第225話「お弁当」
『はーい、皆さん。お弁当は美味しいですか~? お昼休憩の後の競技は男子の「騎馬戦」でーす。参加される人は競技が始まる五分前に入場ゲートへお集まりくさいねー?』
「「「はーーい! メガネちゃーーん!」」」
「…………私の『名前』は!?」
「ん? 委員長、どうしたの? 今は昼休憩中なんだから静かにしないとダメだぞ」
「あ、安藤くん、それはそうなんだけど……そうじゃなくて、私の『名前』は結局どうなったのよ!?」
「え、名前? 何言ってんだよ……委員長は『委員長』だろ!」
「……まぁ、そんなオチだとは思ったわよ」
(期待した私がバカだったわ)
「まったく……誰かさんは、抜け駆けして早めにお弁当を食べていたみたいだし、いいご身分よね?」
「たかが十分くらい早めに弁当を食ったくらいいいだろ……。それに、その埋め合わせじゃないけど、朝倉さんは委員長達がゆっくり休めるようにって、一人だけ早めに昼休憩を切り上げて体育祭の運営をもう手伝ってるんだからな」
「朝倉さんは別にいいのよ。私が言っているのは安藤くんよ。貴方も早めに休憩を切り上げて何か手伝ったらどうなのかしら?」
「ハッ! 残念でしたぁ~! 俺は体育祭の運営に関しては他の人に任せっきりだから、何も出来なさ過ぎて『あ、安藤くん……そのぉ~、ここは私に任せて、貴方は先に休んでてくれるかしら……?』って、ラノベ風の言い回しで『お荷物宣言』された後だぜ!」
「本当に残念なのは安藤くんなのよね……」
(彼女に、お荷物扱いされる彼氏って……)
「そう言えば、石田くんと藤林さんは何処に行ったのかしら?」
「ああ、あの二人なら保健室だよ。石田が体力的にまだ歩けないからって藤林さんが弁当を持って行ったな」
その頃、保健室
「はい、石田くん。あーん♪」
「いや、藤林……? 僕は足が痛いだけで手は普通に使えるから『あーん』はいらないんだが……」
「あーん♪」
「だ、だから、それは――」
「あぁ~ん……
「……いただきます」
「どう、石田くん……。お、美味しいかな?」
「あぁ……」
「えへへ、良かった♪」
「じゃあ、石田くん達はしばらく戻って来なさそうね」
「そうだな」
(まぁ、石田が脱落した埋め合わせは既に――)
「もう、お兄ちゃん! 委員長さんとばっかり話して、箸が全然進んでないじゃん!」
「うお!? い、妹! いや、だってさ……お兄ちゃん既に朝倉さんの弁当を食った後で結構腹がいっぱいなんだけど……?」
「それは、お兄ちゃんが勝手に早めにお弁当を食べるのが悪いんでしょ! 今日は、珍しくお母さんがお弁当を持って来てくれるって言ってたじゃん!」
「そんなの忘れていたんだから仕方ないだろ! しかも、誰が自分の母親が重箱で弁当をデリバリーしてくるって予測できるんだよ!? まったく……一人で一体どれだけ作ってるんだか」
「そ、それは……お母さんもお兄ちゃんに友達ができて嬉しかったんじゃないかな? あはは~」
(うぅ……本当はお母さんと一緒に私も作るの手伝ったから、予想より二倍の量のお弁当を作っちゃったなんて言えないよぉ……)
「友達って言うか……ただの生徒会仲間だけどな……」
「ほら、お兄ちゃん! とにかく、このお弁当を片付けるの少しは手伝って! 特にこの『玉子焼き』とか『サラダ』とか『きんぴら』とかね!」
「何でお前さっきから俺に弁当の『副菜』ばっかり食べさせようとするの!? メインのおかずも食べたいんですけど!」
「それはお母――じゃなくて、おかずは他の惣菜を食べた後でね!」
(しょうがないじゃん! お母さんは料理に厳しいから『私より美味しいおかずが作れるの? 今はまだ副食の料理をしっかり作れるようにならないとね?』って言って、私には副食のメニューしか作らせてくれなかったんだもん!)
