第13話:私が彼を止めるのはきっとエゴだった件

 怖いと思った。

 あんなに殺気を放つあの人を。


 それはきっと傷で。

 暗闇でもがくような悲しみだった。


 ***


 ドサドサドサドサ!!

 鮮やかにダイドが飛び、舞うと、男達は全員地面に薙ぎ倒された。

「ダ、ダイド……?」

 彼は振り返らず、男から奪った剣の血を振り払う。

「人を切ろうとする人間は」

 ダイドが男達に語りかけるように話し始めた。その声はさっきの低い声よりは、いつものダイドらしかった。

「人に切られる覚悟のある人間だけ。そうでない者は、愚かな掠奪者か、ただのガキだ」

 地を這った男達は誰も答えなかった。

「こ、殺しちゃったの……?」

 恐る恐る尋ねる。

「大丈夫。命に別状はないし、傷もすぐ治る」

 確かによく見ると、男達は剣で打ちのめされてはいるものの、血をそんなに流していなかった。

「でも、今度ラピスを狙ったら、次は切るよ」

 ダイドはそう言って剣を投げ捨て、ようやっとこちらに振り向いた。

 ドキリとして、私は思わず肩を震わせてしまった。

「大丈夫?」

「う、うん」

 怖かった。なんというか、身体が、脳が、うまく動かない感じだった。

「行こう。此所にいちゃあ目立つ……」

 私は頷いてダイドとその場を去った。

 よく見ると彼には返り血一つ付いていなかった。


 ***


 私たちはひとまずダイドの家へ避難することにした。

「……おじゃまします」

「ごめんね、汚いけど」

「大丈夫」

 私の住んでる物置部屋のほうが、絶対最初は汚かったから。

 ――っていうか、全然汚くない!

