第7話
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「何事かや!?」
わらわは土埃を払いながら刀を抜いた。
えれべーたーほーるの床が抜けておる。
二階下のふろあまで陥没しておる。
日に日に強くなっておられる。
わらわの胸が、きゅ~んと切なく高鳴った。
暁人どのこそ、わらわの婿に相応しき方よ。
あれほどの殿方は、どの異世界を探しても他におらぬ。
「アキトー」
それだけにライバルは多いの。
暁人どのは優しいから、無事なら貧乳河童の呼び声でも応えるはずじゃが返事はない。
「暁人どの」
ええい、邪魔くさい埃じゃ。
わらわは二階下のふろあに飛び降りた。
「鬼娘!?」
わらわの足下で、鬼娘が延びでおる。
命を失ったか。
わらわがそなたの首を取るはずだったのに⋯⋯
片手で拝み、開いたままの瞼を閉ざそうと手で触れた。
「生きておる」
脈を取ったら、意外に力強い鼓動を感じた。
着衣の裂け目から腹に触れた。
腫れておる。
峰打ちかや!?
しかし、なんという破廉恥な格好をしておるのだ、こやつは。
すけすけで、ほとんど裸同然ではないかや。
⋯
⋯⋯
⋯⋯⋯
暁人どのは、こーゆーのが好みなのかや?
わらわも着るべきかの。
ただ、この格好になるのは、スッポンポンになるより恥ずかしい気がする。
ええい、いまはそれより暁人どのじゃ。
この鬼娘を手玉に取るとは、一体何者なのじゃ。
「
貧乳河童め。
わはわを呼び捨てにするとは、許せぬヤツ。
まあ、今回は緊急事態ゆえ許してやるが。
「鬼娘が延びておる」
「えーっ、なに?」
「鬼娘がのびておる」
「
なんじゃあやつは。
りんとは誰のことじゃ。
「
「
抱き抱えようと想ったが無理じゃ、重い。
こやつも妙ちきりんな格好をしておる。
きっと、暁人どのの趣味じゃな。
わらわも負けておれん。
「生きておったのかや」
「ハイ。あなたは?」
「わらわもは無傷じゃ。しかし、暁人どの姿が見えぬ」
「この先にいます」
魔式裏の桃色娘が指さした。
「気をつけて。相手はアルファ級の
あるふぁ級!?
あるふぁ級じゃと!!
わらわの背中を冷たい汗が流れ落ちて行った。
あの恐るべき
この土煙の向こうには、あるふぁ級の怪物がいるというのかや。
わらわは震える手で刀を握り直り、深い呼吸を繰り返して心から
あるふぁ級の敵とあらば、今の暁人どのとて敵うまい。
あの鬼娘が手玉に取られる訳じゃ。
わらわとて、ひとたまりもあるまい。
死ぬるなら
ただひとつ心残りがあるならば、せめて一度だけでも今生で契りを結びたかった。
わらわは眼を閉じた。
眼を開ければ土煙に惑わされる。
この臭いでは鼻も利かぬ。
耳も役に立たぬ。
気じゃ、気を読むのじゃ。
新月の暗闇のなかで、姉上に教わった通りに己の気配を断ち、敵の気配を探る。
上のふろあに、まだ三体の気配がある。
一体は貧乳河童のもの。
残り二体は敵であろう。
しかし、これは小物である。
貧乳河童一人で切り抜けられる程度の敵じゃ。
しかし、この土煙の向こうに潜む相手は⋯⋯
大山の如く雄大で、大海の如く
これが、あるふぁ級の気配なのかや。
駄目じゃ、恐い⋯⋯⋯⋯
次の一歩が踏み出せぬ。
暁人どの、わらわに力を。
わらわに力を与えてたもれ。
土煙が晴れた。
涙で
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