第9話「三闘戦争物語」

 


 スカインと暮らし始めてから一年の時が過ぎた。


 この一年を思い返してみても、ほぼ毎日、血反吐が出そうなレベルの鬼畜特訓の記憶しか蘇らない。


 とはいえ、そんな特訓にも耐えられたのは単に俺の魂が入っているこの〝器〟の根性と、現実世界に帰りたいという希望を捨てていないからだろう。


 母さんと茜を忘れた日は一日もない。


「なあスカイン。スカインからしてみたら変に聞こえるかもしれないけど、聞いていい?」


「ん? なんだ?」


 スカインとの仲は良好だ。


 なんというか……最初の頃は鬼としか思えなかったけど、毎日一緒に特訓しているうちに彼の愛情が分かるようになってくる。


 ニコロも俺に甘えるくらいには懐いてくれている。


「いや、この世界って本当に神様がいたんだなーと思って」


「……」


 俺たち地球人からしてみれば……もちろん神の存在を信じる人間はいるが一般的には居ないものという認識だと思う。


 受験の合格発表で神に祈り、落ちて神に怒り――俺の中ではそんなもんだ。


「〝三闘戦争物語〟は昔に読んだけど、やっぱ魔法も魔物もない世界から来た俺は、簡単には信じられなかったよ」


 俺の言葉にスカインは少し考えるような素振りを見せ、棚に置いてある三闘戦争物語の本へと視線を向けた。



〝三闘戦争物語〟



 かつて強大な力を持った三つの種族の戦いの歴史とその結末について、おとぎ話調に簡単に書かれた物語である。


 作り話かと思っていたが、実話らしい。


「三闘戦争……つまりは〝神族〟〝魔族〟〝竜族〟の戦争だな」


 当然ながらスカインも知っているこの話。


 物語を要約すると、


 元々は三人いた神様が世界を統治していたが、欲の強い人型種族の魔族と、魔物達の王である竜族が「我最強! 我従わず!」と逆らった事がキッカケで戦争が始まった。


 喧嘩をふっかけたのは、魔族も竜族も特に力の強い〝魔王〟と〝竜王〟と呼ばれる存在で、神達に匹敵する力を持っていたらしい。


「最後がどんでん返し過ぎて、編集による打ち切りかよとか思っちゃったけどね」


「どんでん返し? 打ち切り? よく分からないが、この戦争こそが人類発展のキッカケだと言うことは明白だな」


 そう、三闘戦争物語の終わり方は、なんというか恐竜の時代によく似ている。



 神族はこの世界のどこかに封印され、


 魔族はその数の殆どを減らし衰退、


 竜族は霊魂を残して全て朽ち果てた。



 結果としてみたらギリギリ魔族の勝利かと思われるが、封印される前に神族がある種族に力を分け与えた事で、戦争が一気に終結する。


 戦争を終わらせたのは人族。


 残っていた魔族を倒し、世界の真ん中に国を作って栄えたとされている。


 もう完全に俺たち哺乳類の祖先のエピソードと被る。これに関しては魔族も竜族も「誰だお前」って思ったに違いない。


「完全に滅んだのは竜族だけだもんね」


「生きていたら一頭で星7はあるだろうな。元々、総数はそんなに多く無かったと聞くが」


 流石は魔物達の頂点。

 ニコロより更に一つ上の存在か。


「俺さ、夢の中で〝神様に会えれば元の世界に戻れるかもしれない〟って言われてさ、それを励みに今まで頑張ってきたんだ」


「……」


「神様っていうのは、封印されてるだけでどっかにいるんだよね? 探せば元に戻れるかな」


 希望薄なのは分かっている。


 薄くともこの希望を失ったらもう、俺は頑張れない。


「家族――それが元の世界にこだわる理由か?」


「うん。折角スカインと仲良くなったのに申し訳ないけど、俺はやっぱりあっちがいいんだよね」


 魔法は魅力的だが、

 家族には代えられない。


 一瞬――スカインがとても寂しそうな顔を覗かせたのを、俺は見てしまった。


 まだ一年という短い時間しか一緒にいないが、彼だってもう俺の家族のような存在だ。


 なんの力も持たない俺をここまで強くしてくれている。本当の父親よりも、父親のように思えてしまう。


「……別の世界からやって来た者がいた前例はある。だから俺はお前の話を信じたんだ。来る方法があるなら、帰る方法もあるだろう」


「本当?!」


 俺以外にも別の世界から来た人間がいる?


 どんな世界のどんな人かも分からないけど、その人がもし生きていたら、何か有力な情報が得られるかもしれない。


 けれどもスカインは期待感に胸躍らせる俺に対し、申し訳なさそうにため息を吐く。


「残念だが、その人物はとうに死んでいる。何かしらの文章は残しているかもしれないが、戻る事は叶わなかったのだろう」


「そう……なんだ」


 あからさまに落胆する俺へ、

 スカインは困ったような顔で続ける。


「希望を持つのは良いことだが、希望に寄りかかり過ぎれば、失った時に立ち直れなくなる。立ち直れなくなったら終わりだぞ」


 確かに、そうかもしれない。


 現実世界に帰る事だけを見て走っていたら、そこまでの道が無くなってしまった時に俺はきっと絶望する。


「じゃあしばらくはスカインで我慢だな」


「おい失礼な奴だな」



 希望を捨てず、すがり過ぎず、か。

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