◆
「殺してくれるんだろう?」
チャンプは本心からのように応える。
「傷つく前のおまえになるならな」
少年は一瞬、何を言われたかわからない、という顔をした。
「……どうしろっていうんだ」
喉の奥で笑う。戯言だと思ったのか、気がそらされたのか。
頭上から朝露が滴り、リオンの目頭に落ちた。
「どうしたいんだ、おまえは。自分でわからないのか」
熱にうかされたようにリオンは強気に言った。
「もうこわくない。不思議だ」
「ほらみろ。嫌なことは忘れる薬なんだ」
チャンプは穏やかに言う。彼は腕の力をゆるめた。安心したような、慰めるような声だった。
「いやなことがあるのか?」
リオンは今までの会話をすっとばす。どうやら意識がとぎれ、記憶が断片的になっているらしい。
「おまえだ、おまえが飲んだやつのことだ」
「もうわからない。うそつきだな、忘れるんじゃなく、わからなくなった」
チャンプは胸にリオンを抱いたまま、その身を安らげるようにたたいた。
「それで、いいじゃないか」
「すごく安心だ……」
チャンプは体重を後方へ反らせるリオンを、危うく支える。一気に引き戻して青年は大きな胸に彼を包みこんだ。リオンは息を吐いた。
やさしく、青年は問う。
「眠いか」
「ねむい……」
「じゃあ帰るか」
青年のそれは甘い誘導。
「帰る……」
「計画は今度か……」
チャンプは独りで空に向かって呟いた。リオンはひとつ、大きく息を吸いこむと、安らかな呼吸で眠りに落ちていった。
「……こん……ど……」
チャンプの目も光っていた。
「ああ……今度だ。リオン」
今日のところは、ひとまずしのいだのだから。だからリオンの心にふたをして、この次はどうしても領主のところへ行くだろう。そのために約束したのだから。
「星が証人、か……」
誰も知らない、心の闇をチャンプとリオンはわけあったのだった。
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