第12話


 ♠



 遅れて到着した中元が、りんを口説き始めたのを皮切りに。

 河童小娘かっぱこむすめは、なんか嘉藤かとうにデレデレしてるし。

 琥珀こはく さまは、琥珀さまで満更でもない顔して、師村しむらと談笑してるし。

 なに?

 このお見合いパーティー状態。


 ボクは、とても面白くない。

 場の空気を悪くしたくないから、ボクも強く出れないし。

 こんな時、普通は酒でも飲んで気を紛らわせるんだろうけど。

 代謝が十倍もあるボクは、どんなに強い酒を飲んでも酔えやしない。


 もう、もう、もう!!


 なに頬を赤らめてんの?

 お前、顔色変えたら深緑になるんじゃなかった?

 稟は、稟で中元相手になんか空手の組み手みたいな事してるし。

 君が本気で殴ったら、中元死んじゃうでしょ。



 あと、琥珀さま。



 なに照れてんの?

 ボクの事を、散々好きだなんだって言ってたのに。


 もう~


暁人あきと。おい暁人」

 肩を揺さぶられて、ようやく気づいた。

はじめ先輩」

「創先輩じゃないよ。話を聴いてなかったろ、お前」

「すみません。ちょっと考え事を」

「昔っからそんな所があるよな、お前は」

 そう言った創先輩が、ボクの肩を小突いた。

「で、なんですか?」

「ほら、やっぱり聴いてない」

「すみません」

 ボクは再び謝った。


「グリフォンが出て来た状況を聞きたいの」

 状況もなにも、あの時、

「ボクがお風呂から上がると、そこにグリフォンがいたんです」

 開け放ったリビングを指差した。

「ゲートの中に、直接現れたのね」

 グリフォンを食べながら上樹先輩が訊いた。

「はい」

「変ね~」

 もぐもぐと租借そしゃくしながら首を傾げた。

 昔から良く食べる人だったけど、全く変わってない。

 気持ちが良いほどの食いっぷりだ。


「何が変なんです」

「グリフォンとかキマイラとか生命力の強い生物は、マルチゲート無しで異世界転移をしたりするんだけど」

「ええっ!!」

 初耳だった。

「大抵は山奥とか、砂漠のド真ん中とか、人目の無い場所に現れるのよ」

「へ~っ」

「で、時々目撃されて、伝説になったりするの」


 なるほど。


 昔話に出て来るドラゴンや鬼なんかは、自力で転移して来た異世界の生き物を、当時の人が目撃したものが元になって生まれた伝説なのか。

 じゃあ、何が変なんだ?


「グリフォンなんかがゲートに直接転移して来ることは、まずないのよ」

「それはいったい⋯⋯」

「それを調べるのが、私たちの仕事なんたけどね」

 と、上樹先輩が付け加えた。


 創先輩と上樹先輩はカナダのマルチゲートの管理人で、各国政府の要請で、ボクのペントハウスに侵入した危険生物の調査に来たんだとか。

 グリフォンやジークベルトより、上樹先輩のほうが、よっぽも危険生物だと想うんだけど⋯⋯

「君も、その対象なのよ暁人あきとくん」



「ボクが!?」



 ボクは自分を指さした。

「自覚が無いようだから教えておいてあげる」

 箸を置いた上樹先輩が、表情を改めてボクに言った。

「いまの君は、グリフォンやマンティコアーよりよほど危険な生命体なの」



 え、マジで!?



「この世界で対抗しうる能力の持ち主は、私しかいないの。だから、もし君が人類に害をなす存在になった時は、私が君を止めるわ」


 あの~、それはつまり。


「つまり。私が君を斬るの」


 あ、やっぱりそうなるの。


 それは嫌だな~


 上樹先輩のこと好きだけど、上樹先輩に斬られるのは嫌だ。

 上樹先輩と創先輩の言葉を、どこか遠い世界の言葉のように聴いていたとき。


 突然。


桐生きりゅうさん!!」

 と、ピンクちゃんの声がした。

「わ、ロボットだ!!」

 違うマシキュラン。

 マシキュランに向かってロボット呼ばわりするのは、禁句なんだよ中元。

「どうしたのピンクちゃん」

 私は目立つからって、向こう側の世界に行ってたのに。

「お止めしたんですが」


 何を?


「ローレンス・暁人」

 アンジェリカがボクの胸に飛び込んで来た。

「ウロコ女!!」

 今の今まで笑ってた琥珀さまが、髪の毛を逆立てて刀を抜いた。

「人魚だ!!」

「人魚だ!!」

「やっぱりイレズミ凄え!!」

 嘉藤。

 お前だけ、ちょっと視点が違う。

「え!?」

「本物?」

 あとで説明するから、ちょっと黙ってて師村と中元。


「どうしたのアンジェリカ」

「大変なのローレンス・暁人」

「大変なのは、そなたじゃウロコ女。せっかくの宴の席に、ずかずかと土足で踏み込みおって」

 いや靴履いてないし。

 いや、そんな事はどうでも良い。

「ジークベルトが」

「ジークベルトが?」

「ジークベルトが逃亡したの」


 大変だっ!!



 ♠



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