第38話 隣のシート

 助手席、彼女の席だった頃は物を置かなかった。

 そこは彼女の場所だから。


 今は…荷物置き場だ。

 降ろす必要もない…退かす必要もない…。

 なにより汚れることがない。

 僕は車で物を食べない。

 嫌いなんだ…汚すのも、匂いが付くのも…。


 彼女は無神経に食い散らかす、こぼす。


 嫌いなはずだろ…良かったじゃないか。

 そう…良かった。

 無茶苦茶な食事も、食べたくもないものを買わされることも、もうないんだ。


 もう…ないんだ。

 僕には…もう…何も無いんだ…。

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