第33話 慢心しないようにしようと

 赤い表示が現れたのを見て俺は、


「これが俺の現在地か。確かに俺の今の場所と目的の場所、地図がそろっていた方が分かりやすいよな」

「……そろそろ異世界人に突っ込みを入れること自体が間違いなのかもしれないという気がしてきたわ」


 そこでシーナがその表示を見て疲れたようにそう言われてしまった。

 俺、特に変な発想はしていないよな?

 ゲーム内の地図だけでなく、カーナビゲのようなものはあるわけだし……とそこまで考えた俺は、この世界には俺たちのような“科学文明”が“無い”事に気づいた。


 この世界では魔法が主流ではあるが、まだ俺達の時代よりも百年単位で昔のものと同じくらいなのかもしれない。

 もしくは魔法により進化を止めているのか。

 他に考えるとするなら“新しいもの”を“思いつく”事自体が非常に難しいのかもしれない。


 言われてみればわかるけれど、その前は思い付きもしない、“コロンブスの卵”のようなものなのだろうか?

 そうなると魔法のある世界を知らない俺たちが、思いもよらないような考えや発想、それがこの魔法世界には“当たり前”のように根付いているのかもしれない。

 慢心しないようにしようと俺は思った。


 そう思っていると再び蝙蝠のような魔物が飛んできたので、


「“氷の果実”」


 というように冷気を放出して凍らせてしまう技を使う。

 ちなみにこの魔法はシーナによると、元々は果実を凍らせてシャーベットのようなものや、甘いお酒を造るために使われていたらしい。

 それを戦闘にも応用しているとのことだ。


 そして目の前には氷漬けにされた蝙蝠のような魔物がそのまま地面に落ちて砕けて、奇妙な黒い煙と結晶が出る。

 その黒い煙もまたダンジョン内に漂って新たな魔物になるそうだ。

 ある一定の密度になると結晶化が起こり、この魔石が生じ、それが核となって魔物が生成されるといった研究結果があるらしい。


 ただ魔物に関してはほかにも要因があるそうではあるが。

 そう途中でシーナに聞いた説明を思い出しながら、俺は魔石を拾う。

 これを売ってもいいし使ってもいい。


 そんな魔力の結晶だ。

 俺はそれを見ながらとりあえず、


「この魔力の結晶はどんなものなんだ?」

「調べないと分からないわね。同じ系統の魔物でもそのまま魔力として使った方がいいのか、触媒に加工しやすい性質のものなのかといった違いも結構出てくるから」

「そうなのか、結構個性的なんだな」


 そう聞きながら拾った魔石をしまったのだった。

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