「センパ~イ
「お! 姉ヶ崎後輩、いいのか!?」
「ハイ♪ センパイってば、野菜ばっかりでかわいそうですしぃ~? アタシのお弁当お肉が少し多いので、良かった食べてくださいね
「そうか、サンキューな。これはしょうが焼きか?」
「いえいえ、そんなちゃんとした料理じゃないですよ~♪ ただの作りおきですし、ネギぽん酢の豚しゃぶみたいな感じですかねぇ~
「へぇ~、意外と美味そうだな……じゃあ、いただき――」
「まぁ――すんっ!」
「「んな!?」」
「もにゅもにゅ……ゴックン! うーん、私はもうちょっと、濃い味の方が好みかな~? ちょっと、薄味すぎない?」
「い、妹ォォオオオオオオオ!? 何でお兄ちゃんのお肉を横取りなんて……」
「うるしゃい! お兄ちゃんはこれを食べちゃったら、余計にお母さんのお弁当が食べられなくなっちゃうでしょ!」
「ちょっとぉ~、安藤さぁーん……人のお弁当を横取りするとかお行儀悪いんじゃないの? みたいなぁ~
「姉ヶ崎さん、ゴメンね~? ……でも、勝手に人のお兄ちゃんに餌を与えないでくれるかな……?」
「あ、ゴメンなさぁ~い。でも、センパイが貧相な料理しか食べさせてもらってなかったから……つい、みたいなぁ~
(アタシの料理が……餌?)
(私のお惣菜が……貧相?)
「ふふふ……」
「キャハハ~」
((……この野郎!))
「え、何……この空気? おい、お前らもう少し仲良く――」
「「
「ハイ! 申し訳ございませんでした!」
(……何これ、怖い)
「アタシの料理が薄味とかぁ~、安藤さんって味覚がおかしいんじゃない?」
「はぁあああ!? そんなこと言うなら、私の作った料理を食べてみなさいよ!」
「望むところですぅ~!」
「……なぁ、委員長。あいつらって、意外と仲いいのか?」
「私からはなんとも言えないわね……」
(しかし、妹ちゃんも大変ね……)
「そういえば、委員長も昼は弁当持って来てるんだな。何それ、手作り?」
「一応そうだけど……別に、ただの手抜きだし、私のお弁当はヘルシー路線だから、安藤くんのお好きなお肉は無いわよ?」
「確かに、ご飯とサラダにスクランブルエッグにと……肉と言えるのはベーコンのアスパラ撒きくらいだな。何、委員長ってベジタリアンなの?」
「健康志向なだけよ。まぁ……アスパラ撒きくらいなら一ついいけど……いる?」
「え、いいの? じゃあ、いただきまーす。ふむふむ……うん、美味いな!」
「そ、そう……なら、良かったわ」
(この男と一緒にお弁当を食べてるなんて……数ヶ月前じゃ、想像できなかったわね)
「ん? 委員長、どうした? 顔が赤――」
「安藤ぉ~くん!」
「ぐぁ! 何? め、目隠し!? いきなり、目の前が真っ暗に……」
「でへへ~、だぁーれだ?」
(この声は――って、ちょっと待って……何か背中にものすごい重圧が来るんですけど!? こ、この
「……安藤くん?」
「ッ!?」
(ハッ! や、ヤバイ……何か目の前の委員長からものすごい睨まれている気がする! これは朝倉さんにチクられる前に答えないと!)