 ダイドの部屋は男の人の部屋とは思えないほど小奇麗だった。こじんまりしていて、一人で住むにはちょうどいい感じだ。

 私をソファに座らせて、ダイドは紅茶を入れてくれた。

「あ、ありがとう……」

 何となく緊張しつつ、カップを受け取った。

「……なんか緊張してる?」

 そんな私を見透かして、ダイドが笑った。

「え!? し! し、てない!」

 説得力のないどもり方をしてしまった。

「あはは!」

 ダイドは可笑しそうに笑い、紅茶に口をつけた。

 そんな彼を見てほっとした。いつものダイドだ。

「け、怪我しなかった?」

「うん、俺は大丈夫。……なんか、やっぱ緊張してる?」

「え!? そ! そうかな?」

 慌てる。

「俺、怖かった?」

「怖……? あ、いや、もっと怖い人がいるし……」

 近くに。

「あぁ、子爵。それもそうか。あの人は、怖いね」

 ダイドはくすっと笑った。

「……でも、確かに緊張してるかも」

「なんで?」

 ダイドは首を傾げる。

「お、男の子の家に、一人で来るの初めてだし……」

「え、子爵は?」

「子爵!? いや! だって、城にはいっつも側には召使いとか、従者とかいるし……え?! なんか私変な話してない!?」

 もはやテンションがおかしい。

「あはは! 可愛いね。ラピスは」

 ダイドは笑った。

「可愛いとかそういうのでは、ないですけど!!!!」

 お願いだから、もういじらないで。

 ダイドはごめんごめんと謝って、軽く手を振った。

「……ダイドって、強いのね。びっくりした」

「そうかな。もう、結構なまってるんだけどね」

「なまってる?」

「俺、武民だから」

「そうなんだ」

 それであの身のこなしだったのか、と納得した。

「10歳の時に旅に出て、そのまま旅を続けて、ポルヴィマーゴに住みつくようになったんだ」

「旅っ!? え、すっごいガチね!」

 生粋の武民の子供は、10歳になると大人になる儀式として一人1年間の旅をする。そういう習わしがある。

 それを実践している者を、私は今まで見たことはなかったが。

「あはは! 時代錯誤だろ? でもまだたくさんいるよ。そういう武民は」

「そ、そうなんだ。知らなかったわ。私もじっちゃんが武民だけど……」

「そうなんだ?」

 頷く。

「……ところで。あいつら、なんなの?」

 ダイドが真面目な顔をしてじっと私を見た。私は首を振った。

「わかんない……。確かに前までは借金取りに追われてたんだけど、私が城で働くのを条件に、子爵がその借金を立て替えてくれたんだ……」

「はー……。そういうことだったんだ」

 ダイドは息をついて、納得した、と言った。

「え?」

「ラピスが子爵のところにいる理由」

「はは……」

 騙されて、というくだりは言うまい。

「でも、じゃあおかしいね。あの借金取りは」

「……うん。ちゃんとカルテルにはお金は返したし、証書だってあるのに」

 私は顔をしかめた。

「しかも、そんなにすぐ殺そうとするかな? 期限が過ぎたくらいで」

「ば、莫大だったからね……」

「いくら?」

「言えないくらい……」

 ダイドは不思議そうな顔をした。

「そのお金の使い道って、ラピス、知ってる?」

「え?」

「……それじゃない? 狙われる理由」

 ぞわりとした。

 それは、開けてはいけない箱を開けるような怖さに似てた。

「し、知らない……けど。お父さんもお母さんも、そんな変なことには……!」

「あ! ごめん、そうじゃないんだ。気を悪くさせてごめん」

 ダイドは慌ててフォローしてくれた。

 私は首を振った。

「ううん。でも確かに。何かに、巻き込まれてたのかも……知れないよね……」

 冷静に考えて、ダイドの意見は真っ当だった。当たり前の仮説だった。

「今日は遅くならないうちに帰った方がいいよ。送っていくから」

 あてのない不安に襲われ、思わず肩を抱いた私に、ダイドは優しく微笑んだ。

「うん……」

「多分、子爵にもさっきの騒動が耳に入ってると思うし。すごく心配してると思うよ」

「げ!? しばらく外出禁止とかくらうかも!」

「あはは! ホント、大事にされてるね」

 そうかしら。

「ダイドって、アルブのどこの町の生まれ……?」

 私は紅茶を一口飲みこんで尋ねた。もう少し心を落ち着かせてから帰りたかったからだ。

「ん? バルガンだよ」

「……聞いたことないかも。北の方?」

「地図からは消されていたからね」

 ダイドは微笑んだ。けどそれは、悲しい顔だった。

「え?」

「俺が生まれる前、伝染病が蔓延して。村は国によって強制的に閉じられてしまったんだ」

「そんな……」

「残った村人たちでなんとか復興して、先の王が没して今の体制になってから、再び正式に地図に名前が載るようになったんだ」

「……そう、なんだ」

 ダイドはにっこりと笑った。あっさりと過去を飲み込むように。

「生粋の武民の村だよ。女でも10で旅に出る人もいる。何人も有名な傭兵を輩出してる」

「へぇ、ルクとか?」

「ルクは違うよ。もう少し東の町の武民だ。俺の村だとロッソっていう通り名の傭兵がいたりする。知らないと思うけど」

 知らなかった。

「昔、俺その人に剣を習ったことがあるんだ。すごく、強い人だったよ」

「だから、ダイドも強いのね」

 彼の手を見ると、確かに修業を積んだんであろう苦労が見えた。

「足元にも及ばないけどね」

 はは、とダイドは笑った。

「そろそろ落ち着いた? 帰ろうか」

 気が付くと紅茶は飲み干してしまっていた。

「それとも、泊まっていく?」

「か?! 帰りますよ!!!」

「あはは」

 ダイドにまでからかわれた!


