かつては男と女〜炎ふたたび

肩の力を抜くことにしました。

気軽に楽しく。

「斬新でパワーのある、いい作品を」と構えてしまうから書けない、わたし。


はい、というわけで。

今回ご紹介するのは、肩の力を抜いたような1曲。


「かつては男と女」


2011年リリース。

東京事変の5枚目のアルバム「大発見(Discovery)」の10曲目。

「大人(アダルト)」でメンバーが定まって、「娯楽(バラエティ)」でちょっと不満がたまり、林檎姉さんの浮気(注1)があり、直後いきなりギアが上がった「スポーツ」をリリースし、そこから1年半足らず。

これが起承転結の「結」。


(注1:浮気の経緯は「林檎さんのこと」第9話「カリソメ乙女〜ちょっと特殊な曲?」を参照ください)


ギターの浮雲さん作曲。

林檎さん作詞。


ひさしぶりに2人きりで会った男女。

年月がすこし見た目を変えているし、中身も前と違うかもしれない。

けれど、前と同じ何かがある。

危うい大人たち。


そんな曲です。

穏やかに始まるイントロ。

林檎姉さんの声は、いつになく太め。

じつはこのメロディはサビ。

一方、バックの伊澤さんのオルガンはモジュレーション(注2)をかけています。

しかし、揺れをなくしてストレートに音を伸ばすときが、すごくイイ。

最初の20秒すこしで、わたしはもうヤラれてしまいます。


(注2:こまかく位相をずらしたり、音量を増減したりして音を揺らす効果の総称。オルガンの場合、歴史的に位相をずらす工夫がされてきました。スピーカーをサイレンや灯台のライトのように回転させる装置なんかがあります)


コーラスも加わって、ちょっと夢のような空間になった、と思ったら50秒目の手前でいきなり現実感を帯びるミディアムテンポに。

姉さんは、意識的に太く歌ってます。

ワウ(注3)のかかった浮雲ギターが、ちょっとコミカル風味。

亀田師匠のベースも、めずらしくフレットレス(注4)。

客観性のある、一種ドラマのワンシーンのようです。

再会した2人は30代なのか。

それとも高校の同級生が社会人になって、大人っぽく振る舞っているのか。


(注3:ワウとはギターのエフェクトのひとつ。高音低音のトーンや音量を小刻みに変化させる。通常は足踏み式。モジュレーションの一種ともいえる)


(注4:フレットレスとは、ネックにフレット=線上の突起がないギターやベースを指す。フレットがないと、音を出しながら弦を押さえる指をずらした際に音程が連続的に変化する。バイオリンやコントラバスは、もともとフレットレス)


ひとのいない湿った目抜き通りを歩く男女。

その描写のあと、心のうちが歌われます。

オルガンが盛り上げ、コーラスも加わります。

イントロより1度高いまま、サビが始まってしまいます。

2人は手を握らないままに。


触れたら、だめ。

また、始まっちゃう。

ああ。

ずっと、このままならいいのに。


サビの後半の、1音ずつ下がるところのコーラスがとてもいい。

スティービー・ワンダーの「Don't you worry 'bout a thing」を思い起こします。

泣けます。


最後はオルガンがソロをとりながら、フェイドアウト。

ぐるぐる巡るような胸のうち。

ふたたび燃える火は、次第に強くなる。

消えゆくエコーは、むしろ消えない余韻を残します。

はたして、抑えることができたのか。

炎を冷やすことはできたのか……。

肩の力を抜いた曲のはずが、手に汗握る。笑


ああ。

なんていい曲。





PS:自分の声が好きじゃないという林檎さん。

   キーが高すぎて嫌いとか。

   理想が高いんだと思います。

   地球上グローバルに聴かせることを考えているんだと思います。

   でも、この曲ではすこし低くて、野太くしています。

   いちばん太い曲のひとつだと思います。

   ちなみに、いつもと声がぜんぜん違うなあと、わたしが思った曲は

   「la salle de bain(浴室)」

   です。

   シングル「りんごのうた」の2曲目、英語で歌っているやつです。

   だれか外人さんに歌ってもらってるのかと思いました。笑

   


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