ナカメシグルリアン

 おマサさんはかなりの毒舌で強気な人であると同時に、やんちゃなところがあったようです。

 というのも、子どもたちや孫たちに、なんちゃって英語を教えていたのでした。


 たとえば電車のことは『ヒューットヒョーデル』と教えていました。これは『ヒューッ』という音をたてて『ヒョー』っと駅を出て行く乗り物だから、ということでした。いかにも蒸気機関車の時代の人らしいオノマトペです。


 また、『ハゲ』のことは『ハエットマットスヴェール』と言っていました。語源は『ハエが止まると滑る』で、語尾の発音は下がります。巻き舌が決め手です。


 おマサさんの嫁ぎ先は理髪店ですから、時々、頭髪の薄い客が来ると、「あいつ、なんでハエットマットスヴェールなのに頭かりに来るんだ」などとぼやいていたらしいです。ちなみに『頭かりに』とは『髪を切りに』という方言だそうです。

 私は素人なので切る量が少なくてカット料金がもらえるならいいじゃないかと思いますが、おマサさんは嫁のヒミさんに代わって育児をしていたので、忙しかったのでしょう。


 そして『ぼたもち』や『おはぎ』のことは『ナカメシグルリアン』と教えていました。『中がご飯で外はぐるっと餡』を語源とし、Rの発音が決め手になります。


 おマサさんの子どもたちもかつてはそれが本当の英語だと信じていたものの、どこかで赤っ恥をかいたらしく、孫に教えているのを見かけるたびに、「私たちにも教えたデマを孫にまで教えるな」と非難轟々だったらしいです。


 ところが、大人になってから夫が『ナカメシグルリアン』をグーグル先生にきいてみると、実在したのです。

 どうやら静岡県西部地区の遠州弁で『ぼたもち』や『おはぎ』のことを本当に『ナカメシグルリアン』というらしいです。瓢箪から駒が出たわけです。


 もしかしたら、日本全国探してみれば、他の地域でも『ナカメシグルリアン』と呼んでいるのかもしれません。

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