第8話 麗しのアンジェリカ!!
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ボクは刀を鞘に収めて刀掛けに戻した。
「ふふん、それが良い。そのような
ムッ
と、したボクはジークベルトの目の前で
その刃風の鋭さにジークベルトは眼を見張った。
ふん、ざまあ見ろだ。
こう見えてもインターハイ準々決勝進出者だぞ。
ボクの高校時代の忙しさを知れば、ジークベルトも少しはボクを見直すと想う。
水泳部と剣道部の両輪で、それこそ眠る間もない程の忙しさだった。
剣道部の助っ人として出場した団体戦地区予選で、いきなり五人抜きしたボクを剣道部の顧問は水泳部から引き抜こうとした。
それが原因で水泳部の顧問と、剣道部の顧問の仲が険悪になってしまったけど。
正直、剣道部はボクの性に合ってたと想う。
でも、水泳部には上樹先輩がいた。
上樹先輩とさよならするのが嫌で、ボクは水泳部と剣道部の掛け待ちを余儀なくされたんだ。
でも、結局、三年の夏の大会で
剣道部の全国大会で準々決勝敗退したんだ。
PTA会議で、どちらか一方に
師村はすんげえ怒ってたし、OGとなった上樹先輩も悲しんでいた。
でも、もうあの
自由になりたかった。
だから県外の大学に進学し、水泳とも剣道とも無縁の⋯⋯
「聞いておるのか、
――回想終了――
「その娘は誰だと訊いておるのだ」
背後からボクをハグする、赤くて逞しい長い腕を剣先で指差すようにジークベルトが尋ねた。
このキツい体臭。
「
「はい暁人さま」
そう言った稟は、いきなりボクの唇を奪った。
♠
そのあまりに情熱的なキスに、ボクは腰を抜かしそうになった。
何なのこの子。
キス魔なの!?
なんだかちょっと心残りだけど、絡まる舌を強引に離して、ボクは稟に言葉を掛けた。
「り、稟。いったい何をしに来たの!?」
「ぼくのこと嫌い!?」
ちょっぴり寂しげに眉をひそめた。
「き、嫌いじゃないよ」
「本当!! 嬉しい」
そう言って再び唇を重ねて来た。
「貴様!! アンジェリカが居ながら、その
ボクの唇から口を離した稟が、ボクに代わって答えた。
「ほく? ぼくは暁人さまの二号さんです」
いやいや、ちょっと待て。
何でいきなり二号さんなの!?
「二号だとォォォォ!!」
「あれっ? 違ったかな?」
宙を見ながら指折り数えた稟が訂正した。
「四号さんだった」
「よ、四⋯⋯」
いや違うし。
一夫多妻制の国じゃないし。
まだ誰とも結婚してないし。
「アンジェリカという者がありながら、他に三人も妻がいるのか貴様!!」
「きっと、もっと増えるよ」
火に油を注がないの!!
「許さぬ、貴様だけは絶対に許さぬ」
あ~ぁ、青筋が。
ジークベルトのこめかみに、ぶっとい青筋が立ってる。
血圧あがるの良くないよお父さん。
って、勝手に元カレと想ってたけど、こいつとアンジェリカの仲って実際問題どうだったんだ?
「ちょっと質問?」
「なんだ!!」
「あんたとアンジェリカの仲ってどうだったの?」
ジークベルトが、そーっと眼を逸らした。
眼をそらしたよ、こいつ。
「その質問には黙秘する」
ずっこいぞジークベルト!!
「さっきは何でも答えると言ってたろ」
「さっきはさっき、いまはいまだ」
なんて身勝手なクソ生首だ。
もう良い。
ゼニガタの兄貴を呼んで引き取って貰う。
「ねえねえ」
ボクのズボンに手を差し込みながら稟が言った。
って、何してんの稟。
「アンジェに連絡して訊いた方が速いよ」
「待て、待て、待て、待て」
一気に青ざめたジークベルトが大慌ててで止めに掛かった。
「そんな真似をしてみろ、
それは困る。
このペントハウスで人死にを出すなんて真っ平ゴメンだ。
それが異世界の殺人鬼だったとしても、絶対にダメ!!
「アンジェリカに連絡されたくなきゃ、正直に答えろジークベルト」
「それも断る」
何だと、この野郎。
「もういいよ、さっさと連絡しちゃお。時間が無くなっちゃう」
ボクのTシャツを脱がしながら稟が言った。
さっきから何してんの稟。
って、あれ?
何か怒ってる。
それに何の時間が無くなるの!?
「待て、待て、待て。分かった白状する」
あ、折れた。
「身供は」
身供は?
「アンジェリカのフアンである」
♠
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