぇ。

ーー素人め。トットリ県は飛鳥県と書くのだ。

ーーその県はなんか仏教伝来とかしそう。



「アヤメ、取鳥県とかコメントされたんだが?」

「うん、それがどうかしたの?」

「え?」

「あれ、こう書くんじゃなかったっけ?」



アヤメがしどろもどろになっている。

ネタじゃなくて、これはガチのやつだ。

この感じ、覚えがあるぞ。

具体的に言うと、オレの転生初日の頃だ。



「ダイチくん……」

「うん、どうした?」



聞くのが怖い。

知るのも怖い。

それでも数秒後の未来を変える術なんか、オレは持ち合わせていない。

アヤメは少し迷いを見せた後、遠慮がちに口を開いた。



「ダイチくんはトットリ県の概形、描ける?」



ー完ー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら、そこはイバラキだった おもちさん @Omotty

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