◇
「リオン、着がえろ!」
狭いチャンプの部屋で、押し問答するのが、隣りの調理場の女将にはまるぎこえだった。
「いやだっ。なんだって、また女の恰好なんだよ!」
あくまでチャンプのお仕着せを拒むリオン。
「リオン、頼むからいうことをきけっ」
どちらも必死の形相だ。
「いーやーだ! あんたが着ればいいだろっ」
顔中、口にして口角泡をとばしあう二人。
「俺に似合うはずない……じゃねえ、そういうわけにいくかっ」
リオンはリオンで白い頬を紅潮させているし、チャンプは浅黒い顔をどす黒くしている。
さっきから、同じことばかりをいいあっているのだ。
「それをいうなら、なんで男だっていったらダメなんだ? あんたの趣味じゃないだろうな」
辛辣な返しにチャンプは机をひっくり返した。目をむき、頬をひきつらせて反論する。
「おまえなあっ、俺が好きでやってると思ってやがんのか? いい加減、納得しろ」
そう言われても、これだけはいかんともしがたい。
「また、おもしろがってるんだろうが――」
「必要だからだ。妹ってことなんだからなっ」
リオンは結局言うことをきく羽目に。貧しいながらの水色の薄布をまとう。夕べはここまでする準備がなかった。
青年が後ろの結い紐をゆわく。
「チャンプ」
そのとき、リオンが青年をふりあおいだ。
リオンの背をくくっていた青年は目の端を朱にして顔をそらした。
リオンは不思議そうにする。あまりにも無防備な瞳で青年を見ている。
それがチャンプにとって、いたたまれなくなってしまう原因なのだが。だが、それに気づかないようにリオン、
「あ……ちょっ、しめつけないでくれよっ」
心もとなく、か細くいうのだ。
とたんに動揺してしまった青年、どうしても手が震えてしまうのを止められない。
「ちょっとまて。これくらいならいいか?」
なんだか以前より優しくなった青年に、ちょっぴり不安になるリオン。
「なんだよ……最初に、してくれよ。これくらいだったら、大丈夫」
息をつくと、とたんに我に返った青年、
「ハッ、そんなわけにいくか! 領主んとこ行くんだからな、おまえは!」
再び胸とウエストをしめあげられる。
「うわあああっ」
リオンは絶叫した。さらにきつくしめあげられ、
「む、胸と腹と腰がぁぁっ。なんかつめもので、すごく圧迫されるぅ……っ。吐く、吐きそうっ――」
「しかたねえだろ、そのまんまじゃ女にならねえんだからっ。ずり落ちねえようにしなきゃあっ」
なかなかに苦しめられるリオンだった。
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