 ***


 帰り道、誰かに襲われることはなかった。

 目立たないようにダイドが貸してくれた服のフードをかぶっていたからかもしれない。

 無事に子爵の城までたどり着いて、それじゃあ、と別れた。

 なのに。


「どういうこと?」

 呟く。

「まぁまぁ、ラピス。話があるってだけなんだからさ」

 城の中のとある客間。ダイドは穏やかに笑って椅子に座った。

 門のところで突然、話があるからとダイドが城に招かれたのだ。

 門番は言伝を聞いていただけで、なぜ子爵がダイドに用があるかは知らないようだった。

「でも……」

 なんだかいい感じがしなかった。

 その勘は今日の不穏な出来事に由来し、この部屋の薄暗さに由来する。

 此処は、いつも客が来ると使う豪華な部屋じゃない。

 何より呼びつけておいて、子爵がすぐに現れない。

「ラピスは別に呼ばれていないんでしょ? 席をはずしててもいいと思うよ」

「ううん。いる」

 嫌な予感がするのだ。


 そうして待っていると、数分もたたずにガチャリと扉が開いた。

「子爵」

 ダイドはすかさず立ち上がり、一礼をした。

「お話があるとか……」

「ああ。掛けろ」

 子爵の顔を見て直感した。やっぱり様子が変だ。

「子しゃ……――」

「ラピス。お前は席をはずしてくれ」

 言葉を遮られた。

「え?」

「ラピス。こっち」

 いつの間にか後ろにいたブレトンに肩を軽く掴まれ、私は部屋の外に強制的に追いやられた。

「ダ、ダイド……!」

 ダイドは大丈夫、と笑った。

「ブレトン! 待って、私も……!」

 私は慌ててブレトンの手を振りほどこうとした。

「ごめんラピス。ちょっとだけ待ってて。すぐ、終わると思うから」

「なんで?! なんでいきなり? なんかあったの? 今日のこと?! 今日のことでダイドを……――」

「違うよ」

 ブレトンは微笑んだ。

 だけど、そこにはのっぴきならない何かを感じた。

「ごめん」

 そしてブレトンは何故か謝って、子爵とダイドのいる客間に入って行った。

「ちょ……!」

 追いかけて扉を開けようとしても無駄だった。

 鍵がかかっている。

「な、なんで……?」

 嫌な汗が流れる。

「……っ……メアリー!」

 私はいてもたってもいられなくて、その場から走り出した。


「それで、お話というのは……?」

 ダイドは落ち着きを払ったまま言った。

「いくつか、質問をさせて欲しい」

「ええ。俺が応えられることなら、なんでも」

「その前に謝らせてもらう。今日、町で一悶着あったそうだが……」

「ああ、はい。ありました」

 ダイドは頷いた。

「その後、ブレトンにお前たちの後を尾行させた」

「構いませんよ。俺はやましいこと、何もしてませんから。ラピスは怒りそうですけど」

 ダイドは微笑んだ。それから少し目を細めて真面目な顔をした。

「それで?」


 ***


「メアリー!」

 突然、仕事中に押しかけられたメアリーは驚いていた。

「え? 何っ? ラピス帰ってたの? なんか下であったって……! 大丈夫なの?」

「そんなことより! あの客間! 2階の……! あそこに聞き耳たてられる所とかない?!」

「ええ?!」

「鍵でもいいの! 持ってない?」

 メアリーは呆れたような顔をした。

「なんかあったの?」

「あるの!」

 それは、確信めいた直感だった。

 きっと子爵はダイドに何かを聞く。それはきっと良くない結末を呼ぶ。

「…………分かった。来て。メイド長には内緒よ」

 メアリーは意を決したようにそう言って、周りに注意しながら私の手を引いて歩き出した。

「ありがとう……っ!」

 そして辿り着いたのは客間の隣の部屋。

 その部屋の鍵を開けてメアリーはするりと中に入った。

 私もそれに続くと、中は真っ暗だった。

「静かに。……此処を見て」

 メアリーが暗闇の中で立ち止まって、壁を指さした。

「?」

「ここね。隣の部屋と元は一つの客間なの。で、此処。触ってみて」

