リクエスト■番外編〜映画の日〜

※これは12月1日に追加した、二人の絡みがもっと見たい&大人の表現を……とのリクエストを、それぞれ前半&後半に取り入れて書いた「■異動」の間のラブコメ風番外編です


 ある日、デイサービスに行くと……

 春香と明美が、昼休憩中に映画話で盛り上がっていた。


「うっそ〜ハルちゃんすごいじゃ〜ん」


「でしょ? あ、悠希くん! 聞いてよ〜昨日映画の日だったから、中学の時から好きな俳優さんが主演の映画を見に行ったら……」


「出てきた場所が新婚旅行で行った場所と同じで調べたら、撮影時期も同じだったの! すごくない? 絶対すれ違ってたよ〜」


「なんだそれ〜何て映画?」


「50回目のプロポーズ」


「あ、あれか、見たか……てかどうでもいいわ〜」


「そういえば、前に悠希くんと一緒に見に行った『手紙』に出てた俳優さんもヒロインの弟役で出てたよ? ほら、歌手もやってて若手で人気の……」


「『手紙』? なんて映画見たっけ? あ〜見たような気がするけど誰と見たか忘れた」


「もう、またそんなこと言って……」


「てか好きな俳優なんていたんだ……確かに演技派のカメレオン俳優で有名だよな」


「そうそう私、中学の頃から好きだったんだけど旦那にちょっと似てるんだよね♪」


「は? 全然似てないし……メガネ変えた方がいんじゃね?」


「も〜そうやってすぐメガネをバカにして〜メガネ…………で思い出したけど、この間、道歩いてたら『好きなタイプのメガネだったんで』って声かけられたよ」


「何それ〜メガネフェチの人だったんじゃない?」


「まあメガネが本体かって位、似合うしな」


「またそれ〜昔からよく言われてバカにされるんだよね」


「コンタクトにしたら?」


「しようとしたけどダメだったの……だからメガネの人が近くにいると安心するんだよね(バカにされにくくなるから)」


「な、なんじゃそりゃっ……それって」


「そういえば『手紙』に出てきた俳優さんも悠希くんに似てるよね〜特に声が」


「お前の目と耳は節穴か?」


「え〜似てるよ〜この間、歌番組で歌ってるのを見たけど歌声も似てたよ?」


「あ〜あの歌詞間違えて2番を2回歌ってたやつな」


「そう、間違えても最後まで一生懸命に歌う姿になんだか泣けてきて……歌は技術じゃなくて心なんだと思ったよ」


「それは暗に下手と言……」


「違うよ! 確かにその後デュエット曲を歌ってた俳優さんの方が上手いし声もカッコよかったけど、涙までは出なかったから……きっと人の心に届く不思議な力がある声なんだよ」


「やけに力説するな」


「実は私…………声フェチなんだ」


「声フェチ? なにそれ、ウケるわ〜声優オタクかよ」


「オタクという程声優さんにはそんな詳しくないけど……声聞いただけで何のキャラクターと同じかは、すぐに分かるよっ」


「そんな自慢気に言われても……」


「中学から好きな俳優さんも声が好きで……きっかけは私と同じあだ名の主人公が出てくるアニメ映画で王子役の声優をやってたからで……あと二の腕も好きかも……私が脂肪だらけだから憧れるっていうか」


「アハハほんとだ〜ハルちゃんの二の腕ダルんダルんでウケる~」


 明美が春香の二の腕をつかんでプニプニしていた。


「明美ちゃんは筋肉あってカッコいいな~」


 お互いの二の腕の肉をつまみながら笑い合う二人……


「あっ悠希~ハルちゃんの二の腕触ってみ? 超ウケるよ?」


「なんだそれ……どれ……」


 ……と寸前の所で僕はあることを思い出し、恥ずかしくなって手を引っ込めた。


「やっぱ、いいよ……」


「???」


「あ~っ悠希もしかして変な想像してるんじゃないの?」


「は? ばっかそんなんじゃね~よ!!」


「ハルちゃんこいつさ~なんで照れてるかっていうと……」


「それ以上言うな"~」


「何? 何?」


「な、何でもな~い……」


「……よく分からないけど、私ふくらはぎもダルんダルんなんだよね……鍛えなきゃ!」


 彼女は徐にソファーに座って、ふくらはぎを自分で下から叩きタプタプさせていた。

 思わずある芸能人のアゴが浮かんで触りたくなったが……自主規制した。


「そ、それよりもうすぐケアマネの合格発表日じゃね? ま、絶対落ちてると思うけど」


「なんでそういうこと言うかな〜」



 それから半年程経ったある日……


 無事にケアマネの試験に合格し、僕のいる訪問介護と合同のケアマネ事務所に異動して慣れてきた6月のこと……


 事務所で書類を書いている彼女とすれ違った時、どこでケガをしたのか手から血が出ているのを発見したので仕方なく絆創膏を投げてみた。


「あ、ありがとね絆創膏……あと、この間の雨の日も……」 


「ああ、ヒザ擦りむいたやつな……ほんとドジだな」


「あ、あれは……どしゃ降りの日なんだから自転車じゃなくて悠希くんが車で送ってくれればよかったのに〜駅前の駐輪場近くで滑って転んで大変だったんだから」


「色々たるんでるからだろ」


「たるんでません! フフ~ン、私さ~自転車に乗るようになってから筋肉ついたんだよ? ホレ触ってみ?」


「はい?」


 彼女は得意気な顔で僕にとんでもないことを言ってきた。


「だから〜前はふくらはぎがダルんダルんだったけど、坂道とか長距離走ってるうちに鍛えられたの!」


「はあ……」


「嘘だと思ってるでしょ~だから触ってみって」


「いいです」


「いいから触ってみってホントだから」


「やだよ」


「ホレホレすごいんだよ~」


 ……と近づいてくる得意気な顔がなんだかムカつく。


 照れもせず、ただ純粋に筋肉自慢をしようとしてくる彼女の思いとは裏腹に、僕の心と頭は動揺しすぎてショートしていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


なんなんだ?

足に触れだと?

なんてはしたない……

やめろ……やめてくれ……

足に……足に触れだなんて……

僕は足フェチなんだ……

昔、入浴介助のエプロンから覗く足を見てて同僚にからかわれたことがあるが……

自他共に認める足フェチなんだぞ?

そんな僕に足を触れだなんてどういうつもりだ……

あ~こういう時どう触れば気持ち悪くないんだ?

一気に掴むのか?

鶏肉を調理する時のように掴めばいいのか?

一体……一体……どうすればいいんだ~~~〜


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 頭を抱え、脳内会議真っ最中の僕のすぐ近くまできて「ねえってば」と足を指差す彼女の行動にテンパッた僕は……


 目をつぶり「うぁ~」という変な叫び声を上げながら、彼女のふくらはぎを思い切り人差し指で突いた。


「痛った~なんで刺すの? もっと優しくしてよ」


「……ごめん……」


「あ……そう言えば悠希くんて足フェチだったんだっけ?」


 無自覚な発言程、怖いものはない……

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