第8話「魔法訓練開始」

 


「今日から魔法の練習?」


 日課となっているニコロのブラッシングの最中、唐突にスカインが切り出した。


 さかのぼる事八ヶ月ほど前に生活魔法を覚えて以降、一つも新しい魔法を覚えていない。


 本に載っていた魔法は生活魔法だけだったから覚えようがないのだけど、スカインは徹底して体づくりと魔力量増加のみを訓練内容としているため聞く機会も無かった。


 魔力の使い道と言えば食事の支度、片付けの時と常に体の周りに纏って戦闘訓練を行う程度。


 もはや俺の中で魔力は〝家事に便利で、格闘の補助になる物〟という認識になりつつあった。


「そうだ。基礎的な体づくりは十分出来ている。次から魔力量を増やす事と魔法技術の向上を特訓内容に加える」


「加えるって……体力訓練は継続なんすね」


 俺の言葉を、まるで聞こえていないように聞き流すスカインが岩場の方へと歩いていく。


「もっとやれ」とせがむニコロの頭を撫でた後、彼について行く。


 岩場に着くと早速、スカインはいくつかの岩を値踏みするように見渡し、一つの岩の前で止まった。


「まず今から覚えてもらう魔法は〝撃ち抜く水〟という戦闘魔法だ。矢か槍を想像して撃つといい」


 一際大きな岩に向け、ゆっくりと手を突き出す。


「!!」


 直後――岩の真ん中に綺麗な穴が空く。


 俺はその場に立っていられず、

 なぜか反射的に胸を押さえていた。


 息苦しい。

 体が震える。

 それにこの汗の量はなんだ?


「どうした?」


「い、いや、なんでもない」


 よく分からないけど、

 単なる目眩のようなものじゃない。


 魔力に当てられたというよりは、あの穴がどこか、俺の胸に開けられた穴に酷似していたから……だと考えられる。


 綺麗にくり抜かれた円形の穴は、俺の胸に、そして洞窟に開けられたソレと同じに見える。


「……」


「なんだ? 調子が悪いなら日を改めよう」


「いや、大丈夫」


 平然を装ってみるものの、

 心臓がバクバク鳴っているのが分かる。


 この魔法、間違いなく俺の死因だ。

 誰かがこの魔法を使って俺を殺した。


 そんな俺にはお構いなしに説明を再開するスカイン。


「いいか? 横の岩の真ん中を狙うんだ。威力としては半分まで抉る事が出来れば合格点だが……」


 手のひらに魔力を集中し、

 あの時の痛みをイメージする。


 速く、そして鋭い。

 回転も加え貫通力を高める。



「撃ち抜く水」



 放たれた魔法は岩を貫通、

 更に後ろの岩も貫通した後、

 森の奥へと飛んで行った。


 途端にさっきとは比べ物にならない目眩に襲われ、たまらずガクンと膝が折れる。


 なんだこれ? 体おっも。


 水中で重りをつけられた時より重い……というより、だるい。


「大した威力だが、いったいどれ程の魔力を込めたんだ? お前の魔力量は普通のそれとは違うはずなんだがなぁ」


 スカインは感心したような、それでいて呆れたように穴の空いた岩を見つめながら、腰にぶら下げていた水筒を渡してきた。


 水筒といっても筒状のあれではない。

 魔物の胃袋を干して作ったものだ。


「……水?」


「違う、飲んでみろ」


 言われた通りそれを飲むと、

 普段口にしているお馴染みの味が広がった。


「それは薬草の〝コレスト〟を水に浸した物だ。いつも飯の時に出してる、あの赤い植物だよ」


 確かに食事のたびに赤い野菜が並んでると思ったが、あれには何かしらの効力があったようだ。


 ただの青臭い植物だと思ってた。


「これにはどんな効果が?」


「簡単に言えば魔力増強薬だな。コレストはオーヘルハイブ大森林でも限られた場所でしか採れない貴重な植物だから王国でも高級品だ。有り難く飲めよ?」


 なるほど、ドーピング的なやつか。


 とはいえ高級品とは……小腹が空いた時に隠れてぽりぽり食ってたのマズかったかな。


「もっと細く鋭く素早くだ。明日から、魔力が無くなるまで魔法練習。無くなったら体力訓練。終わったらまた魔法練習だ」


 当然かのように語るスカイン。


 ここが魔物も出ない平和な森なら、明日にでも逃げ出したいくらいだがそうもいかない。


 生きて王国に行くため、現実世界に帰るためだ。




*****




 魔法訓練が組み込まれてから二ヶ月。


 俺の一日のスケジュールはこんな感じになっている。


 朝から昼→魔法訓練(魔力が切れるまで)

 昼から夕方→体力づくり(魔力使わず)

 夕方から夜→魔法訓練(魔力が切れるまで)


 魔力が切れるまでひたすら戦闘魔法を撃つのは、正直今までの体力づくりよりもつらい。


 隠れて魔力増強薬を食べ過ぎたせいか、俺の魔力量は普通よりもかなり多くなっているらしく、使い切るのに数時間かかるのだ。


 戦闘魔法は〝撃ち抜く水〟に加え、各系統の〝撃ち抜く〟をローテーションしている。昨日は〝撃ち抜く炎〟だったから、今日は〝撃ち抜く風〟だ。


 それに、魔法には自動追尾なんて親切な補正は付いていない。


 動かない的に当てるだけなら簡単だが、今はスカインが投げた小石を素早く撃ち抜く訓練に切り替わっている。


 それには尋常じゃない集中力、魔力が抜ける倦怠感、正確に魔法を形作るだけのイメージ力の三つを同時に相手しなければならない。


「次、四つだ」


 やった事はないが、

 まるでクレー射撃のよう。


 宙を舞う石の大きさ、距離はまばらであるため、イレギャラーな事態にも対応できる余裕も持たなければならない。


「〝撃ち抜く風〟〝撃ち抜く風〟〝撃ち抜く風〟〝撃ち抜く……〟うげっ!」


 そして、たまーーにスカインが俺目掛けて石を投げてくるからそれを最優先に落とさないと痛い目を見る。


 スカイン相手に残りの魔力量を誤魔化すこともできないため、本当に空にならない限り訓練は終わらない。


 まるで強豪校の部活に迷い込んだ気持ちだ。


「よし、次は体力づくりの方に切り替える。まずは俺と剣の稽古だ」


「ひ、ひいぃ」


 因みに魔力が空と言うことは、

 当然〝魔力纏い〟の状態にもなれない。


 魔力纏いの補正がなければ体は重く、

 スカインの攻撃は普通に痛い。



 俺もうこの部活やめるぅ!!

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