 頷いて壁の下部に触れると、それ小さな隠し扉だった。屈めば通れるって感じだ。

「実はここ、繋がってるの。大体客間の壁にはこうして隠れた道があるのよ」

「……ありがとう。メアリー」

 その扉の鍵をメアリーから受け取る。

「開けても大丈夫かしら……」

「大丈夫だと思うわ。向こうからは布か何かが被さっててカムフラージュされてるはずだから、扉をこちらに引いて開ければ、気が付かれることはないはず」

 頷いた。了解だ。

「内緒よ? 私、行くからね。あとで鍵。返しに来て」

「うん」

 メアリーは微笑み、そっと走り去った。


 ごくんと息をのむ。

 ゆっくりと鍵を回して戸を引いて開けると、ごとりと小さな音がしたが、多分、ばれてない。

 身をかがめて中を覗くと、メアリーの言うとおり。向こう側に白い布がかかっていた。多分押したり、捲り上げれば向こう側へ抜けれる。

 声が聞こえた。

「俺の出身は確かにバルガンです」

 ダイドの声だ。

 出自の話をするためにダイドを呼んだのか? 武民と、ばれたから?

 ……いや。違うでしょ。

 首を振る。

 だって子爵はアーノルド候ほど武民を毛嫌いしてない。初めこそ武民の血を引く私を野蛮人だと思ってたみたいだけど、別にその血のせいでどうこう言われることはない。武民だからといって、わざわざ呼びつけて人をネチネチ虐めるタイプでもないだろう。

「そこに赤い髪の傭兵がいた。そうだな?」

 今度は子爵の声がした。

「……それはロッソと呼ばれた男のことでしょうか」

「そうだ」

 ロッソ。さっきダイドが言っていた、同郷の傭兵のことだ。

「いました。本名はロッソではありませんが、同じ村の武民です。歳は俺よりずっと上ですが、面識もあります」

「そいつは今、どこにいるか知っているか」

「……知っていたら、どうだというんですか?」

「隠すのか?」

「理由によります。俺をわざわざこんな所に呼んで、何故そんなことを聞くのか。理解しかねます」


 ガタン!


「!」

 びくっとした。大きな音がしたからだ。

「……何?」

 恐る恐る、ゆっくりと、白い布に手を伸ばした。

 心臓が早鐘のように鳴っているのが分かる。

 怖いのだ。

「……剣を降ろしてもらえると、ありがたいです」

 ダイドの落ちついた声。

「!?」

 剣?

 誰が?

 私は震える手で白い布に手を伸ばし、微かにめくり上げた。

 そこから見えたのは、想像通りの『良くない状況』だった。

 子爵がすごい形相でダイドに剣を向けていたのだ。

 つっと汗が伝う。

「言え」

 状況把握ができない。


「そいつを出せ! どこにいる!!」


 それは、心底怒りを露わにした子爵の声だった。

 思わず身体を硬直させる。

 こんなに声を荒げた子爵を、今まで見たことがない。

「理由もなしには言えません」

 それでもダイドは毅然とした態度だった。

「彼は俺の剣の師でもありました。簡単に彼の情報を売れません」

「金が欲しいということか?」

「いりません」

 即答だった。

 剣を震わせてひどい殺気を放ちながら子爵は怒鳴った。

「私の父と母を殺したのが、その男だからだ……ッ!」

 その顔は憎しみと、悲しみが混ざったような表情を携えていた。

「ずっと行方を追っている……。見つけ出して……必ず殺す!!」

 ダイドは顔をしかめ、目を閉じて長いこと沈黙した。

 そして。

「教えられません」

 沈黙の末、ダイドはそう呟いた。

 その瞬間、剣は空気を切り裂いた。

「っ……!」

 私はその音に身を縮めた。

「庇うのならお前も切るぞ」

 子爵の声が震えていた。

「……彼は、傭兵です」

 それに対して、ダイドの声は驚くほど落ち着いていた。

「だからなんだというんだ!!!」

 もうほとんど叫びのようだった。

「彼らにとって剣を振るうことは、生きるための術です。そうやって生きる者を善と悪で割るのは、理に反します」

 カシャン!

