第6話  男の見せ場

翌日。

約束通り、この世界での労働が始まった。

アヤメが所有する畑のお手伝いだ。

スイカはオレも大好きだから、作業にも熱が入る事だろう。


……と、思っていたが。



「はい、これ使って」



手渡されたのは鍬(くわ)だ。

それを見てテンションは急転直下だ。

まさか、手作業でやらせる気なのか。

先が見えない程の広大な農地を。



「ちょっと待てよ。機械でやるんじゃないのか? 良く知らんが、トラクターとかそういうので」

「あれば使うんだけどね、うちはお金ないからさー」

「この広さを人力でやるってのは、流石にムチャだって」

「じゃあ農機を借りてこようかな、レンタルも高いけど。でもそうなったらダイチくんを雇う必要が……」

「よし、ジャンジャンやろうぜ! 二十歳の体力を見せてやる!」

「うんうん、頑張ろうねー」



危ねぇ、いきなり職を失うところだった。

それは自動的に住居まで無くす事になる。

日々の暮らしのためにも精を出さねば!



今日の作業は畝(うね)作りだ。

畝なんてオレも知らないが、要はスイカの家のようなもの。

苗をホイホイ植えるための場所作りだ。



「まずはお手本をみせるから、ちょっと見ててね」



慣れた手つきで実演してくれた。

まずは土を盛って、山の頂点を平たく均(なら)す。

幅は人が寝転がれるくらいのサイズだ。

隣も同じように土を盛って、同じように形作り、最初のものと繋げるようにして広げる。

あとはその繰り返しだ。


作業そのものは難しくないだろう。

それをどこまで伸ばすのかが気がかりだが、余計なことを言うのは止めておく。



「じゃあそっちの列をお願いね。私は隣をやるから」

「おっしゃ、任せんかい!」



ようやく訪れたアピールタイムだ。

ここら辺で『頼れるお兄ちゃん感』を押し出したい。

家事も料理もからっきしだが、目の前にあるのは力仕事。

男のオレにうってつけのはずだ。



「ヨイショォ、ヨイショォーッ」

「アハハ、元気だね。その調子だよー」

「ヨイショーイッ!」



自然と声に熱が籠る。

ここでカッコいい所を見せれば、良い雰囲気になるかもしれない。

異世界ハーレムは無理でも、初彼女ゲットのチャンスはある。

がんばれオレ、不純な動機でフルスロットルだ!




実際作業をしてみると、意外に難しいことに気づく。

お手本のようにキレイな形にはならない。

あれはあれで技術が必要らしい。


隣を見ると、だいぶ先へと進んでいた。

さすがに慣れているだけあって動きがスムーズだ。

畝もしっかりと作られている。

どうやら形勢はかなり不利なようだ。


それでも、筋力や持久力はこっちの方が上なんだ。

最終的にはオレが勝たせてもらうからな。

非モテ男子の底力を思い知れ!



ーーしばらくして。

太陽は間もなく中天に差し掛かろうとしている。

時計が無いから正確な時間はわからない。

恐らく昼くらいだろう。

その頃のオレはというと……。



「ほーら、頑張って! あとちょっとだよー」

「ふみゃぁ。ふみゃぁ」

「はい、そこまででいいよ。お疲れさまー」

「ふにー。ふにー」



生まれたての子猫になっていた。

何これ……すんげぇ辛い。

二の腕の後ろとか、背骨の回りとか、普段使わない筋肉が絶叫している。

威勢が良かったのは始めだけ。

途中からはかつて無い醜態をさらし続けてしまった。



「じゃあ、そろそろお昼にしようか。お腹空いたでしょ」

「腕いたーい、腰いたぁーい」

「あー、最初はそうだよね。じきに慣れるから」



あれだけの作業をこなしても、アヤメは涼しい顔をしてる。

疲れを一切見せずに、サクサクと家の方へ歩いていった。

この場面でもオレはアピールできなかった。

むしろマイナスイメージになっただろう。

これは初彼女も見送り、かな。

えっへっへぇ……。



「アヤメちゃん。お昼にすんのけ?」

「あ、おばさん。そうですよ、そろそろご飯にしようかなーって」



家の近くで、アヤメがおばちゃんに話しかけられていた。

お隣さんというやつだろうか。



「味噌漬け作ったから、良かったら食べな」

「いつもいつもすいません。お返し出来るもの、なんかあったかなぁ……」

「いーんだいーんだ。気にする事ぁねえべ。若ぇもんは腹一杯食わねぇとよ!」

「本当にありがとうございます。お手伝い出来る事があったら、いつでも言ってくださいね?」

「アヤメちゃんはほんと良い子だぁ。ウチのバカ娘にも見習わせたいよ!」



年の離れた人ともしっかり話せるアヤメ。

なんつうか……大人だな。

オレはなんとなく気まずくなっているというのに。


だから疲れたフリをして、家に戻ろうとしなかった。

我ながらヘタレだと痛感する。

畑の外に座りこんでいると、アヤメがお弁当を持ってきてくれた。



「はい、お疲れさま。一杯食べて休んだら、また再開ね」

「ぉーぅ」

「すっごい小声になってるね。最初の三日は大変だろうけど、すぐに体が慣れてくれるから。それまで頑張ろう?」

「ぉぅょ」

「じゃあ、いただきまーす」



昼飯にも昨晩のような女子力が炸裂していた。

白ゴマが振りかけられた丸いおにぎり。

半身の焼き鮭に肉団子。

タコさんウィンナーに、形のキレイな玉子焼き。

ツナと葉野菜のサラダ。

お弁当でさえこのクオリティだ。

これはもう、嫁さんにしたくなるな。



「ねぇ、さっきの松崎さんから貰ったよ。大根の味噌漬けだって」



茶色く細切りになった大根が、タッパーを埋め尽くしていた。

見た目はというと、あまり美味しそうじゃない。

というか、漬け物自体が好きじゃない。

だがオレには納豆の一件があるので、食べないわけにはいかなかった。



「どう、美味しいでしょ?」

「うんうん、うん!」

「さっきの松崎さん、料理がすっごく上手なんだー」

「うんうん、うんうん!」

「アハハ、よっぽど気に入ったんだね」



すっげぇ旨い。

ほんのり甘くて、唐辛子がピリッとくる。

食感もポリポリしててたまらない歯応え。

まるで掃除機にでもなったように、瞬く間に漬け物を飲みこんでいく。


その時、心地よい風が吹いた。

辺りを優しく撫でて、オレのポリポリ音を遠くへと運ぼうとする。

どこまでも続く畑の先へと。


何の気なしに空を見上げてみた。

大きな白い雲が、青空をゆっくりと泳いでいる。

あそこまでこの音は届くんだろうか?

答えの出ない問いが、しばらく頭の中に居座った。

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