「おぱ――じゃなくて! も、桃井さん……ッ!?」
「うん! 当たりだよー♪」
「安藤くん……貴方、一瞬何か言いかけなかったかしら……?」
「ななな、何を言っているのかな!? 委員長、俺はちゃんと『桃井さん』って答えたじゃないか! アハハ~……」
(よし、下手なことを言う前に話題を変えよう)
「そ、それより、桃井さんはどうしたのかな?」
「うん、サクラがいないかな~? って、思ったんだけど……どうやら、いないみたいだねー?」
「朝倉さんなら、丁度次の準備の確認で出ている最中なんだよ」
「うへぇー! 生徒会って大変なんだねー」
「でも、そんな時間がかかる作業でもないし、もう直ぐ戻って来ると思うからよければ生徒会側の応援席で待つ?」
「うん! じゃあ、そうさせてもらおうかなー♪ 委員長、お邪魔するねー?」
「べ、別に……私はお邪魔だなんて思ってないわ」
「なら、良かった♪ 因みに、さっきまで何を話してたの?」
「特に話す内容でもないわ」
「ふぅ~ん、そっかー」
(まさか、だけど……サクラがいない間に変なことはしてないよねー?) ← アイコンタクトです
(それこそ『まさか』ね。むしろ、それは桃井さんの方じゃないのかしら?) ← アイコンタクトです
「……? そう言えば、桃井さんは昼は食べたの?」
「え、お昼? うん、食べたよー。でも、ちょっと量が足りなかったんだよねー。こんなに合同体育祭が疲れるならもっと、大盛りで盛ってくればよかったよ。たはは……」
「あー、桃井さんって、結構エントリーしてるもんね。何種類くらい出る予定だっけ?」
「うーん、午前までの競技だと『女子200メートル走』とか『スプーンリレー』と『玉ころがし』かなー? あとは午後からも『激辛カレーパン食い競争』に『タッチダウウン』にも出るよー!」
「そりゃ、疲れるね……」
(点数配分が少ない競技はあまり見てなかったけど、桃井さんはウチの学校でも運動が出来る方だから、個人競技の方で結構出てもらってるんだったな……。いやぁ~、それにしても『200メートル走』とかで走る桃井さんは素晴らしかった……特に一部の『
「そうだ! よかったら、ウチの母親が持って来た弁当が残ってるんだけど食べる?」
「え、いいのー!」
「うん。妹ー、別にいいよな?」
「あ、桃井先輩! こんにちはです♪」
「妹ちゃん、こんにちはー♪」
「お弁当ですよね? どうぞどうぞ! 沢山あるので食べちゃってください♪ あ、この『からあげ』とか『春巻き』なんてどうですか?」
「ちょ、妹!? お兄ちゃんもできたらそっちのメインのおかずが――」
「黙らっちゃい! お兄ちゃんにはこっちの『きんぴら』とかで十分なの!」
「何でだぁああああああ!?」
「安藤くん、お待たせ! もう、やっと準備が一段落着いたわ……って、なんだか賑やかね?」
「あ! サクラ、やっと来たー!」
「え、モモ!? 何で、モモがこっちにいるの?」
「もう、サクラがいなくて寂しいから来ちゃたんだよー。でも、いなかったから、安藤くんにかまってもらってたんだー♪」
「うぇ! も、桃井さん! 何で、そこで抱きつくの……?」
「えへへー、なんとなく……かな?」
「ムキャァーッ!? ちょっと、モモ! おふざけが過ぎるんじゃないかしら! ああ、安藤くんは私の彼氏なんだから離れなさいよね!」
(ああ、安藤くんも……何、そんなデレデレした顔してるのよぉおおおおお!)
(ヤバイヤバイヤバイ……朝倉さんの表情もヤバイけど、右腕のメロンもヤバイ! 何がヤバイって、腕がメロンに飲み込まれてヤバイです!)
「う~ん……面白そうだから、アタシもはぁ~いろう♪ センパーイ
「はぁあ!? あ、姉ヶ崎後輩! お前もかよ!?」
「ちょ、お兄ちゃん!? さ、サイテーッ!」
「妹ォ!? 何でこの状況で俺が怒られるの!」
「キャハハ! マジでウケるんですけどぉ~
「姉ヶ崎さんもいつまでお兄ちゃんにしがみ付いてるの! お兄ちゃんから、離れてよね!?」
「痛い痛い痛い!? い、妹よ! 引っ張るなら、姉ヶ崎の奴を引き剥がしてくれませんかね!?」
「安藤くんったら、私がいない隙に何ラノベ主人公みたいなハーレム作っているのよ! ムキャァーッ!」
「アダダダ!? あ、朝倉さん! アバラが……ッ!」
(何これ!? 何、この状況!? 右手はメロンで、左手はレモン! 首はアバラで絞められて、足は妹に引っこ抜かれる……これなぁ~んだ?
今の俺の状況だよ!?)
「……
【次回予告】
「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ♪
そろそろ、あの男にも天罰が下ると思ったのよ。
さーて、次回の『何故かの』は?」
次回「やめたげてよぉ!」 よろしくお願いします!
「じゃあ、いつもの『ペタリンじゃんけん』を始めるわよ! 出す手は決まった? もちろん、私は決めてるわ。じゃあ、いくわよ?
ペタペタ・ペタりん♪ じゃん・けん・ポン♪」
【グー】
「皆のコメント、評価、待ってるわ♪」
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