 剣が床に落ちる音がした。

 そして同時に、机や椅子が乱暴に倒れる音がした。

 子爵がダイドに掴みかかったのだ。

「殺人鬼をかばうのか……!」

「庇うんじゃありません!」

 ダイドの声も大きくなる。

「ではあなたは、人を殺した者を怨むのではなく、その剣を憎むというのですか」

「何……?」

「俺達には剣以外、他に選ぶ道がありませんでした。特に彼には。だから彼は、人間に使われる剣になった」

 きっと地図から消された町で、彼らが生きていくにはそれしかなかったのだ。

「俺は。許せとは言えません。でも、彼のことをあなたに話す気はありません」

「貴様……!」

 拳が振りあがった。


「子爵……!」


 私はその瞬間、飛び出していた。

 何を考えたわけでもなく、ただ、飛び出していた。

「な……!」

「ラピス!?」

 子爵が、ダイドが、ブレトンが。全員が驚いていた。

「ラピス……! 何故……――」

 それを言い切らせるか否かの瞬間に、私は子爵に抱きついていた。

 これ以上、見ていられなくて。

 やめてくれ、など。何も知らない私が簡単に言える言葉ではなかったが、それでも止めたくて。いてもたってもいられなかったのだ。

「……っ!」

 子爵は振りあげた拳を、躊躇ったように震わした。

 そしてその拳をぐっと握りしめたかと思うと、諦めたようにゆっくりをと腕を下ろした。

「……ダイド」

 子爵はうなだれた。

「はい」

「ひとつ答えろ。奴は……生きているか……」

 ダイドは少し考えてから首を振った。

「分かりません」

 そしてまっすぐに子爵を見た。

「俺も村から出て長い。彼も、村には年に数回しか帰りませんでしたから……」

「何も、知らないのか……」

「正直。俺は彼が今何をして、どこにいるかなんて不確かな噂でしか知りません」

 子爵はそうか、と小さい声で言い、ゆっくりと右手で私の肩に触れた。

「ブレトン……。この者を、町まで送れ」

「はい」

 ブレトンが頷いてダイドの傍まで行くと、ダイドはさっと立ち上がり、何も言わずにまっすぐ部屋を出ていった。


「ラピス……」

 子爵の声が降ってくる。

「さっきの話は、聞かなかったことにしてくれ……」

 それは、とてつもなく弱々しくて、とてつもなく悲しかった。

 私は黙ったまま頷いた。

「……すまない」

 なんで、謝るの?


 私の涙が一滴、床に落ちた。


 ***


「僕からも謝っておきます」

「え?」

 馬車の中で、ブレトンが謝る。

「君とラピスのあとをつけまわしたり、盗み聞きしたりしたこと。自分でも悪趣味だって分かってる」

「ああ……構いませんよ。やましいこと、してませんから」

「……。君、俺がいてもするときゃするでしょ」

 ダイドは無言で微笑んだ。

「……くえねぇ」

 ブレトンは苦笑いした。


 ***


 その夜。

 父親と母親の両方を幼い時に殺されてしまった、小さな子爵の夢を見た。

 見たこともないから想像の姿だけれど、それはひどく生々しかった。

 守らなければならない使命と、酷い孤独と、人を信用できない現実が、幼い身体に圧し掛かって、小さな子爵は身動きの取れないまま、まるで傷を負った鷹のようにあたりを睨みつけながら耐えていた。

 彼は泣かなかった。

 ただ、恨んでいた。


 ひどい頭痛と共に、私は眼を覚ました。

 そして、どこか遠くにいるだろう父と母を想って涙が溢れた。

 会いたいと、思うのだ。

 触れたいと、思うのだ。

 悲しいと、思うのだ。


 子爵は、それを許されなかったのだ。

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