第3話 目の前に迫る、ギラリと鈍い輝きを放つ刃を見つめ、ボクは思った。
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半ば予想はついてたよ。
「って」
ジークベルトよりも鋭い斬撃が、ボクの頬を
あ~、あ~、あ~、あ~
頬が、ボクの頬がざっくりと斬れて血が出てる。
ボクはジャンプして避けたけど、この西洋甲冑動きも迅い。
追いつかれる。
「ねえ、ちょっと、なんでいきなり斬りつけるの!?」
「うるさい、黙れ!!」
って、わっ、た、た、た。
背中、背中を斬られた。
なにこれ、むちゃくちゃ痛い。
変異したボクの身体を、紙のように切り裂いてる。
「あの、ねえ、
どうせアンジェリカ関連でしょ、流れ的に。
「我が愛娘をたぶらかした悪漢め、成敗してくれる」
娘!?
娘って、誰!?
違うよな。
琥珀さまは、和風の鎧兜姿だし。
絶対違うよな。
河を、この姿で泳ぐバカはいない。
それも違う。
稟の母親なら、きっと金棒でボクをぶん殴る。
ピンクちゃん!?
これも絶対違う。
マシキュランが鎧を着込む理由が無い。
それに、この剣、真剣だし。
マシキュランなら、プラズマカッターだよね。
アンジェリカ!?
それも違う。
だって、この人、両脚があるもん。
「なにをボーッとしてるの。寝ぼけた頭のまま、死ねえ!!」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
目の前に迫った切っ先を、白刃取りしたボクは、そのまま巴投げを打つように甲冑を後ろに投げ捨てた。
壁に激突する寸前で、身体をくるりと
そのまま弾丸のように、ボクに迫る。
「うわっ、と」
ざっくりと胸を斬られた。
うわ血が、血が、ドクドクと⋯⋯
ハンマー。
ハンマーで反撃しないと。
でも、甲冑がボクの前に立ちはだかってる。
知ってるんだ、こいつ。
あのハンマーが
その上で、ボクの手に渡らないように、絶妙な位置取りをして阻んでる。
この人、強い⋯⋯
ジークベルトなんて問題にならないレベルで、強い。
間違い無く、上樹先輩レベルだ。
両脚を斬り払われたボクは、痛みのあまり、その場に膝をついた。
「我が愛娘アンバーの無念を知りなさい」
アンバーって、誰!?
「多分、なにか勘違いしてる⋯⋯」
ボクは胸を押さえながら訴えた。
「まだ言うか。どこまで
不埒もなにも、アンバーって誰よ!!
「死ね。
あ~、終わった。
まだ二十五なのに。
変異も完了してないのに。
こんな事なら我慢せずに、琥珀さまと河童小娘と稟とアンジェリカと、ピンクちゃんは流石に無理か、あんな事や、こんな事を⋯⋯
こんな事を考えてるから、不埒呼ばわりされるのか!?
でも、ボクも健康な男たよ。
可愛い女の子に慕われて、そこを管理人の立場やなんやで我慢して来たんだから、その忍耐力を誉めてくれても良くない?
こんな変な甲冑に、難癖つけられて死ぬなんてあんまりだ。
そうでしょう。
そうじゃないかな~
理不尽だよ。
「アンバーって、誰だよ!?」
「我が愛娘を見忘れたか!?」
「見忘れるもなにも、会ったことないし。きっと誰かと勘違いしてますよ、あなた」
「なにっ!?」
「住所調べましたか。異世界って無限大にあるんですよ。本当にここ?」
ボクの
「ここはプロトハブ60000よね?」
甲冑が胸元に手をやりながら、おそるおそるボクに訊いた。
ボクは頷いた。
「で、君は桐生・ローレンス・暁人くんよね」
ボクは、大きく頷いた。
「ならば間違いない!!」
だからなんで!!
アンバーなんて、知らないっての!!
「私を騙そうなんて本当に良い根性してるわね。この
色魔!?
いままで散々、エッチだのスケベエだと言われて来たけど、さすがに色魔呼ばわりは酷くない。
「我が娘アンバーの無念を思い知るがいい。我が名はコーラル・ライオンロード。この名を胸に刻んで、あの世へ
こと、ここに至って、ボクも覚悟を決めた。
両目を
訳の分かんない人生だったけど、悪くない人生だったな。
あ~、走馬灯が。琥珀さまの顔が浮かんで⋯⋯
あと河童小娘に、稟に、ピンクちゃんに、アンジェリカも⋯⋯
あ~、嫌だ。
死にたくない。
死にたくないよ。
こんな死に様はあんまりだ。
せめて側に、琥珀さま、河童小娘、稟、ピンクちゃん、アンジェリカがいてくれないと。
みんなでお風呂に入って、背中の流しっこして、髪の毛を洗って上げて、湯船でいちゃいちゃして、その後ベッドに移動して⋯⋯
嫌だ。
こんなの嫌だ。
彼女たちに逢えなくなるなんて嫌だ。
絶対嫌だ!!
好きだ。
愛してる。
全員、愛してる。
なんだよ、文句あるのか。
全員可愛いんだ。
人生最高のモテ期なんだ。
誰が一番なんて、決められる訳ないだろう。
誰にも渡したくないし、誰とも別れたくない。
こんな終わり方嫌だ。
嫌だ、嫌だ、
「嫌だァァァァァァァァ」
「往生際が悪い!!」
ピュイィィィィィン
鋭い刃音がして、ボクの目の前が真っ暗になった。
♠
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