第14話「オーヘルハイブ王国」

 


 オーヘルハイブ王国――人族が誇る最大最古、そして最固の要塞型国家。


 国は全域を囲う〝国囲いの門〟の中に存在するが、大きく分けて北と南(これは読み方がとても長いので日本的に直したが)に区切られている。


 国の中で派閥があるというわけではなく、単純に範囲が広すぎるために警備や公共機関を分けたという経緯があるらしい。


 by. オーヘルハイブの地図。


 北には北のギルド、学校があり。

 南には南のギルド、学校がある。


 ネロさんが居るのは〝北オーヘルハイブ魔闘士育成学校〟だから、門をくぐったら国内で更に北を目指す必要がある。


 しばらく歩くと、

 国への出入り口である門が見えた。


 大きな石の門と、それよりふた回りも小さい石の門が合体した形になっている。


「門はあれだな。ちなみに、一番大きな門は戦争の時に開く」


 マーティンさんの豆知識を聞きながら更に進んでいくと、門の両脇に二人、茶色のマントと鎧を着ている人が立っているのが見えた。


「茶色は〝北ギルドの証〟だな。つまりここを抜けると北の領地という事になる。私の酒場も北にあるからちょうどいい」


 マーティンさんの家も北にあるらしい。


 俺の最初の目的地である学校も北であるため、ひとまずこれで長旅が終えられそうだ。


「門で問われるのは魔族かそうじゃないかだけだから、すぐに中に入れてもらえるだろう」


 マーティンさんのいう通り、門番とは一言二言話した程度であっさり門を開けてもらえた。


 最固と聞いていただけに厳重な取り調べでもあるのかと思っていたが、その辺はかなり甘いようで若干心配になるな。



「ようこそ我が国へ」



 マーティンさんの言葉と共に小さい方の門が開かれ――目の前に広がる光景に、俺は言葉を失った。


 整備された石畳の道と、

 非常に高低差のある特殊な地形。


 住宅が密集し山のような大きさになっている建造物もあれば、まるで崖のように抉れた地形に沿う形に住宅が密集していたりと、歪な形のマンションのよう。


 地形のいたるところに石造りの階段があり、人々がその長い階段を登っているのが見える。


 空には茶色と緑色の小包のような物体が飛び交い、道には〝騎獣きじゅう〟と呼ばれる種類の魔物が人を乗せ優雅に歩いていた。


 植物も多く生えているし、川もある。恐らく魔法が使えない人のためのシステムも存在しているのだろう。


「どうだい、王国を見た感想は」


「あのボロ小屋にはもう帰れない」


 すまんスカイン。

 ワクワクが止まらん。


 日が落ちてきたためか、

 至る所に設置された柱に光が灯る。


「この明かりは国内の魔闘士達の魔力で賄ってるらしいぞ。仕組みはわからんが、各家の中にも通ってるんだ。俺たちはそれを税金として納めているがな」


 そこのシステムは万国共通か……いや、魔力は発電とは違うから環境にも優しいか。


 とはいえ、全てに驚いていたらキリがないな。


「今から学校に向かってもネロ様がいるかどうか分からない。今日は私の家に泊まるのがいいだろう」


「まじすか。じゃあお言葉に甘えます!」


 さっそくタダ宿ゲット!


 マーティンさんに学校への行き方も聞いて、明日の朝一番で向かうとしよう。




*****




 マーティンさんの家――もとい酒場は、学校へ続く大きな通りの並びに建っていた。恐らく、土地としてはかなりいい場所だろう。


 店の外観はThe酒場という感じで、木造の味のある佇まい。中は広く、四人がけテーブルが八つもあり、カウンターにも四人ほど座れる余裕があった。


 カウンターの後ろの棚にはぎっしりと酒瓶が並べられており、ラベルが古く黄色く変色しているものや、つい最近並べられたようなものまで幅広い。


「汚ねえ店だがくつろいでくれ」


「いやいや、立派な店だと思うよ」


 いい土地にこれだけの大きさの店を構え、経営が成り立っている時点でかなりのものだと思う。


 出す酒が良いものなのか、

 それとも別に何か人気の物があるか……


 店の天井四ヶ所とカウンターに二ヶ所、マーティンさんが言っていたように優しい光が灯っている。


 オンオフが出来るのかすごい気になる。


「そこの扉を進んだ先に階段があるから、登って突き当たりの部屋を使ってくれ」


「ありがとう。使わせてもらうよ」


 お言葉に甘え早速部屋へ向かおうと思ったが、明日の仕込みだろうか、カウンターであれこれと準備するマーティンさんの姿が見えた。


「酒以外にも出すんだね」


「うちは飲食両方で勝負してるからな。昨日で店をたたむつもりだったが……二度も拾った命だ、大事にしないとなあ」


 照れ臭そうに笑ってみせるマーティンさん。


 死ぬ機会を失って何かが吹っ切れたようだ。


 来年また挑戦するなんて考えて無ければ良いんだけど、こればっかりは俺には止められないからな。


「この店は一人で切り盛りしてるの?」


「いや、一応看板娘が居たんだよ。店をたたむって話をしたらえらく泣かれちまってな……営業再開って聞いたら怒るんだろうなぁ」


 もう完全に死ぬ覚悟だったようだ。

 店の従業員をクビにして、店をたたんで。


 繁盛しているお店と、いい従業員。

 生きる支えになると思うんだけどな。


「いーや。また働きに来てほしいって伝えに行けばきっと来てくれるさ。死にに行った事は言わない方がいいけど」


 それじゃあもう休む――と伝え、俺は言われた部屋へと上がっていき〝清める光〟で簡単に体を綺麗にし、そのままベッドに体を預けた。


 久々のベッド……気持ちいい。




*****




 昨日はそのまま寝てしまったようで、気が付けば外に薄っすらと日が差していた。


 生活魔法の〝清める光〟は体の汚れや匂いを消し去ってくれる極めて便利な魔法ではあるが、眠気を取り去ってはくれない。


「顔を洗いたいんだが……」


 ここはスカインの家ではないため、どこに何があるか分からない。


 寝惚け眼ねぼけまなこで辺りを見渡してみると、部屋の隅に水の汲まれた木の桶と畳まれた布、それと端が欠けた鏡のような物を見つけた。


 マーティンさんが気を利かせてくれたようだ。


 早速、桶に入った水をすくって二、三度洗い、布で水気を取る。


「目がさめるぅー」


 こればっかりは魔法ではどうにもならない。桶がなければ部屋が濡れるし水は出せない、外はもう森の中じゃなく大都会である。


 目の前の鏡を見てみると、ボケーっとした表情でこちらを見つめる青髪の美少年と目が合った。


「だれ? ……いや、俺かこれ」


 鏡なのだから当たり前だけど、

 初めて自分の顔をしっかり見たなぁ。


 はっきりとした顔立ちの美少年、

 肌がやや白っぽく、瞳は髪と同じ色だ。



 これはモテる。



 俺はちょっと得した気分になった。

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